【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.30図画工作科②北海道造形教育連盟(森長弘美会長)創造性を重視した授業づくりのポイント(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-11-09付)
◆何を表すか、教師でなく子どもが決める
図画工作科では、子ども一人一人の創造性を重視した授業づくりが求められている。示された手順や方法の通りにつくったり、何かの模倣をしたりすることで終わってしまわず、自らの発想で自分らしくつくりだす姿を目指しているのである。では、どのようにして創造性を重視した授業を作っていくべきなのか。
ポイント1 生きて働く知識
一つ目のポイントは、子どもの感覚や行為を大切にしながら知識の習得を図ることである。
図画工作科における知識の習得とは、形や色、またはそれらの感じ、特徴について理解することである。つまり、「曲線は柔らかい感じがする」とか、「色の濃さや配置の工夫によって奥行きが生まれる」などのことが分かる姿を目指すということである。
指導に当たっては、単に言葉を覚えるような知識ではなく、一人一人が自分の行為を通して理解し、活用できる知識として習得されるよう導くことが大切だ。
例えば、6年生の風景をかく題材において、一人一人に厚紙でできたフレームを持たせてかきたい風景を見付ける場面を設定する。フレームを覗く行為により、子どもは廊下が奥へ行くほど細くなって見えることに気付き、その様子を表そうと工夫をする。工夫して表した体験により、その子の中に奥行きを表す形や色の特徴が知識として習得されるのである。
このようにして感覚や行為を基に得た知識は、他の題材での学びや別の様々な体験と結びついて生きて働く知識となり、やがて、その子らしさとなってその後の造形活動や他教科の学習などで発揮されていく。
ポイント2 思いに基づいた技能
二つ目のポイントは、自分の思いを基に表し方を工夫する中で、紙や粘土などの材料や、はさみや彫刻刀などの用具を使う技能を発揮できるよう導くことである。
画用紙に自分でかいた模様を見るうちに、海のようなイメージが思い浮かび、波の形に切りたくなる。それから、はさみを使った曲線や直線、鋭い角やアーチの形などの工夫が始まり技能が育まれるというような授業が望ましく、あらかじめ印刷された線をはさみで切ることで創造的な技能を育成することは難しい。つまり、技能は一人一人の思考力・判断力・表現力と一体となって働く力なのである。
初めて出会う材料や用具については、それを用いてどんなことができるのか、どのような面白さがあるのか、試しの時間を設け、子ども同士で話し合わせるなどの手立ても有効だ。同時に安全面への指導をすることも考えられる。この時、試したことが練習として切り離されることなく、題材の一部として子どもの思いへとつながるよう計画することが大切である。
ポイント3 表したいことを引き出す題材
「かきたいこと、つくりたいものが思い浮かばない」という声が子どもから聞かれることがある。このような姿に対しては、発達に応じた題材や手立ての工夫が必要だ。
例えば、低学年の子どもは、活動を進める中で生じた感覚や気持ちを基に表したいことを見付けることが多い。とりあえずクレヨンを走らせてみたり、友達の真似をしてつくったりする姿に柔軟に対応し、表したいことがはっきりとし始めたタイミングを捉えて認めたりする関わりが大切である。
中学年になると、「画用紙を筒状に丸めて覗いたら、アリの巣の中の様子を思い付いた」というように、形や色とイメージとの結びつきが一層強くなる。したがって、存分に触れて考えられるよう材料の量を考慮したり、繰り返し活動し、つくり、つくりかえられるような時間を保障したりする必要がある。
さらに高学年になると、感情を形や色に表すことを通して自分を見つめることもできるようになる。他者や社会との関わりをもたせたり、自分の夢や願いを伝えたりするなど、題材に意図や目的をもたせることで、表したいことを引き出すことが可能だ。
どの学年でも、何を表すかを決めるのは、教師ではなく子どもであるという点に留意して、子どもの創作意欲をかきたてる題材や手立てを工夫するべきである。
◎創造性…社会をつくりだす力
こうして育成された創造性が、将来的に文化や生活、社会そのものをつくりだす力につながるということも忘れてはならない。
身の回りに溢れる形や色の美しさ、自らの生活を美しくより豊かにする造形や美術の働き、過去・現在・未来と受け継がれ多様に発展していく美術文化について理解し、自分らしく社会をつくる力を図画工作科の学習で育成している。
(札幌市造形教育連盟 研究副部長 札幌市立稲積小学校 教諭 三浦真奈美)
※次回は、「分かる・できる・楽しい授業づくりのポイント」を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-11-09付)
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