【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.32美術科編②北海道造形教育連盟(森長弘美会長)変わる学校教育と“題材選び”(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-11-14付)
◆3年間見通すカリキュラムデザインを
ポイント1 大切な「三つの柱」と「資質・能力」とのかかわり
学習指導要領改訂で学校教育は、知識の「習得」から「活用」へ、「教える」から「主体的な学び」へと大きく舵が切られている。全教科で育成を目指す資質・能力として、①生きて働く十分な知識・技能②それらを基盤として答えが一つに定まらない問題に自ら解を見出していく思考・判断・表現力③主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度・人間性の「三つの柱」に整理された。
美術科では、造形的な知識や技能の習得を基盤として自由に発想を広げ、自分なりの主題を生み出したり、のびのびと表現活動に取り組み、創造活動の喜びを感じることができたりと、題材を通して身に付けさせたい「資質・能力」を明確にした授業づくりが求められる。では、題材を考える時、どんな点に留意したらよいだろうか。
ポイント2 題材設定をするときの3つの留意点
(1)生徒は取り組むべきことが分かっているか
「主体的な学び」とは生徒自身が興味をもち、目的を認識し、見通しをもって学習活動に取り組むことである。どんな活動をどれくらいの時間で行うのかを提示することは、生徒が見通しをもつために大切だが、「やってみたい」と思わせるには、「何を学ぶのか」だけでなく「なぜ学ぶのか」という題材の「目的や価値」について考える時間の設定が大切である。たとえば、工芸を扱う題材であれば、1時間目の導入で鑑賞の授業を設定し、工芸作品が生まれた歴史背景について鑑賞したり、素材の違う作品を実際に使ってみて使い心地や素材のよさや美しさについて考えてみたりするなど、生徒の心が揺さぶられる仕掛けが重要である。
(2)生徒は題材の中にやりたいことが見つけられるか
身に付けさせる資質や能力を考えるとき、表現と鑑賞の活動を生徒の内面に重点を置いたものになるよう注意を払わなくてはならない。もちろん、自分の表現意図に合わせてのびのびと表現するためには十分な基礎的・基本的な技能習得の積み重ねが必要である。例えば、平塗技法、レタリング、デッサンなどがそれである。
しかし、技法は、生徒自身が表現したいイメージや意図を実現させる「手段」であり、その習得だけが題材の目的とならないよう注意が必要である。よって題材設定は、その目標に合わせて生徒が自分なりのイメージを広げたり、深めたりして作品に自分なりの「価値」をもつことができるかが求められる。
一方で、生徒がイメージづくりに困ったり、行き詰まったりする場面は必ずある。そこで、授業デザインにおいて、互いに作品を見合う事ができる座席配置を工夫したり、グループ間交流の場面をつくったりするなど、生徒間で刺激し合える場面を設定することも重要である。意図的に「対話的な学び」が生まれるような場面を演出することにより、自分と異なる考え方に触れたり、向き合ったりすることで、自分の考えを形づくったり、広げたり深めたりすることができる。
(3)生徒は表現することができるか
題材の中にやりたいことが見つかっても、学んだことを活用して表現ができる十分な知識・技能が身に付いていなければ作品を作り上げることはできない。作品を鑑賞する場合でも、基本的な見方や考え方を学んでこそ、造形的な視点でものを見たり感じたりすることができる。「深い学び」とは生徒が身に付けた資質・能力が活用・発揮されていくことでさらに伸ばされたり、新たな資質・能力が育まれたりしていくことである。表現活動に必要な造形的知識、基礎的・基本的な技能を身に付け、段階的に発展させたりつなげたりして主体的に表現活動に取り組むことができるように「3年間を見通したカリキュラムデザイン」をしっかりと立てることが大切である。
また、生徒一人一人の特長や課題に合わせて、振り返りの記述や制作過程の作品に目を通しておき、生徒に聞かれたときに適切な助言ができるようにしておくなど、生徒の様子を観察しながら柔軟に対応することも必要である。
ポイント3 題材設定時の「セルフチェックポイント」
題材の展開について「教師の関わり」と「具体的な手立て」を照らし合わせて考え、ねらいのある授業展開を行いたい。
これらのセルフチェックポイントに照らして題材の構成を見直したり、行った授業について振り返ったりすることで、日々の授業改善につなげていきたい。
(札幌市造形教育連盟 研究副部長 札幌市立新陵中学校 教諭 市川雅基)
※次回は、札幌小学校英語活動研究会「第3学年における授業づくりのポイント」を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-11-14付)
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