【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.37中学校理科編① 北海道中学校理科教育研究会(小路徹会長) 課題探究的な学習の展開
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-11-28付)

伝えたい道中理①山岸教諭の図
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◆生徒自らの“問いかけ”が学びの原動力

 市立札幌開成中等教育学校は、国際バカロレア(以下IB)の教育プログラムを活用した札幌市の課題探究的な学習モデル研究校である。本校の実践および課題探究的な学習を紹介する。

ポイント1 Unit(単元)を綿密に計画する

 IBは国際バカロレア機構が提供する国際的な教育プログラムである。国際的に通用する大学入学資格を与え、大学進学へのルートを確保することも目的としている。よって共通のルーブリック(評価規準、基準)のもと、教師はIBのUnit planner(単元計画)のフレームに指導計画、授業方法、評価計画を作成する。一つの授業より一つのUnit(単元)を綿密に計画し課題探究的な学習を可能にすることは一般的にも重要である。

ポイント2 「理科」で探究すること、それを伝えること

 MIPの指導の手引き「理科の本質」の中から課題探究的な学習に必要なことを取り立ててみる。(※項立ては筆者、他は原文)

①科学と日々の生活のつながりを探究する

 科学と日々の生活の間のつながりを探究しなければなりません。生徒は、科学の応用の実際例を調査する中で、科学と、モラル・倫理・文化・経済・政治・環境などといった事柄が、お互いに刺激し合い、頼り合う関係性を発見します。

②科学的探究

 科学的探究は、調査や計画を行う、仮説を立てる、1つの説明だけに終わらず別の可能性を探る、等のことに関して、批判的で創造的な思考を養います。生徒は、他の生徒の考えを理解して尊重することを学び、倫理的に優れたやり方で理論を展開させるスキルを身につけ、地域および国際社会の一員としての責任感をさらに発展させます。

③科学的用語を用いて話す、書く、視覚的に伝える

 生徒が、口頭、筆記、および視覚的に、正確に自信をもって科学的知識にアクセスしてそれを用い、伝えることを可能にするものでなければなりません。

ポイント3 探究に必要な「問いかけ」をする

 指導の手引きの最初に「科学する心をもつ人とは、正しい答えを求めることよりむしろ、正しい問いかけをする人である」とある。課題探究的な学習は、探究と協働学習をベースとし、その学びの原動力は生徒が自ら「問いかけ」をすることにあると考える。

 自ら「問いかける生徒」を育むために、教師は単元を通した探究のテーマと探究の問いを提示し、生徒の「問いかけ」を支援する。例えば本校3年理科Unit「生命の連続性」では探究のテーマを「祖先の持つ特徴を受け継いできた自然界の遺伝とはどのようなシステムで、近年、人為的に遺伝子を操作する科学技術の革新をどのようにすすめていけばよいのだろうか(略)」とした。テーマに近づくための足場かけとなるよう、「生物が成長するとき細胞の変化は?」「植物の細胞分裂を写真におさめるには?」「生殖から成体まで細胞の変化は?」「遺伝の規則性とは?」などの探究の問いを設定し、生徒自らが「問いかける」ことを支援する。

 そして、先の探究の問いに対してまとめたことを、レポートや動画などで提出する。このとき、探究の問いを自らに問いかけ、自分の課題として取り組むと学びは進みやすいが、教師から与えられた課題(やらなければならないもの)として取り組むと、推進力が落ちることがある。教師の計画の見直しや、生徒の学び方を支援することが必要となる。

ポイント4 科学的探究サイクルを身に付ける

 科学的探究は次のサイクルと目標で行うようにしている。自ら考えて取り組み、このサイクル(=図)を身に付け、振り返り、次の課題を見いだすことが重要となる。

ポイント5 探究を明確化する

 Unit「生命の連続性」の最後の探究の問い「ゲノム編集した食品を開発すべきか?」では、ディベート(議論)を行い、自分の考えを根拠と共に科学的知識や用語を用いて伝える、議論する場を設定した。中学生には高度なゲノム編集を題材としたが、それまで自らに「問いかけて」学んできたことが、人との交流や社会的な文脈の中で、活用され経験として内在化して課題探究的な学習が確かなものにしていくことが重要である。

(北海道中学校理科教育研究会 研究部副部長 市立札幌開成中等教育学校 教諭 山岸陽一)

※次回は、「学び合いのポイント」を掲載します。

(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-11-28付)

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