【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.40中学校理科編④北海道中学校理科教育研究会(小路徹会長)ワークシートや教材・教具の工夫
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-12-05付)

伝えたい40回道中理
シリンジで繰り返し実験を行う様子

◆生徒が考え、探究する思考過程を見取る

 新学習指導要領では、方向性として「何ができるようになるか(資質・能力の育成と、学習評価の充実)」、「何を学ぶか(資質・能力を踏まえた目標・内容)」、「どのように学ぶか(主体的・対話的で深い学び)」が示されている。新学習指導要領解説理科編においては、「資質・能力を育むために重視すべき学習過程のイメージ(高等学校基礎科目の例)」として探究的な学びの授業展開例が示されている。これまでも生徒が主体的・能動的に学ぶため、そのための手立てを模索し多くの実践が行われてきた。より効果的に探究的な学びを促すために教材や教具、ワークシートを工夫することも授業展開を考えることと同様に重要である。生徒一人一人が考え、探究するためには、どのような教材・教具が適しているのか。また、生徒が探究的な学びを行った際には、どのようにして生徒一人一人の思考の過程を見取ることができるのか、これらのことを教師は考慮して授業を構築することが大切である。

教材のポイント

 教材・教具について重要なことは、「生徒の学びにとって本当に必要な教材や教具になっているか」という点である。特に自作教材などは、教師の思いが強くなりがちであり、いつの間にかその教材を使うことが前提になってしまい、生徒の思考から乖離してしまうことがある。

 さらに、生徒の探究的な学びを実現するためには、「短時間に、繰り返しできる」という点を重視する。生徒個々の思いをもとに、授業を進める探究的な学びにおいては、「1回の観察・実験で、全員が正確な結果を得る」ことは難しい。結果的に生徒全員が同じ観察・実験を行うことで自然事象を理解することはあっても、そこに至るまでの過程は個々で異なる。だからこそ、個々の思いが解決できるように、「短時間に、繰り返しできる」ことをポイントに教材・教具づくりを行う必要がある。

 例えば、「気体の発生と性質」では、身の回りの代表的な気体の性質を調べた後、未知の気体を封入した10㍉㍑シリンジ5種類を用意し、生徒が計画した実験で、何という気体か同定、検証する授業を行った。10㍉㍑のシリンジを用いることで、自然に生徒は危険な量を扱わないように配慮することができると同時に、短時間で実験を行うことができるので、自分たちの疑問を解決できたり、繰り返し検証したりすることができ、能動的に取り組む姿が見られた。

 また、自作教材ではなくても、教材を多めに準備し、授業展開を工夫することで探究的に学ぶことができる。「化学変化と原子・分子」の水の電気分解などは、水素と酸素に分解されるという仮説を立て、電極による気体の検証方法を指定しないで授業を行った。安全面から水素の検証を必ず先に行うこととして、両極にたまった気体の検証を行った。電気分解が容易にできることから、1回目で気体の同定ができなかったグループも、「こっちがきっと酸素だ」と進んで追実験に取り組む姿が見られた。

教具のポイント

 教具に関しては、その教具で「どのような力を育みたいか」、そのねらいによって教具の数を考える必要がある。例えば、生徒一人一人が考えをもつことをねらうなら、生徒の人数分の教具が必要となる。また、生徒個々で考えるには困難性が高いものに関しては、グループなどで話し合い、様々な角度の考えから進めることになるので、グループの数の教具を用意する必要がある。

 また、教具については「生徒が何となく触ってみたい、動かしてみたい、繰り返し動かすことができる」ことが大切である。言葉ではうまく表現することができない生徒であっても教具を触ることで、考えが浮かぶきっかけになり、課題解決に貢献した実感がもて主体的に活動できる。

ワークシートのポイント

 生徒の探究的な学びを見取るためには、「生徒の思考の過程を表現できる」ワークシートを作成する必要がある。例えば、生徒がPDCAサイクルを意識することができるようなワークシートがある。ワークシートをP(Plan、観察・実験の仮説、目的、方法)からD(Do、検証の結果、考察、結論)、C(Check、自分の取り組みを振り返り、分析)、A(Action、今後の授業で活かしたいこと)に大きく枠を分け、記述できるようにしている。また、「生徒が消さないでよい」ワークシートになるように意識する。そのために、Dの部分には大きなスペースを取り、繰り返し実験を行った結果を記述できたり、追実験を記入できたりできるようにする。

 生徒は、正しいことを書かなければいけないという気持ちから、仲間と意見が違う場合、自分の記述を消してしまうことがある。そこで、仲間の情報を記録できる枠を設け、自分と仲間の情報から結論を導き出すという授業展開を行い、それに沿ってワークシートを記述していくことで、生徒は自分の思考の過程を記録し、教師がその取組を授業での様子から見取るだけでなく、ワークシートからも見取ることができる。

(北海道中学校理科教育研究会 研究部 札幌市立美香保中学校 教諭 伊藤雄一)

※次回は、北海道特別活動研究会「小学校低学年の学級会におけるポイント」を掲載します。

(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-12-05付)

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