【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.39中学校理科編③北海道中学校理科教育研究会(小路徹会長)最適な学習環境のポイント(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-12-03付)
考えの交流にいつでも使えるホワイトボード
◆整理整頓で事故防止・人的環境の醸成を
生徒にとっても、教師にとっても、よりよい学習を行うためには、学習環境を整えることが必要となる。この度の学習指導要領改訂において、理科の学習を通じて育成を目指す資質・能力の全体像や、理科の学習を通じて働かせる「理科の見方・考え方」が示された。理科で求められる資質・能力を育成する観点から、知的好奇心や探究心をもち、自然に親しみ、見通しをもって実験、観察などを行い、その結果を整理し考察するなどの科学的に探究する学習活動の充実や、理科を学ぶことの意義や有用性の実感及び理科への関心を高める観点から、日常生活や社会との関連を重視している。そのため、身近な自然の事物・現象を経験や画像資料に頼るだけでなく、学習の場でできるだけ直接的な体験をすることが、重要となる。
理科における体験とは、観察、実験、ものづくりなどがある。こうした具体的な体験を通して生徒の確かな技能や豊かな心情を育むとともに、主体的・対話的で深い学びを目指している。学校内に限ると、直接体験をする多くの場面は理科室が中心となるため、理科室の環境というのが大変大きな影響を学習者に与える。学習環境は大きく①観察、実験のための材料や器具をふくむ「物」がある学習場所としての『物的環境』と②学習習慣、集団づくり(支持的な風土)、教師などの「人」がつくり出す『人的環境』とに分けられる。ここでは、主に①の『物的環境』の基礎・基本についてあげるが、当然のことながら両者は密接なかかわりがある。
ポイント1 どこに何があるのか、どのように使うのか“生徒”がわかる環境
実験、観察の活動においては、生徒が、自然の事物・現象から課題を見いだし、観察や実験などの活動の中で、予想や仮説を交流するためにホワイトボードやモデルを用いたり、予想や仮説を確かめるために器具や機器を操作し、結果を導き出したりすることが大切である。そこでは、器具や機器を適切に、安全に操作する実験、観察の技能が育成される。そのため「子どもたちの欲求(必要性)に応じて、器具や道具を使用できる環境」であることが、物的環境の基礎・基本である。
例えば、「電池・導線・豆電球(電子オルゴール)」セットをつくっておくと、2年次からは「電流が流れるか調べたい」となれば、収納されている場所から生徒が自主的に持ち出し、内容物を確認して元の場所に戻すことができるようになる。これを維持するためには、もちろん「あった場所に、前よりきれいな状態で、消耗したものは補充してもどす」といった人的環境も当然のように醸成されなければならない。
次に、生徒が自ら自然の事物・現象の中に問題を見いだし、目的意識をもって実験、観察などを主体的に行い、得られた結果を分析していく学習の過程において、何らかの「気づき」を促すような掲示物を意図的に配置しておくなどの工夫も考えられる。関連性のある画像や人物、法則の紹介が、単元ごとに変化するなども含めて、生徒に知らせる、知らせないにかかわらず、重要な物的環境となる。
これらの掲示物の作成を生徒が行うような取組を継続的に行うと、関連する知識の定着や他分野、他領域とのかかわりへの意識の高まりが生まれ、やはり学習習慣といった人的環境の醸成にもつながる。
例えば、月の満ち欠けや裏側の写真や立体模型を展示しておいたことにより、「月はいつも同じ面が見えている」という疑問をもった生徒の考えを課題として共有し、学習活動を展開することができた。その際、2年次より原子やイオンのモデルとして利用してきたマグネットを、月や地球に見立てて利用し課題解決に向かう姿も見られた。
ポイント2 どこに何があるのか、どのように処理するのか“教師”がわかる環境
複数の教師が利用することや安全面を考えても、理科室や準備室は、常に整理整頓された状態で使用できるように、用具・器具等の置き場所を定めるとともに、用具・器具等の破損や不足がないか整備点検することも物的環境の重要な要素である。
特に、薬品庫、薬品台帳の整理であるが、消防法で定められているように、保管や取扱いについては、注意深く行わなくてはならない。どのような薬品を所有しているのか、個々の薬品の性質を知った上で、保管、記録することが重要である。使用するたびに使用量を記録して薬品の保管量が一目でわかるような「記録簿」は必須である。このような取組が、紛失・盗難といった事故を未然に防ぐことにつながり、人的環境の醸成にもつながると考える。
(北海道中学校理科教育研究会 研究部副部長 札幌市立札苗北中学校 教諭 村上知嗣)
※次回は、「ワークシートや教材・教具の工夫」を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-12-03付)
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