【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.38中学校理科編②北海道中学校理科教育研究会(小路徹会長)学び合いのポイント
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-11-30付)

伝えたい!道中理②
ポスターセッションをする生徒たち

◆双方向に必然性ある交流を生む工夫を 

学校は、多様な個が集まった集団である。そのため、集団での活動が数多く存在する。それは、集団がもつ協働性の機能が生徒個々の成長につながるからである。話し合いやグループ活動のみならず、生徒相互のコミュニケーションを土台とした学びである「学び合い」においても、活動が個々の学びによって、どのように機能していくのかが重要である。

ポイント1 学び合いによる自己の学びの深まり

 例えば、計算問題やグラフ作成、化学反応式などを苦手とする生徒は少なくない。このような個々の生徒に差が生まれやすい学習内容においては、一斉授業に加えて、生徒の状況に合わせた個別の対応が必要な場合がある。しかし、限られた時数の中で、これらの内容の比重を多くすることも難しいのが事実である。

 また、TT(ティーム・ティーチング)や少人数指導も、学校事情によっては十分な対応ができないところもある。

 そのような学習内容の際には、学び合いを通した学習が有効である。理解の早い生徒には「教師役」を担ってもらい、わからない生徒へ教える。この学習方法では、「①教える側の人数を増やすことで、苦手な生徒を幅広く救うことができる」という利点がある。加えて、もう一つ「②人に伝えることで自己の学びが深まる」という側面がある。理解していることを人に伝えようとする時、知識を一度整理し、分かりやすい言葉や図に再構築して伝達する必要がある。自ら学びのプロセスを振り返り、知識の咀嚼・反芻を繰り返して発信することこそが深い学びにつながり、「③コミュニケーション能力の向上」にもつながる。まさに、教える・教えられる相互の個々の学びに機能している。

 なお、この学び合いの活動は多くの小学校や他教科でも取り入れる機会が増えており、校種縦断的、教科横断的に行うことで、さらに効果も増してくると考える。

ポイント2 学び合いの必然性

 また、理科の場合は実験、観察の中で「交流」をすることが多いが、これも当然、学び合いの機会となる。データをより多く収集することで、規則性を導き出すことができたり、他者の考えを聴くことで、新たな視点がうまれたり、自分の考えに自信をもてたり、思考や価値意識をひろげたりすることができる。しかし、ここで重要なのが学び合いを行う「必然性」である。授業において、コミュニケーションの機会を増やす目的で交流時間を教師側が設定することがあるが、生徒が主体となる活動でなければ不十分な学び合いとなることがある。学び合いとして「交流」を行うのであれば、生徒が手を伸ばして情報を欲しくなる状況や、一人では解決しづらい課題に直面した時に交流時間を設ける必要があり、それらの経験を積み重ねることで、生徒は自ら進んで行うようにもなる。このため、「必然性」を生み出すためには、授業の課題設定はもちろん、既習事項を課題解決に生かせるような単元の流れや、交流の方法、学習形態など様々な面で工夫すべきことがある。

ポイント3 交流の方法

 交流の方法については、MD(マーケティング・ディスカッション)法やジグソー学習、交換実験法など様々な形式がある。これは理科に限らず、様々な学習において用いられる方法であり、学び合いを導く学習形態である。

 調べ学習の交流においても、学び合いをより機能するための工夫がいくつも考えられる。例えば、班でポスターをまとめて学級内で発表する時も、学級の前に出て発表する方法では、発表者が一方的に伝達することが多くなる。質疑応答や相互評価用紙などを用いても、なかなかコミュニケーションを活性化することができない。

 そこで、ポスターセッション形式の発表を取り入れた例を紹介する。中学3年生において、理科の授業の集大成として、「札幌市を低炭素社会にするためにはどのような方法があるだろうか」という課題で学習を行った。班毎にエネルギーや日常生活に目を向けて、今までの学習内容を生かしながら、科学的根拠をもとにアイディアを出し合い、それぞれの提案をポスターにまとめていった。これらのポスターを交流する際、1つの教室にすべてのポスターを貼り、聴き手が各班のポスターのところへ行き、発表者の説明を聴く方法をとった。ここで大事なのは、発表時間を簡略化し、聴き手との対話時間を多くすること。発表者に対して、分からないところだけではなく、自分の意見も述べるようにすることで、単純なやり取りにはならない。様々な解が存在する課題だからこそ、交流には必然性もある。ある班の提案に反対意見が出た場合などは、ディスカッションのようなやり取りが生まれた。

 新しい学習指導要領でも、「主体的・対話的で深い学び」の実現が求められており、学び合いは有効な手段と考える。上記に述べたようなポイントに留意しながら機会を増やしていけると良い。

(北海道中学校理科教育研究会 研究部副部長 札幌市立新琴似中学校 教諭 寺田晋哉)

※次回は、「最適な学習環境のポイント」を掲載します。

(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-11-30付)

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