【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】№45中学校編①北海道社会科教育研究会(吉井惠洋会長)地理的分野における「主体的に社会に参画できる資質・能力の育成」
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-12-19付)

伝えたい45
課題を明確にし、解決までの流れを説明する結城教諭

◆協働学習で効率よく多様な意見に触れる

1 はじめに

 2030年。「今の子供たちやこれから誕生する子供たちが、成人して社会で活躍する頃には、我が国は厳しい挑戦の時代を迎えている」(新学習指導要領解説 第1章総説)。第4次産業革命と言われる現代。AI、IoT、グローバル化の進展はまさに日進月歩、いや、秒進分歩である。東京五輪の10年後の社会がどうなっているのかの予測は困難を極める。

 そんな不確実な時代において、唯一確実なことは社会の変化が続くことである。これまでの常識が通用せず、社会から求められる学力も変わった。だからこそ、「教育も変らなければならない」ことを私たち教師は受け止め、研鑽を重ねていかねばならない。そして、予測困難な時代を生き抜く力を子どもたちに身につけさせなければいけないのである。

2 未知の状況にも対応できる『思考力・判断力・表現力等の育成』

 変化の激しい新しい時代の教育に必要なことは「正解のない問い」に向き合い、実効性のある「最適解」を導き出すことである。正解は一つという20世紀型学力では通用しない。

 新学習指導要領が示す、「育成を目指す資質・能力」。その一端である思考力・判断力・表現力。本研究会でも、課題解決における「思考力・判断力・表現力」に重点を置き、「最適解」を導くものとして追究していく。その理論と実践は、新学習指導要領と軌を一にするものである。以下、昨年11月に札幌市立清田中学校の結城拓先生が行った実践を報告させていただく。

(1)題材「アマゾン川流域の熱帯林開発」

(2)本時の目標 アマゾンの熱帯林開発によるメリット、デメリットについて様々な立場の意見を参考に多面的・多角的に思考し、判断して表現する。また、環境保全と開発をどう両立させていくかを考察する。

(3)授業構成 世界の「資源・食料の供給基地」であるブラジル。しかし一方で、減少の一途を辿っているアマゾンの熱帯林。開発あっての経済発展であり、日本もその恩恵を受けている。「開発」か「環境保全」かという二者択一的に開発の是非を問うのではなく、複数の異なる立場の意見に耳を傾け協働して最適解を導く構成となっている。

ポイント1 個別の知識を比較したり関連付けたりして考察する

 本時の学習課題「アマゾン川流域の熱帯林開発を今後どうしたらよいだろう?」は喫緊の地球的課題であるが、正解のない問いである。

 ここで重要なことは単元の構造化である。本単元では「ブラジルなどの発展途上国が経済発展と環境保全を両立させるにはどうすればよいだろうか」という単元を貫く問いを設けている。本単元の学習で習得してきた知識・技能を活用して、この問いと本時の課題に挑むことになる。

 前時までに、鉄鉱石や身近な鶏肉などを日本はブラジルから輸入していることを学ぶ。熱帯林の減少とそこで暮らす先住民についても学ぶ。それらの既習事項を関連付けて考えることで当事者意識が高まり思考を深めることができた。開発=悪というような短絡的な思考に陥ることもなく、ブラジルの問題をグローバルな視点で捉えながら、多くの人間の営みと関連付けて考察し、課題解決に迫ることができた。

ポイント2 多面的・多角的な視点で考察する

 本時では「先住民」「農家A」「農家B」「環境保護団体」という4つの立場を設定した。それぞれの立場で開発のメリット・デメリットを考える構成である。

 当然ながら、利害が異なるため、立場が違えば考えも違う。果たして、持続可能な開発は可能なのか。この困難な地球的課題に挑み、最後はアマゾンに見立てた画用紙で仮想の土地の分配を決め、貼り出した。そのような思考の「見える化」を図ったことで、生徒は自分の意見を主張することができた。こういった積み重ねが将来的に実社会で生きる力となり、本研究の主題である「主体的に社会に参画できる資質・能力の育成」につながったと考える。

ポイント3 クリティカルシンキングとの関わり

 自分の意見を確立するためには、複数の資料を吟味したり、多様な意見を聴いたりしなければならない。そこで取り入れているのがジグソー法的なグループ移動を伴う協働学習である。動きのある協働学習を行うことで、効率よく多様な意見に触れることができるからだ。様々な立場でそれぞれが根拠に基づく意見を交わすことはクリティカルシンキングの視点を取り入れた学習となる。また、協働学習の後、偏りのない思考で根拠に基づく自分の意見を持つことになるが、その意見が論理的な考察によるものなのか、あらゆる角度から省察するためにもクリティカルシンキングが必要になると考える。

(北海道社会科教育研究会 中学校研究部副部長 札幌市立厚別北中学校 教諭 佐藤元基)

※次回は、公民的分野「主体的に社会に参画できる生徒 思考を深めるポイント」を掲載します。

(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-12-19付)

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