【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】№47中学校編③歴史的分野 北海道社会科教育研究会(吉井惠洋会長)歴史的分野における〝主体的に社会に参画できる 資質・能力の育成〟(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-12-26付)
多面的・多角的に学ぶ上篠路中学校の生徒たちと宮田祐輔教諭
◆課題への「最適解」を導き、深い学びへ
1 研究について
科学技術の進歩により、我々は多くの恩恵を受け、様々な面で豊かさを感じる社会を築き上げてきた。一方で我が国では、少子高齢化がさらに進み、将来の生産年齢人口が減少したり、さらなるグローバル化の進展や絶え間なく続く技術革新によって社会や職業の在り方そのものが大きく変化したりする「厳しい挑戦の時代」を迎えると考えられる。こうした厳しい挑戦の時代を生きていく上で、必要な情報や知識を収集し、取捨選択して活用しながら問題を解決していくことが必要であり、これからの複雑化・多様化する予測困難な社会においては、「答えのない問題」を解決するために、「学んだことを生かす学力」がより重要性をもつ時代となると考えられる。
こういった背景から、本研究会では、「主体的に社会に参画できる資質・能力」の育成を研究主題とし、課題解決的な学習展開の研究を進めている。
2 授業実践について
以下、昨年11月の札幌市立上篠路中学校・宮田祐輔教諭の実践をもとに歴史的分野の授業づくりのポイントを説明していく。
題材 「人権思想からフランス革命へ」
本時の目標 フランス革命による社会の変化について資料を活用してまとめ、革命の価値や意義を考察することができる。
ポイント1 個別の知識を比較したり関連付けたりして考察する
本年度の研究では「考察」に中核を置いた。考察を深めるためには、教師が適切な資料を用意することが必要である。フランス革命の授業では、税負担を表した風刺画を用いることが多いが、この資料からは市民のみが重税に苦しんでいた状況から税負担が平等になったことへの変化を読み取ることができる。
今回の授業では、その資料に加えて「革命後につくられた社会」を示す資料も用意した。様々な資料を関連付けることで、より明確な根拠をもって自分の意見を構築することができた。
また、ワークシートを用いて、フランス革命をピューリタン革命や名誉革命、アメリカ独立戦争といった他国での市民革命と比較する活動も行った。このように、個別の知識の比較や関連付けをすることで、「そもそも革命における成功とは何なのか」「その後の世の中がどのように変化したのか」という大きな視点で革命とは何かを考えさせることができた。
ポイント2 多面的・多角的な視点で考察する
今回の授業では、主体的に社会に参画し、協働して問題解決する力を身に付けていくために、他者の思考と関わり合いをもち、物事を違った側面・違った立場から見てみる「多面的・多角的な見方」を意識していた。フランス革命後の社会を表す様々な資料をもとにフランス革命の成否を考える際に、「国王・政府」「貴族・僧」「市民」といった異なる立場から着目することで、「多角的」にフランス革命について考えることができる。また、「世界の革命・戦争における死者数」や「革命後につくられた憲法」などを判断材料として示すことで、明確な根拠をもってそれぞれが自己の考えを形成した。また、他者の考えを聞き、他者の思考と関わりをもつことで、着目する側面が変わると見え方が変わることに気付き、「多面的」にフランス革命後の社会について考えることができた。
このように「多面的・多角的」な視点で考察していくことで、思いつきではなく、明確な根拠として自己の考えを深めていくことができる。
ポイント3 クリティカルシンキングとの関わり
主体的に社会に参画するためには、学んだことを自在に活用して問題を解決することが重要である。そのためには、意味理解を伴った知識の習得を基に、どのように知識・技能を活用して問題を解決するのかを明確にすることが重要である。
そこで、「解決のための見通しをもつ」、「解決に必要な知識・技能を選択する」、「複数の知識・技能を比較・関連させる」などの力を身に付けることで、課題に対する「最適解」を導くことができる。しかし、これを単なる「思いつき」や「経験の当てはめ」ではなく、より深く理解したり、情報を精査して考えを形成したりする「深い学び」を行うことによって導くことで、より自分の考えを深めていくことができる。
本研究会では、社会参画につながる思考力をクリティカルシンキング(批判的思考)であると位置付け、授業実践に取り入れた。今回の授業では、フランス革命は「国王を倒して平等になったから成功」「再び王政に戻ったから失敗」といった単純な結論ではなく、考える視点を明らかにして物事の見方を身に付けさせることを目的とした。
本時では、個々の生徒が資料をもとに考えたフランス革命の成功や失敗を「そもそも革命の成功とは何だろうか?」という発問を軸に、考えを深めていった。そこで、ワークシートを用いて、「他の市民革命との比較」を革命の成功・失敗の基準として設定することで、視点を変えれば革命の成否も変化するという側面を理解することができた。
(北海道社会科教育研究会 研究推進プロジェクト 札幌市立栄町中学校 教諭 鰐渕翔大)
※次回は、小学校編「主体的に社会に参画できる資質・能力の育成」を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-12-26付)
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