【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】№46中学校編②北海道社会科教育研究会(吉井惠洋会長)公民的分野における主体的に社会に参画できる生徒 思考を深めるポイント(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-12-21付)
政策の順位決めの話し合いをする行政役の生徒たち
◆多面的・多角的に思考する揺さぶりを
1 はじめに
本研究会では、大きく変化する社会に生徒が主体的に参画していくために、「課題を解決する過程において、個別の知識を比較・関連づけたり、多面的・多角的に思考したりすることによって、生徒の考察する力」を伸ばすことに重点を置いた授業づくりを行っている。
10月に札幌市立太平中学校の中里有輝教諭が行った実践のポイントをもとに説明する。
2 授業について
・題材「地方財政の仕組みと課題」
・学習課題「自分たちにとって月形町を住みよい町にするにはどうしたら良いだろうか?」
本授業では、月形町を題材に地方自治を考えるものである。授業を行った札幌市立太平中学校は札沼線沿線に位置し、卒業後は高校への通学などでJRを利用する生徒もおり、月形町はJRで結ばれている。札幌よりも規模の小さな自治体を題材にすることで、より住民の意見や課題などを明確化することができ、さらに、他地区の地方自治についても広げていくことができる。
前時までに月形町を中心に地方財政の現状や課題について学習した。本時では、7つの立場に分けた住民を想定し、それぞれの立場から町に要求したい以下の政策の1位と2位を決めさせた。
【医療・保健福祉、産業振興、整備・安全、子育て・教育、観光・開発、定住化、交通】
最初は各立場の住民の要求だけを考えさせることに重点を置き、発表させた。さらに、行政の立場のグループが政策の優先順位と理由を発表し、住民にもう一度、住民に政策の順位を考え直させた。そして、各住民グループからは、1位のみを発表させ、政策順位が①変化しなかった②2位のものが1位になった③変化したものについて、それぞれ色分けし、理由の交流を行った。最後に、行政の出した結論も交流し、各自で本時の振り返りを行った。
ポイント1 既習の知識を比較したり関連づけたりして考察する
様々な立場に立ち考え、意見を交流することで地方自治について追体験する授業となっている。国の政治と違い、地方自治は住民に直接関わり、住民の利害が対立しやすいことは学習している。各立場から政策順位を考えさせることで対立点を明確にし、地方自治は「民主主義の学校」であることを実感できるようにした。「対立」から「合意」に至るために、「効率と公正」で考えていくことが重要であることも既習事項である。
異なる住民の要求を解決するため、町の将来や産業発展などの新たな視点を行政の発表によって導入することで、既習事項の「効率」や「公正」が重要であることに気付かせる構成にした。
ポイント2 多面的・多角的な視点で考察する
今回の授業では、まちづくりを様々な立場の住民から考える部分を多角的な視点、町の将来について、財政の効率的な運用、産業や観光の振興など自分たちの利害を超えて考える部分を多面的な視点と捉えた。住民の立場による「対立」を明確化するため、生徒には各立場の住民情報カードをもとに政策を考えさせた。対立点を明確にし、行政の発表をさせることで、財政を効率的に使い、町の将来の発展について考える必要があることに気付き、自分たちだけの利害だけでなく、町の全体像を多面的・多角的に考えていく必要性に生徒が気付くようにした。
生徒は、行政の発表後の話合いで、自分たちの要求は町の将来にどのような影響があるか、財政の効率的な運用や様々な立場の住民について考えるなど、様々な視点で考えることができるようになり、多くの人にとってより多くの利益を追求するためにはどのようにしたら良いかという視点で考えるようになっていった。
ポイント3 クリティカル・シンキングで考えを深める
クリティカル・シンキングとは一度立てた自分の考えを、批判的に再検討していくことでよりよい解決策を模索していくなど、思考を深めていく方策である。今回の授業では、最初に個別の立場の意見を考え発表してから、行政の立場を発表させることで、まちづくりについて新しい視点を導入するよう工夫した。そこで多面的・多角的に思考するよう揺さぶりをかけることで、今までの視点を超えて、より良いまちづくりとはどのようなものかを考え直すよう授業を構成している。
授業では、最初の意見から大きく考えを変えたグループや、自分たちの提案が産業などの振興に役立つことを説明するなど、思考の深まりが見られた。
(北海道社会科教育研究会 中学校研究部副部長 札幌市立北都中学校 教諭 遠藤 肇)
※次回は、歴史的分野を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-12-21付)
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