【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.28道徳科④北海道道徳教育研究会(鹿野内憲一会長)〝考え、議論する道徳と評価〟のポイント(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-11-05付)
◆共感や客観的に捉えさせる学びを大切に
◎道徳科における評価
特別の教科 道徳(以下、道徳科)の評価について、すでに実際の通知表での文例が様々な雑誌や書籍で紹介されているが、今一度道徳科が求めていることを整理する必要がある。
そもそも道徳科における評価は到達度を確認するのではなく、毎時間の生徒の学習状況を蓄積して、道徳性にかかる成長の様子を大くくりに評価することが求められている。
新学習指導要領では授業改善の視点として「アクティブ・ラーニング」が示され、それに基づき実施されている道徳科では、「考え、議論する道徳」への転換が推し進められている。一見すると、話し合い活動をイメージされがちだが、道徳科では、仲間と意見をぶつけ合うことのみを意味しているのではなく、自分のもっている考えと仲間の意見を比較することで共感したり、違った考えに対して、どうして自分と違うのかを客観的に捉えたりすることが大切である。つまり、自分自身について考え、自分自身と議論するのである。
ポイント1 〝考え、議論する〟授業
「主体的・対話的」という言葉は道徳科では「考え、議論する」と表現されている。主体的とは、自らが道徳的価値について考えることであり、必ずしも挙手して発言するといった「積極的」とは区別しなければならない。たとえ発言がなくとも、道徳的価値について問題意識をもち、考えてみたいという発問に対して自己と結びつけながら考えているのであれば主体的であると言える。対話的とは、文字通り対話であるが、その対象は生徒が自分自身と対話すること、仲間が発表した内容を自分の思考に取り入れることも含め生徒同士で対話すること、発問を通して教師と対話することなどが想定される。ここで注意しなければならないのは、対話であるから自分の考えをそれぞれが述べるだけの会話にとどまっていてはいけないということである。特に教師との対話では、教師が指導案通りの答えを求めて問い詰めたり、はじめから誘導的な問い返しにしたりしてはいけない。生徒の考えたことを尊重し、まずは聞く姿勢で授業に臨まなければならない。そうでなければ、生徒は教師が求める答えを言えば良いのが道徳科であると、あらぬ勘違いを引き起こす。そして、教師は生徒がいつも表面的な内容しか答えない、記述しないという悩みを抱えることになる。なぜなら道徳科では、生徒は自問と自省の中で道徳性を養い、その成長の様子を評価として見取るのに、表面的な内容では本来的な生徒の姿が見えないからである。
また、そういったことしか生徒から出てこなければ、評価の信憑性が大きく損なわれることになりかねない。授業の質的改善には「主体的・対話的」な授業が大切である。
ポイント2 評価で問われる授業の質
さて、授業の質に関わって確認しておきたいのが「自我関与」と「多面的・多角的」な思考である。先に述べた「主体的・対話的」を踏まえて授業を展開していく際に、生徒が読み物教材中の登場人物が置かれた状況を自分自身と重ね合わせて道徳的価値について考える場面や発問をした後の対話を行う中で教材中の問題に道徳的価値の多面性があることに気付く場面、様々な角度から総合的に考察するといった場面を教師が教材研究の段階から意識的に展開の中に設定することが大切である。
このように道徳の教科化に向けて中学校においては授業の質を向上させることを第一優先で準備を進めたい。道徳科の評価について指導要領解説道徳編(以下、解説)では「一定のまとまりの中で、…個々の内容項目ごとではなく大くくりなまとまりを踏まえた評価とし、…生徒がいかに成長したかを励ます個人内評価として記述式で行う」とされている。この記述から考えると生徒の成長をあらゆる場面で見られる担任が評価することが望ましい。ただし、中学校においてはローテーション授業も効果的であると解説で示されているのでローテーション授業を行っても信憑性をもって担任が評価できるようにしなければならない。前田中学校では、昨年度からローテーション授業を実施し、授業者が特に深まったと判断される生徒の授業中の発言やワークシートの記述などを共通のファイルに入力し、積み上げ形式で生徒の道徳性にかかる成長の様子を記録している。これらを学期末に生徒ごとにまとめ、成長の記録を見比べることで一定のまとまりの中で大くくりな評価が可能になると考え実践を継続しているところである。
最後に、評価方法を探り、どんなに効果的なものが見つかったとしても、1時間ごとの授業が「主体的・対話的」すなわち「考え、議論する」内容でなければ、評価はできないということを強く訴えたい。逆に、授業がきちんとなされていれば評価方法に振り回されることはなく、信憑性をもって生徒の成長の様子を保護者に伝えることができるのである。
(札幌市道徳教育研究会研究副部長 札幌市立前田中学校 教諭 真壁佑輔)
※次回は、北海道造形教育連盟「確かな資質・能力を育む授業」を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-11-05付)
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