【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.27道徳科③北海道道徳教育研究会(鹿野内憲一会長)指導と評価の一体化におけるポイント(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-11-02付)
考え、議論する道徳科の日々の授業から
◆記録の累積化・生徒の振り返りを生かす
◎大切なのは授業
中学校で平成31年度から始まる「特別の教科 道徳(道徳科)」において、多くの先生方が最も不安に思っているのは、評価であろう。どうしても指導要録や通知表にいかに記載すべきかに考えがいってしまう。道徳教育における評価も他の学習における評価と同様に「常に指導に生かされ、結果的に生徒の成長につながるものでなくてはならない」(学習指導要領解説)ことから、教師にとって評価は、「個々の生徒の成長を促すとともに、それによって自らの指導を評価し、改善に努めることが大切」である。これは、教師が生徒を評価するのと同時に、道徳科の目標を達成できるような授業をする必要があることを述べている。では、指導と評価の一体化を意識した授業をどのように実現するのか。ポイントの一部を紹介する。
ポイント1 場面発問とテーマ発問を併用する
授業を展開していく上で、重要になるのが発問であろう。道徳の時間では、これまでも大きく分けて場面発問とテーマ発問の2種類の発問が研究されてきた。場面発問とは、読み物の中のある場面に対して、登場人物の判断、心情、行為の理由などを問う発問である。一方、テーマ発問とは、教材のテーマ(主題)について深く追求していく発問である。これらはどちらかのみを取り入れるものではない。場面発問だけでは、ある場面に限った話に留まってしまい、一般化されずに終わってしまうおそれがある。逆に、テーマ発問だけでは、漠然とし過ぎてしまい生徒が既に知っているようなことを求めてしまいがちになる。したがって、全ての教材に当てはまるものではないが、これら2種類の発問を併用していくことが大切である。
たとえば、『朝市の「おはようございます」』(1年)では、生徒は教師の範読が終わってすぐにテーマ(主題)が「挨拶の大切さ、良さ」であることに気付く。この段階では、挨拶は「人が行うべき基本的行為」という要素を生徒は強くもつことだろう。そこで、ある観光地を訪れ、地元の男の子にすれ違いざまに突然「おはようございます」と挨拶され嬉しい気持ちになった主人公にスポットを当てる。仲間と話し合い(議論)を重ねる中で、挨拶には、「敬意」、「人の気持ちを温かくさせる」、「人とのつながり」などといった「行為」だけではない「心」の面について気付き、礼儀の意味について考えるのである。更にあらためて「挨拶の大切さ、良さ」について振り返ることで、生徒は自己を見つめ、今後の礼儀の在り方について考えていくのである。
こういった一連の学習活動において、発言・記述・様子等を捉え、記録し続けることで、道徳科で行う評価は実現していく。つまり、我々はこうした授業を行うことが求められているのである。
ポイント2 ローテーション道徳、TT等を活用する
授業のスキルアップには経験が必要である。そこで、1人の教師が学年の全学級で同じ教材を扱えるように工夫をする。これがローテーション道徳と呼ばれるものである。指導力の向上はもちろんだが、他にも利点はある。
たとえば、担任では見取ることのできない面を捉えられる点である。これは、評価の妥当性・信頼性等を保証するものになる。ローテーション道徳以外に、TTも効果的である。同じ授業で、生徒を多面的・多角的に捉えること、様子を片方の教師が記録できること等が考えられる。授業時数の問題等が懸念される場合は、複数学級や学年での合同授業も可能だろう。同じ空間で授業を受ける生徒数は増えるが、教師1人が1時間に見取る生徒は5人もいれば多いくらいだろう。複数の教師による多面的・多角的な評価が可能なだけでなく、自学級の生徒が普段関われない他学級の生徒の考えに触れることで、更なる広がりや深まりも期待できる。北都中学校での実践では、合同で授業を行った先生方から「隣の学級の○○さんの話で一気に深まった気がする」「道徳の授業の進め方がわかった」といった声も上がっている。
ポイント3 評価文の根拠を明確にする
生徒の学習状況や道徳性に係る成長の様子は、個人によって異なる。このことから、評価の文章については誰一人として全てが同じものにはならないはずである。教師が評価の文章を書くにあたっては、その根拠となるものが必要である。その主たるものは、ワークシートへの記述内容となるだろう。したがって、毎時間のワークシートを蓄積するためのノートやファイルの準備が必要である。
また、生徒自身が自らの状態や成長を振り返り、新たな問題や課題を発見できるように、学期はじめの動機付け、学期末や年度末の振り返りを行うことも重要である。これらに対して、教師がコメントをしたり、Excelシートなどへ記載内容を記録したりしておくことが、評価を記入する上での大きな根拠となるだろう。
繰り返しにはなるが、いずれも道徳科の目標を達成できるような授業を行うことが大前提としてあるものだということは忘れてはならない。
(札幌市道徳教育研究会 研究副部長 札幌市立北都中学校 教諭 奥山裕太)
※次回は、「考え、議論する道徳と評価」を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-11-02付)
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