【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.29図画工作科①北海道造形教育連盟(森長弘美会長)確かな資質・能力を育む授業(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-11-07付)
4年生「版に表す」学習で学ぶ子どもたち
◆〝教師のさせたい学習〟からの転換
新学習指導要領では、すべての教科において目標を資質・能力で構造化し、指導すべきことが明確にされている。図画工作科はこれまでも「発想や構想の能力」「創造的な技能」「鑑賞の能力」という資質・能力で整理されてきている。しかし、すべての教科において共通の「知識及び技能」「思考・判断・表現力等」「学びに向かう力、人間性等」という3つの柱で整理されたことにより、今まで以上に「どのような資質・能力を育んでいくのか・育まれたのか」という視点で授業改善をしていくことが求められる。
では、実際には何がどう変わるのだろうか。図画工作科の学習を進める際には「題材づくり」と「授業づくり」が軸となる。4年生の「版に表す」学習を例に考えていく。
◎資質・能力を育む「題材づくり」
ポイント1 指導事項を明確にする
これまでは教科書に載っている作品や実践などを基に「短い時間で簡単に…」「作品を掲示した時に見栄えが…」というような、完成作品のイメージや指導者側の論理で学習が進められてきたことが多いのではないか。つまり、「(木板に)何を彫らせるか」ということが先に来ていたとも言える。
しかし、資質・能力を育む学習づくりのスタートは、【1】子どもの中にある学びの経験を基に【2】表現の特徴やよさをふまえ【3】指導事項を設定することにある。4年生の「版に表す」学習であれば次のように考えることができる。
【1】子どもの学びの経験・身に付けていること
・彫刻刀は初めて手にする用具
・紙版や身辺材を組み合わせた版を写した経験があり、写すと逆さまになることを知っている
また、「版をつくり、最後に2~3枚刷って終わる」というイメージがある
【2】木版に表す表現の特徴やよさ
・紙版と異なり、版を繰り返し用いたり、彫りを加えて版を変化させたりすることができる
↓だからこそ…
【3】主な指導事項
・A表現(1)イ:発想や構想をする
木版を彫ったり刷ったりする活動を通して
〇彫って表れた線や形(面)から感じたことや想像したことを基に表したいことを見付ける
〇版の用い方や彫刻刀の違いによる彫りの違いなどを生かしながら、どのように表すか考える
・A表現(2)イ:技能を働かせて表す
〇彫刻刀やばれん、インクなどの用具を適切に扱い、彫り方や刷り方など、表し方を工夫する
このように考えることによって、この題材で学ぶ子どもの姿がより明確になるのである。
◎資質・能力を育む「題材・授業づくり」
ポイント2 指導の手立てを具体化する
指導事項を明確にすることで、「その子どもの姿を引き出すためにどうするとよいのか」という視点で題材の流れや材料・用具の設定、環境構成など具体的な指導の手立てを講じやすくなる。
子どもたちが初めて手にする彫刻刀を適切に取り扱うことができるようにするには、扱いに慣れるということが重要である。そこで、様々な彫り方を思いのまま何度も行うことができるような題材構成にするという手立てが考えられる。また、彫って表れた線や形(面)から感じたことや想像したことを基に表したいことを見付けるという姿を引き出すには、下絵を描いて彫るという流れよりも、様々な彫りから生まれた抽象的な線や形(面)から見立て、想像を膨らませるという流れの方が合うかもしれない。
そのように考えていくと、「小さめの板を彫り、それらを組み合わせて刷ることを繰り返しながら、自分の感覚を通して彫刻刀の扱いに慣れ、表したいことを表す」という1つの題材の姿や、初めから大きなサイズの板ではなく手の平サイズ程度の大きさの板を多めに用意し、子どもが複数枚使うことができるようにするといった材料の設定も見えてくるのである。
版の用い方や彫刻刀の違いによる彫りの違いなどを生かしながら、どのように表すか〝考える”姿を引き出すには、刷って終わりではなく、刷ったものを見て変容を感じる“間(ま)”が生まれるようにするという手立てが考えられる。であれば、環境構成を考える際、4人程度のグループにばれんやインクなどの用具を1セット用意し、彫る場所と刷る場所のどちらもグループにつくるという用具や場所の設定が考えられる。
刷る順を待つという一見空白の時間が生まれるように見えるが、待つ時間があることで自分や他者の表現に目が向く必然性が生まれ、見て感じたり考えたりする姿を引き出すことになるのだ。
図画工作科の学習は造形活動が「作品」として見えることが多くあるがゆえに、完成作品のイメージから題材や授業がつくられることが多くあったことは否めず、そこには子どもの姿が存在しないことが有り得た。
これからは「どのような資質・能力を育むか」という視点で、改めて子どもの姿を軸に題材や授業改善を図っていくことが大事なのである。
(北海道造形教育連盟 研究部長 北海道教育大学附属札幌小学校 教諭 中村珠世)
※次回は、「創造性を重視した授業づくりのポイント」を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-11-07付)
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