【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.31美術科編①北海道造形教育連盟(森長弘美会長)分かる・できる・楽しい授業づくりのポイント
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-11-12付)

伝えたい造形連盟月寒中
グループ制作という対話的な学習環境で表現・共有し合う生徒たち

◆題材の評価と次への改善が学びの深化に 

 新学習指導要領に記された美術科の目標は「表現及び鑑賞の幅広い活動を通して、造形的な見方・考え方を働かせ、生活や社会の中の美術や美術文化と豊かに関わる資質・能力を育成することを目指す」であり、これは学習を通して美術が広く実社会や生活と繋がりをもつことを学ぶ、ということを指している。そして、これを実現するために、「知識及び技能」「思考力・判断力・表現等」「学びに向かう力、人間性等」と、目標を具体的に3つの柱で示し、現行学習指導要領の評価の4観点を整理した「学力の3要素」として位置づけている。

 したがって、美術科の学習においては、全内容・領域で、目標・3要素に沿って題材設定をすることになる。また、目標達成のための「主体的・対話的で深い学び」の実践は、必要不可欠となる。

ポイント2 題材設定で大切な3つのこと

 美術科の学習の題材設定では、3年間を通して次のことを意識しなければならない。

①全ての題材で3つの柱に照らし合わせた目標になっている題材設定をすること

②3年間で様々な内容を偏りなく経験すること

③学年に応じて様々な観点が関連づけられ、ステップアップが図られていること

 さらに、「目標や目的、授業後の生徒の姿(変容)」を見失わないこと、各自治体の掲げる教育の特色、地域や学校での取組を意識した題材、道徳や他教科との関連、学校評価等から見える生徒の実態を把握して、取り組むべき題材を設定することも大切である。

ポイント3 技能偏向な題材になってはいないか…

 題材の選択や設定、指導の際に陥りやすいことの一つに「描く・つくる」などの創造的な技能を高めることばかりに目が行ってしまうことがある。美術科の学習において、技能の向上は資質・能力の向上に欠かせないものではあるが、技能は資質・能力の一部に過ぎない。技能に偏向した題材設定をすると、高度なテクニック習得を目的とした少数精鋭のための授業になりかねない。美術科は中学校教育の一教科であり、創造的な技能は目標・目的を達成させるための複数ある要素の一つであることを忘れてはならない。

 例えば、長時間に亘るデッサン、写実的表現を目指す静物画や人物画、色相環の平塗り、平面構成などは、技能偏向の題材になりやすい。これらの題材を設定する際には、「生徒が主題を見つけ、感じ取ったことを表現できているか」「社会や生活に関連づけられているか」など、目標・目的を明確にすることや、なぜその題材が必要なのかをカリキュラムの中にしっかりと意味づける必要がある。

 創造的な技能は、発想・構想の能力や主体性、感性などの要素と相互に関連することで意味を成すものであることを忘れてはならない。

ポイント4 “主体的・対話的な学び”が「分かる・できる・楽しい授業」に繋がる

 カリキュラム全体で目標・目的をしっかりと設定することで、題材の見通しや計画性がより具体的に見えてくる。しかし、我々教師が魅力的な題材だと考えても、取り組む生徒にその魅力が伝わらなければ「分かる・できる・楽しい授業」には繋がらない。大切なことは、生徒に題材の魅力を伝え、「興味・関心」を引き出し、主体的な学びに向かわせることである。そのためには、学習内容の理解と環境の整備が大切になる。

 学習内容の理解については、導入段階でのICT(美術科においては視覚的な効果は大きいと考える)などの活用による目標・目的の明示、作品が生活に生かされている例の紹介や、過去の作品の鑑賞など、「面白そう…」「描いてみたい…、つくってみたい…」というやがて「主体的な学び」へと繋がる、興味・関心を引き出す工夫が必要である。

 また、「主体的な学びの継続」も大切な要素である。制作の途中でのつまずきから、興味・関心が薄れていくケースも見られ、それを解消するための工夫も必要となる。教師からアドバイスをするだけでなく、中間鑑賞や意見交流の時間を設けるなど、対話的な学びの場の設定を意図的につくり、生徒同士の対話から生まれる気付きも大切にしたい。

 そのためには、普段からの学習環境づくりも大切になる。鑑賞だけでなく表現活動時にも生徒同士の対話を意識した授業を展開するのであれば、常にグループ形態の座席で交流と制作の切り替えを意識した授業をするなどの工夫が必要である。

 題材のよさを生かすため、学習内容や学習環境を工夫することで主体性や対話が生まれ、それらが新たな気付きとなり、毎時間、毎題材の評価と次に向けての改善が学びの深化に繋がる(PDCAサイクル)。これらのことが「分かる・できる・楽しい授業」に結び付くのである。

(北海道造形教育連盟 事務局次長 札幌市立月寒中学校 教諭 平井 歩)

※次回は、「変わる学校教育と題材選び」を掲載します。

(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-11-12付)

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