新春インタビュー 札幌市教委・長谷川雅英教育長に聞く
(市町村 2020-01-01付)

1長谷川教育長
様々な教育施策を語る長谷川教育長

 新年を迎え、札幌市教委の長谷川雅英教育長に札幌市の教育の現状や課題、働き方改革についての取組などについて聞いた。

◆防災教育など様々な取組展開

―札幌市の教育の現状と課題、今後の対応について

 一昨年は、北海道胆振東部地震が発生し、札幌市も含め全道がブラックアウトになるなど、大きな被害を受けた。また、昨年は過去最大級の台風が繰り返し日本に上陸し、千葉県をはじめ、多くの地域が被災した。

 こうした災害の経験によって学校における防災教育の重要性があらためて浮き彫りとなり、本年度は様々な時間帯や状況を想定した避難訓練を行う学校があるなど、子どもたちと教職員の防災への意識も一層高まってきている。

 防災教育では、災害に適切に対応する能力の基礎を培うことを目指し、児童生徒の発達の段階を考慮して、関連する教科や総合的な学習の時間、特別活動など学校の教育活動全体を通じた取組の推進が必要とされている。

 札幌市においては、本年度、小学校2校、中学校2校、高校1校の5校を研究推進校とした防災教育研究推進事業を立ち上げた。本事業では、防災教育カリキュラムの作成に向け、研究推進校において、札幌市危機管理対策室とともに作成した小・中学生用の防災リーフレットを使った学級活動や、ハザードマップを利用した理科等の授業公開を行ったほか、避難訓練などの取組の共有を行っている。

 今後も、これらの成果を各学校にも周知しながら、防災教育の取組を充実していく。

 つぎに、子どもの健やかな体の育成については、体育、保健体育の授業の充実を図ることに加え、大学と連携した調査研究において、新たな運動プログラムを開発するなど、子どもたちが主体的に体を動かすことができる環境づくりを進めていく。

 また、札幌市の子どもたちは、特に敏しょう性と持久力に課題があるところだが、ことしは東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されることに併せて、札幌市“目指せ〓なわとびマイベスト”プロジェクトを実施している。

 この取組は、東京オリンピック・パラリンピック推進本部が実施するbeyond2020マイベストプログラムに認証されたもので、すべての小学校において、開会式の7月24日に向けて、なわとび運動に関する目標を設定し、達成に向け行動していく。

 さらに、国際理解教育において札幌・ポートランド姉妹都市提携60周年記念事業の一環として、同市のイマージョン教育および国際バカロレア(IB)教育の実践校に指導主事を派遣する。

 この事業は、イマージョン教育および国際バカロレア教育の調査・研究を推進し、札幌市の義務教育段階におけるグローバル人材の育成に資することを目的としている。各校種の英語教育や国際理解教育の在り方を探り、9年間を通したカリキュラム構築や外国語などの効果的な指導方法を各学校へ還元したいと考えている。

 こうした取組を通して、国際社会で信頼と尊敬を得るにふさわしい資質を育成できる枠組みの構築を図っていく。

 続いて、特別な配慮を必要とする子どもへの教育について。

 近年、医療的ケアを必要とする児童生徒は増加傾向にあり、安心して学校生活を送るため、学校現場において安全に医療的ケアを受けることができる環境の整備が求められている。

 また、医療的ケアは児童生徒本人が自身で行うことができない場合、基本的には看護師または保護者が行わなければならず、保護者の負担が大きくなるという課題があった。

 これらの課題に対し、札幌市では、平成30年度から医療的ケアを必要とする児童が在籍する小学校2校に看護師を週1回配置するモデル事業を開始した。昨年11月からは、看護師の配置校を拡大しており、医療的ケアの充実を進めているところ。

 さらに、札幌市まちづくり戦略ビジョン・アクションプラン2019において、医療的ケア児への支援体制の拡充を重点的に取り組む項目として位置付けた。

 今後は、看護師配置校の拡大に加え、児童生徒の状況に合わせた配置の検討を進め、引き続き、医療的ケアを必要とする子どもへの支援体制の充実を図っていく。

 最後に、昨年、方針を公表した公立夜間中学の設置について。

 公立夜間中学については、義務教育を修了しないまま学齢期を経過した方や、不登校等の事情から実質的に学校教育を受けられないまま卒業し、中学校で学び直すことを希望される方、近年増加する日本国籍を有しない方などに、教育を受ける機会を保障する重要なものと認識している。

 現在、全国には33校の公立夜間中学があるが、それぞれの地域の実情に応じて、年齢や国籍など、多様な方々が学んでおり、各中学校では、学級編成や教育課程について、様々な方法で対応している。

 また、全国的には公立夜間中学の在校生の約8割が外国籍生徒という状況だが、比較的外国籍市民の方が少ない現状にある札幌市においては、全国の公立夜間中学とは異なる対応も求められる可能性があると考えている。

 そこで、現在、開校に向けた準備として、主な対象者と考えられる外国籍市民や不登校経験者、自主夜間中学在籍者等に対するニーズ調査に取り組んでいる。

 ことしは、このニーズ調査などを踏まえ、令和4年4月の開校に向け、学校の目指す姿や教育課程の考え方、開設場所等について検討を進め、来年度中には公立夜間中学の設置の基本計画を策定する。

 今後、入学された方が安心して学ぶことができるよう、公立夜間中学の開校に向け、関係機関などとも連携・協力しながら着実に準備を進めていく。

◆課題探究的な学習の推進を

―小・中学校、高校の学習指導要領が改訂され、2年度から小学校で、3年度から中学校で、4年度から高校で順次全面実施される。市教委として、今後どのように取り組んでいくか

 新学習指導要領は、令和2年度の小学校を皮切りに3年度に中学校、4年度から高校において、順次実施されることになっている。今回の改訂では、生きる力を子どもたちに育むため、教科等の目標や内容が「知識および技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の3つの柱で再整理され、育成を目指す資質・能力が明確化された。

 札幌市では、今回の学習指導要領の改訂に先立ち、平成27年度から「自ら疑問や課題をもち、主体的に解決する学習」と定義している「課題探究的な学習」を推進してきた。

 課題探究的な学習は、学ぶ力を構成する3つの要素である「学ぶ意欲」「学んだ力」「活かす力」を相互に関連させながらバランスよく育む手だてとして有効であると考えている。また、学習指導要領に示されている「主体的、対話的で深い学び」と軌を一にするものととらえており、新しい時代に必要となる資質・能力の効果的な育成につながるものと考えている。

 また、各学校においては、全面実施に向けて教科等横断的な視点で教育の内容を組み立てたり、教育内容の質の向上を図るためのPDCAサイクルを確立したりするなど、カリキュラム・マネジメントを進めることが重要になってくる。

 そこで、各学校の教育課程の編成やカリキュラムマネジメントの参考となるよう、『札幌市教育課程編成の手引~小学校編』を作成し、本年度末までには、すべての小学校教員に配布する予定。

 手引では、教科書に沿った年間指導計画例や課題探究的な学習の指導展開例などを多く掲載することで、1時間1時間の授業の充実を図るとともに、札幌市の学校教育において求められるカリキュラム・マネジメントの視点について整理して掲載し、各学校で教育の質を高めることができるよう配慮した内容とする予定である。

 さらに、学習指導要領の総則においては、子どもが将来、社会で生きて働く資質・能力を学校教育などで確実に身に付けるために、学校段階間の接続を図ることの重要性が示されている。札幌市においても、前年度策定した市教育振興基本計画改訂版において、校種間の連携を施策として位置付けている。

 これまでも、小・中学校においては小学校から中学校への進学時の変化に対応できるようにするため小中連携に取り組んできており、今ではすべての小・中学校が小中連携に取り組むまでに広がってきた。

 それに加え、新しい学習指導要領で求められているように、義務教育で身に付ける資質・能力を9年間で確実に身に付けるようにするためには、これまでの小中連携を足掛かりとしながら、9年間を見通した一貫性・連続性のある小中一貫した教育を推進することが必要であると考えている。

 そのために、昨年まで6回にわたって行った小中一貫した教育についての在り方検討委員会の議論の内容を踏まえ、今後推進していく小中一貫教育の方向性をまとめた市小中一貫した教育基本方針を本年度中に策定する。

 地域の小学校、中学校の教員が協力し、課題探究的な学習など全市で共通に取り組んでいる教育を協働的に推進することで、子どもが中学校卒業までに身に付けるべき資質・能力を着実に育む義務教育を実現したいと考えている。

 札幌市としては、これまで進めてきた教育施策の方向性が、新しい学習指導要領の方向性と合致しているととらえていることから、各学校には、実績をもとに自信をもって教育を進めていってほしい。

◆教員一人ひとりが元気な姿で

―教員の働き方改革についての方向性

 全国の学校における教員の厳しい勤務の実態については、文部科学省が平成28年度に実施した教員勤務実態調査の結果によって、あらためて明らかになった。文部科学省の諮問機関である中央教育審議会では、その解消に向けた議論が重ねられ、その答申を踏まえた学校における働き方改革に関する緊急対策が29年12月に文科省から全国の教育委員会に向けて示された。

 札幌市においても、27年2月に教員の勤務実態調査を実施しており、その結果は全国と同様の傾向がみられ、教員の長時間労働対策を早急に進める必要があるとの認識から、これまで休暇取得促進、学校の勤務環境整備、学校の業務改善の3つの視点による様々な取組を進めてきた。

1点目の休暇取得促進のための取組としては、29年度から実施した夏季休校日が挙げられる。これは夏季休業期間中の3日間を学校全体の休校日と設定し、休暇を取得しやすくするための取組。実施3年目に入った本年度は市内すべての学校で休校日を設定しており、定着が図られた。

 また、労働基準法の改正を受け、本年度から年次有給休暇の時季指定制度も導入し、年間5日以上の年次有給休暇の取得を義務付けるための取組も実施している。

 2点目の学校の勤務環境を整えるための取組では、校務支援システムの導入をはじめとした学校のICT環境の整備に加え、30年8月からは勤務時間外の学校の電話を留守番電話対応とする取組も実施した。

 この取組は、留守番電話に切り替える時間を各学校の事情に応じて設定しており、多くの学校において、勤務のメリハリをつけるきっかけとなり、実際に負担軽減につながったとの声が聞こえるなど、着実に効果が表れているものと受け止めている。

 3点目の学校の業務改善につながる取組では、特に中学校で課題とされていた部活動について、平成30年度から、週2日以上の休養日を設定する等の活動基準を定めた。

 また、本年度はさらなる学校の業務改善に向けて、長時間労働の要因につながる学校の課題を詳細に把握・分析し、実効性の高い具体的な改善策を外部の客観的かつ専門的な視点で検討するため、民間コンサルタントに業務委託した。

 具体的には、小・中学校、高校の各校種ごとのモデル校に対し、執務室の環境や教員の働いている様子などを勤務時間外も含め終日でモニタリングするとともに、職員アンケートやヒアリングを行うなど、学校の実態を詳細に確認し、課題の洗い出しを進めている。本年度末にはその改善のための必要な対策の提案を受けることとしており、それを踏まえ業務改善に向けた検討を行い、教員の働く環境の整備に努めていく。

 また、国の動きになるが、1年単位の変形労働時間制の導入に向けて、文科省から提出されていた公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法案が成立した。

 これは、教員について1年間の変形労働時間制を各地方公共団体の条例により実施できるようにするための法律であり、学期間中の業務繁忙時期に1日当たりの勤務時間を延ばす一方、長期休業期間中に休日のまとめ取りを可能とする制度となっている。

 しかしながら、この制度を効果的に導入するためには学校の業務総量の縮減に加え、部活動や研修など、休業中における業務の取扱いなどもあることから、国から示される具体的な運用等を踏まえながら、慎重に検討する必要があると考えている。

 このように、札幌市では、様々な長時間労働対策を行ってきたところだが、これは学校職員だけでなく、保護者や地域の皆様方の理解があって初めて進めることができたものと受け止めている。

 今後のさらなる取組に向けては、従前の学校運営の在り方の転換を図る必要が生じるものも含まれると考えている。関係者の皆さんにおいては、ぜひ今後も力を貸していただきたい。

 子どもたちの笑顔があふれ、自ら学ぶ喜びを実感できる学校づくりを実現するためには、教員一人ひとりが元気な姿で、子どもたちとしっかりと向き合う時間をさらに確保していく必要がある。教員がやりがいをもって働くことができる職場環境を整備していくためにも、教育委員会と学校、保護者、地域が協力し合いながら、教員の働き方改革を推進していきたいと考えている。

◆チームとしての学校体制整備

―学校や関係機関、保護者、子どもたちに向けたメッセージ

 昨年、吉野彰氏がノーベル化学賞を受賞した際、研究者に必要なものは、何とかなると考えられる“柔らかさ”と壁にぶつかってもすぐにあきらめない“執着心”であると話されていた。

 この2つのバランスは、子どもたちが未来を生き抜く力を身に付けるためにも非常に重要であり、もし壁にぶつかっても、子どもたちには、しなやかに、たくましく前に進んでいってほしいと願っている。

 また、保護者の皆さんには、「さっぽろっ子“学び”のススメ」を活用し、「まほうのかいわ」をもとに、引き続き、子どもたちをしっかりと見守るとともに、子どもたちが目標や夢に向かって挑戦する背中を押していただきたい。

 学校においては、家庭や地域にもご協力をいただきながら、様々な困りを抱えた子どもたちに対する支援についても、早期にかつ迅速に行っていくため、新学習指導要領で求められているチームとしての学校の体制整備にしっかりと取り組んでいく。

 本年も、子どもたち一人ひとりに寄り添い、札幌のまちがたくさんの子どもの笑顔であふれるよう、市の教育の振興に全力で取り組んでいくので、変わらぬ理解と協力をお願いする。

(市町村 2020-01-01付)

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