新春インタビュー 北教組・信岡聡中央執行委員長に聞く(関係団体 2020-01-01付)
組合運動の方向性を語る信岡中央執行委員長
◆実態に即した業務削減策を
―臨時国会で「改正給特法」が成立しました。学校現場の超勤・多忙化の現状と「改正法」についての北教組の考え、今後の取組について、お聞かせください。
可決された「改正給特法」は、業務削減に向けて、超過勤務を「月45時間、年360時間以内」に規制する「ガイドライン」の指針化を前提に、自治体の判断で長期休業中の「まとめどり」を可能とする「1年単位の変形労働時間制」を導入するものです。特に、「1年単位の変形労働時間制」は、「繁忙期」の課業日の一部の勤務時間を延長(週3時間で13週、計39時間程度)し、その分で長期休業期間中に休日の「まとめどり」(5日程度)を可能として、教職員の勤務実態を改善するとしています。
しかし、「月45時間、年360時間以内」とするための具体的な業務削減策が示されない中で、残業代を支払うことなく、「繁忙期」に1日8時間、週40時間の定時を超えて働かせることができるようにするなど、制度設計自体が過酷な現場実態とかい離したもので、机上の空論と言わざるを得ません。これでは、深刻な長時間労働を追認・黙認し、さらなる過労死や健康被害を招きかねません。
国会の審議で文科省は「スクールサポートスタッフ」の配置などによって年間360時間の在校時間の縮減が可能としましたが、平均で週27時間の授業を担当するなど所定の勤務時間のほとんどが子どもと接する時間となっている小学校教員にとって、持ち授業時間数が削減されない限り改善は見込めません。また、「部活動指導員等外部人材」の活用によって年間160時間の在校時間の縮減が可能としましたが、道内の中学校への「部活動指導員」の配置は41人と全体の1割にも満たない実態で効果は極めて限定的です。2020年度の予算要求は、昨年より増員要求がされているものの、すべての小・中学校に配置するものとなっておらず、賃金や待遇の不十分さから人員確保もままならない地域が多数懸念されています。これまで同様、安上がりの教育で、抜本的な超勤縮減対策とは言えません。
また、審議では、所定の勤務時間外に明示・黙示にかかわらず、校長の指揮命令下で行った業務は「公務であるが、地公法、労基法上の労働時間に当たらない」との答弁が行われるなど、「給特法」との矛盾が一層明らかになっています。こうしたことから私たちは、ただ働きを助長させ、際限のない長時間労働を引き起こしてきた「給特法」の抜本的見直しこそ直ちに取りかかるべきと訴えてきました。
審議の結果、3年後を目途に調査を行った上で「給特法」などの規定について検討を加え所要の措置を講ずることや、現場から指摘された懸念事項への対応を促す附帯決議がされましたが、抜本的な勤務条件改善には程遠いものです。
したがって、今後私たちは早急な「給特法」の廃止・見直しを引き続き求めるとともに、「給特法」の抜本的見直しが先送りされる中では、現場実態を踏まえた業務削減を最優先に、当面、「給特法」に基づき、「原則超勤は命じない・命じる場合の限定」を順守させ、やむを得ず行った超勤は、直近での完全回復を基本に、長期休業中における実質的回復を措置すること。併せて、一人当たりの教員の持ち授業時数削減に向け、国の加配のみならず道独自の定数措置を求めてまいります。
今、学校現場は、改訂された「学習指導要領」の4月からの全面実施に向けて、「特別の教科 道徳」や「英語」「プログラム学習」など新たな負担が増しており、1人当たりの教員の持ち授業時間数が増加し、教育課程は一層過密化しています。これに加え、「全国平均」を指標に、「学テ」の点数を上げるための施策など、超勤・多忙化解消と逆行した政策が進められている実態にあります。国会の審議においても、こうした状況を、ブレーキとアクセルを同時に踏んでいるものとの指摘がされるなど、抜本的な改善が求められました。
昨年7月に私たちが行った調査でも、2018年度と比べて勤務時間が「減少した」職場は約1割にとどまる一方で、「変わらない・増加した」が8割を超え、自宅への持ち帰り残業も増えており、管理職による出退勤の把握が現在も十分に行われていない職場も多くありました。部活動についても、休養日も設定されておらず管理職からの指導もない職場もあり、昨年と比べて、部活動指導時間が「変わらなかった・増加した」職場が約7割となるなど、超勤解消の取組が進んでいません。
昨年の年末賃金交渉において教育長から、「アクションプラン」など超勤・多忙化対策について「勤務の割り振り変更による対象業務拡大の検討」や「部活動休養日等の徹底」「標準授業時数を大きく上回らないよう指導助言」「業務改善の取組」などの回答がありました。「勤務の割り振り変更」の対象業務拡大は、これまで私たちがやむを得ず行った超勤の回復措置として要求してきたもので、実質的な超勤解消・回復に向け一定評価できるものの、「部活動休養日を原則週2日」などその他の回答は、現場の取組が十分に進んでおらず、これに対して、具体性のある対策も示されず、納得がいかないものです。
現場の深刻な長時間労働の実態は、国追随の小手先の業務削減策や効率化で解決できる状況にはありません。道教委として主体性をもって、正規の勤務時間内に業務を終えることができるよう、現場実態に即した業務削減策を打ち出すことが必要です。そのため、「1人当たりの持ち授業時間数減」に向けて「定数増」が不可欠です。国の加配だけでなく、道独自の定数を措置するよう、引き続き要求していきます。
また、北海道における代替をはじめとした教員の欠員状況によって、多忙化は一層深刻化しており、道教委は現場の非常事態の回避に向けた施策を最優先に取り組むべきです。
◆教育課程の抜本的改善必要
―改訂学習指導要領が全面実施されますが、現在の現場実態と全国学力・学習状況調査などの施策について、北教組の考えと取組をお聞かせください。
改訂「学習指導要領」の全面実施に向け、国に都合の良い内容の押し付けによって、新たな負担が増え、教育課程が過密化しています。また、その実施に向けた官制研修や「学テ」など点数学力偏重の施策が、多忙化対策と逆行する状況をもたらし、現場に深刻な影響を与えています。
また、昨年4月実施の「学テの分析」が公表されましたが、文部科学省は全国状況について「上位と下位の差は概ね1問程度で、平均正答率プラスマイナス10%の範囲内」「前年同様、下位の底上げ傾向は続いている」と、これまで同様、膨大な予算をかけて、全国平均が縮小していることを明らかにするだけです。道教委の結果公表も、「全国平均」にこだわり、学力の一面にしか過ぎない「学テの点数」を「学力」として、点数を上げるため、微に入り細に入り教育内容・方法に介入し、家庭生活まで立ち入って指導を求めるものです。日常実践がテスト対策に傾斜させられる中で、地域の特性や一人ひとりの子どもの個性や意欲を大切にし、「人格の完成をめざす」創造的で主体的な活動や実践は萎縮し教育は歪められています。
「経済協力開発機構(OECD)」の2018年「学習到達度調査(PISA)」の結果から、日本の子どもの読解力の低下が話題となっています。パソコンの操作の不慣れやスマホの普及などによる活字離れなど様々な要因が指摘されています。
文科省は、結果を受けて、「要因の分析を詳細に行うとともに、新たな“学習指導要領”によって、教育の質の向上に取り組みたい」としています。
しかし、この要因は、2003年に順位が下がった「PISA」の調査結果を契機に、いわゆる「ゆとり教育」を転換し、「学習指導要領」を改訂して、授業時間数や教える内容を増加させ、2007年からは「全国学力テスト」を復活させてきた政府主導の「点数学力向上施策」にあると言えます。
現在の現場の状況は、一人ひとり異なる環境にある子どもたちにじっくりと考えさせ、丁寧な指導をする時間も、創意ある実践を行うために教員が教材を研究し授業準備をする時間も十分にありません。現場の教職員の力に頼る施策は限界で、教育課程の抜本的改善が必要です。
改訂「学習指導要領」や「全国学テ」など、自らの政策が多くの弊害を生じさせてきたことを猛省して、競争社会に勝ち抜く子どもを早期に選び出す政策を即刻改め、教育課程を抜本的に見直し、定数改善や業務削減、「給特法」の廃止・見直しなど、勤務条件・教育条件改善を強力に進めることが最重要課題です。
◆管理教育が子どもを追い詰める
―文科省の調査では、子どもたちのいじめや不登校、自殺などが年々増加しています。その要因と対応について、考えをお聞かせください。
文科省が昨年11月に公表した2018年度の問題行動・不登校調査によると、自殺した小中学生、高校生は332人に上り、3年連続で増加しました。国内の自殺者が減少する中で、子どもの自殺は増え、いじめや不登校も増加の一途をたどっています。
7月に公表された政府の「自殺対策白書」でも、「10代の自殺が前年より増え、過去最悪」となり、特定できた原因・動機では「学校問題」が最多で、中でも「学業不振」や「進路の悩み」などが上位となりました。こうした背景には、学力調査の「点数」を唯一のものさしに、学校や自治体を競わせ、管理を強化する政府主導の教育政策が子どもたちを追い詰めている実態があることは明らかです。
依然、およそ7人に1人の子どもが貧困状況にある深刻な格差社会の中で、多くの子どもたちは将来の「希望」さえ家庭の経済格差に左右され、努力しても報われない不安感をもちながら学校生活を過ごしています。
現在の子どもたちの現実をしっかりと受け止め、「貧困と格差」の是正に向けた対策の実効化とともに、競争と管理の教育政策を転換し、子どもたち一人ひとりの苦悩に寄り添う創意ある実践や教育活動ができるよう、勤務条件と教育条件の抜本的な改善が不可欠です。
◆給付型奨学金の拡充求める
―「貧困と格差」是正に向けて、北教組は、主任手当の社会的還元事業として始めた「給付型奨学金制度」の意義、今後の取組などについて、お聞かせください。
9月に公表されたOECD調査では、日本の教育予算は対GDP比2・9%と初めて3%を切り、加盟35ヵ国中で3年連続最下位となりました。
特に公的支出のうち、高等教育の割合は31%でOECD平均66%の半分以下、教育支出の多くを家計が負担している現状が明らかになりました。
こうした中で、2020年に始まる大学入学共通テストに導入される英語民間試験は、結果として実施見送りになったものの、「身の丈に合わせて」とする文科大臣の発言は、「格差」を容認し、生まれた地域や経済力の差に目をつむり、憲法に保障された子どもたちの教育を受ける権利や機会均等を奪うもので、断じて許されません。
一方で、「大学等における修学の支援に関する法律」に基づき、「高等教育の修学支援」として「授業料等免除」が創設され、「給付型奨学金」の拡充が図られました。世帯年収380万円まで対象となったことは、住民税非課税世帯の一部に限定され極めて不十分な制度から、これまでの運動の成果で一定の前進が図られたと受け止めています。
しかし、年収の上限や年収に応じた段階的な減額などもあり、必要とするすべての子どもたちに権利として給付される制度となるよう一層の拡充とともに保護者負担の無償化を求めて運動を強化していかなければなりません。
私たち北教組は、2013年度から主任手当の社会的還元として「無償の奨学金支援事業」を開始し7年目となりました。昨年度も中学3年生を対象に、高校への入学金など準備のための資金を援助する事業を進めてきました。希望している全道の子どもの数からいえばわずかですが、昨年度も260人に手渡すことができました。多くの道民の皆さんから応援や激励をいただいており、今後も市町村や教育関係者の皆さんと連携する中で、少しでも子どもたちの実態の改善に寄与できればと考え、継続していきます。その他、社会還元事業として進めてきた「NPO団体への支援」も、引き続きその意義を踏まえ取り組んでいきます。
◆女性参画と民主教育を確立
―2020年度に向けた北教組の方針・運動の在り方、女性参画や組織強化・拡大に向けた取組について、お聞かせください。
昨年の定期大会で、2019・2020年度の運動課題の重点として4つの課題を訴えました。
課題の第1は、平和憲法を守り、民主主義を取り戻すため「対話」を基盤とした道民運動を強化すること、第2に、超勤・多忙化解消を目指し、「給特法」廃止・見直しや定数改善など抜本的な勤務・教育条件改善を進めること、第3に、改訂「学習指導要領」に対峙し、人権や民主主義を根づかせる主権者を育む実践を強化すること、第4に、北教組の運動と組合参加の意義を伝え、連帯する取組を通して、若い教職員の加入拡大につなげることです。
また、男女平等参画社会を目指すため、同大会で「第2次行動計画」を方針化しました。組合員に占める女性の割合が半数を超える実態の中で、「女性参画」の割合を高め、北教組運動の中核を女性が担うことによって「誰もが生きやすい、ゆたかな社会」を目指し、運動を豊かなものにするよう取り組んでまいります。
私たち北教組が目指す、教職員の生活と権利を守り、子どもの側に立つ民主的な教育を実現するためには、組合の存在と力が必要です。
そのことを若い教職員の皆さんに訴え、加入拡大を進めていくことが喫緊の課題です。引き続き、日常実践や青年委員会、「全道臨時教職員の会」、全道各地で開催するサマースクールや教研集会などの取組を通して、若い教職員に自主編成をはじめとした北教組の運動と組合参加の意義を訴え、連帯する取組の中で組織の力量を高め、組織強化・拡大を実現してまいります。
―ありがとうございました。
(関係団体 2020-01-01付)
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