建議 「これからの産業教育充実方策」 道産審 異分野クロスさせ指導 多様な課題に対応できる能力を
(道・道教委 2020-04-03付)

 道教委は、第27期道産業教育審議会(=道産審、岡部善平会長)がまとめた建議「これからの本道産業教育の充実方策について」を公表した。①審議の背景と審議体制および審議経過②地域の産業界との連携にかかわる課題③地域の大学等との連携にかかわる課題④校内の組織マネジメントにかかわる課題―の4章で構成。産業教育の充実に向け、多様な課題に対応できる課題解決能力を育成する重要性などを提起した。

 建議の概要はつぎのとおり。

◆地域の産業界との連携にかかる課題

 本章で取り上げる専門高校からの声は、「生徒が連携先の企業を就職先として選択しないことがあり、そのような場合に地域の人材育成の役割を果たせていないと感じる」「産業界と連携した指導を行いたいが、どの企業と連携できるか分からない」「企業と連携した取組を行っても時間が経つと形式化してしまう」などについて。

 本章では、こうした専門高校と地域の産業界との連携にかかわる課題について、考え方を整理し、産業構造の変化への対応を踏まえ、地域でどのような人材を育成するべきかとの視点から提言する。

【地域で求められる役割を果たすこと】

▼専門高校に求められる役割の考え方

 就職先として企業を選択するのは生徒自身であることについては、企業側も理解している。このため、専門高校は、インターンシップ等の事業に協力を得た企業や出身地域の企業へ就業した生徒数が少ないことを、地域に対して人材育成の役割が果たせていないとは受け止めないようにすることが大切。

 専門高校では今後、道内のそれぞれの地域で求められる人材育成の役割を果たす上で、学科ごとの専門性の生かし方について、より幅広くとらえ直すことも大切である。

 これまでは、専門高校の各学科とかかわりの深い業種の企業と連携してインターンシップを実施し、その関連業種の企業に就業することが一般的なキャリアパスだった。

 しかし、地域には、高校時代に学んだ専門分野と関連する業種の企業等が必ずしもあるものではない。地域創生の観点からも、就業先を幅広くとらえて新たなイノベーションにチャレンジしていく生徒を生み出していくことも重要である。

 例えば、水産高校を卒業したから水産関係の企業に就職することだけではなく、水産を学んだ生徒が商工会議所に就職し関連分野で活躍することや、ホテルに就職してその能力を発揮することなどが考えられる。このことによって、その生徒は水産という学びが実社会でどのように必要とされているかをより深く理解することができる。

 こうしたことから、インターンシップを実施する場合においても、観光関係の企業が設定した課題に農業高校の生徒が取り組んでみたり、食品関係の企業で工業高校の生徒が実習を行ったりするなど、異なる分野の業種のコラボレーションから新しい発想や事業が生まれることが考えられることから、今後の専門高校には、時代の速い変化に柔軟に対応する幅広い視点をもち、生徒を社会につなげていくことが求められる。

▼実際の産業現場を意識した指導の工夫改善

 実際の社会においては、例えば、農産物の収穫にロボットを利用して農家の負担軽減が図られている例があるなど、農業と工業、情報など複数の分野の組み合せによって課題解決が図られている場合が多くある。

 さらに、学校では教わっていないことに対して業務の中で答えを求められることも、一般的にはよくあること。よって、専門高校では、専門高校間や各学科間など、異なる学習分野をクロスさせた指導を行うことが求められる。

 これまでも、本審議会では、同じ専門高校内に設置されている学科間でチームを編成したり、地域にある専門高校間で連携してものづくりや商品開発の取組を行うことを提言してきた。

 ここであらためて、各専門高校には、実際の産業現場と同様に、それぞれの専門高校の生徒が協働して課題解決を行う経験が得られるよう、指導の工夫改善を図ることが重要であることを指摘しておく。

【産業界とつながりをもつこと】

▼地域貢献に対する意欲が向上する機会の創出

 卒業後に就職を希望する生徒の割合が高い専門高校には、生徒が将来において地域に何か貢献したいと思うことができるような体験の機会を多く設定することが求められる。

 また、地域の産業界には、専門高校におけるこうした体験の創出に主体的にかかわりをもつことが求められる。

▼地域の企業と接点をもつ必要性

 専門高校がこうした支援を受けるためには、地域にどのような企業があってどのような業務を行っているか、就職後はどのようなキャリアを積むのかなどの情報を収集し生徒が理解できるよう、地域の多くの企業と接点をもつことが必要。

 専門高校が、専門分野はもとより様々な分野の企業とつながりをもち、ネットワークを構築することで、様々な角度からの支援を得ることが可能となるほか、地域の未来を担う生徒を育成する専門高校の役割について、地域の理解が一層深まっていくものと考える。

 一方、専門高校側がこうした地域の企業に協力を求めることに敷居の高さを感じていることは、企業にとっても同様の状況と言える。このことについては、互いに同じ地域で人を育てているという観点から、まずは双方の担当者間において信頼関係を築いた上で、組織的なネットワークとなるよう広げていくことが有効。

 また、企業の経営者からは、特に生徒からの産業現場を学びたいとする要望については、よほどの繁忙期でない限り快諾が得られるものと考えられる。

▼地域の様々な業種の企業との意見交換

 このように、地域ぐるみで人を育てる取組を推進するためには、各地域ごとに、多くの企業と専門高校が双方の考え方などについて意見交換をする機会をもつことが重要。この場合においては、前述のとおり、専門高校の専門性とかかわりの深い業種だけではなく、地域人材を共に育成する観点において、専門性とかかわりが低いと考えられる業種の企業とも積極的に意見交換を行うことが大切である。

 こうしたことについては、現在でも道商工会議所連合会や道中小企業家同友会などが実施している学校と企業との交流会等を活用することが考えられる。専門高校は、こうした地域での取組に対してアンテナを高く張り、専門高校に求められる役割について、地域の産業界と互いに意思疎通を図ることが重要。

 また、道教委をはじめとする行政や関係機関は、こうした企業との交流会等について、専門高校に積極的に情報提供することが必要である。

【地域における人づくりの視点をもつこと】

▼課題解決の授業を通した地域人材の育成

 専門高校では、それぞれの専門教科にかかわる課題を生徒自らが見いだして設定し、課題の解決を図る実践的・体験的な学習活動を行うことなどを通して、社会を支え、産業の発展を担うことができるようにすることをねらいとした科目「課題研究」が実施されている。

 地域における人づくりの観点から、こうした科目の実践に当たり、生徒が地域のことを理解していることが必要。このため、生徒が地域の企業とかかわりをもちながら、地域課題の解決を行う経験が得られるよう取り組むことが重要。

 企業側にとっても、関心を寄せていることについて高校生が課題意識をもち、解決に向けて支援を求められることは、社員の地域貢献活動へのモチベーションの向上にもつながる。

 また、専門高校には、生徒が自ら課題を設定することに際して、課題の大枠や方向性を示した指導が求められるとともに、すでに企業等の中では解決済み課題を生徒が取り上げていないかなど、生徒の課題解決に向けた取組が企業と円滑に進むようなコーディネートを行うことが必要となる。

 このコーディネートの進め方としては、生徒の主体性を重視し、高校がすべてをお膳立てするのではなく、生徒へのきめ細かいサポートに徹することが大切。例えば、高校生が自ら地域の課題を発見する取組の中で、地域の企業だけに目を向けるのではなく、ほかにもどの企業と話をしたらよいか、誰と相談したらよいかを考え、行動させてみることなどが有効。

 特に、生徒の課題の設定に当たっては、そもそも“なぜ働くのか”という根本的な理由を考えることを通して、自分が学んだことを社会に還元したいとか、もっと社会の課題を解決したいという気持ちを学びに対するモチベーションに結び付ける指導が重要となる。

 そのためには、何のために学校へ行くか、自分にとって専門科目を学ぶことの必要性は何かなどを、生徒が自発的に考えた上で課題を設定するように指導することが重要である。

 こうしたことから、生徒にとっては最も身近な地域における様々な課題を自分たちの知識、技術を活用して解決を図ることができるよう、高校1・2年生の段階から、地域課題についての情報を収集するなど、高校3年間を見通した指導の計画が必要。

 また、課題の設定段階から、業種を問わず地域の企業にも協力を求め、生徒が大人とディスカッションしながら課題に対する理解を深めることが重要となる。

▼生徒が表現する場面の設定

 専門高校では、高校生が課題解決に挑戦した成果については、学校内で発表会を開催し、地域の方々にも参加してもらってその取組を広げているが、学校外部の団体等が主催するプログラムなどを活用することも考えられる。

 各専門高校においては、すべてを校内だけで完結することを目指すのではなく、こうした外部の教育資源を取り入れるなどして、柔軟な発想をもって多様な生徒に対応した教育活動を行うことが大切である。

▼ICT環境の整備

 企業とのかかわりを重視した教育活動を充実させるためには、専門高校のICT環境が整備されていることが必要である。

 生徒が日進月歩の技術や知識についてICTを活用して自主的に情報収集を行うほか、校内の実習室で身に付ける専門的な技術や技能についても、ICTを活用するなどして専門家からの指導を受けることができるようにすることも大切。

 このため、道教委には、校内はもとより農場などの実習施設においても、高速なインターネット回線を活用した教育を行うことができるよう、検討することが求められる。

▼連携の考え方

 専門高校と産業界、企業との連携については、連携する目的を明確にした上で、一つ一つのプロジェクトを積み重ねながら相互理解を深め、地域の未来を見据えた人づくりを共に行う意識を共有するなど、信頼関係を構築することが最も重要である。

 このほか、企業間の連携では双方にメリットが享受されることが重要視される。こうしたことから、専門高校と企業との連携についても、当初明確化した連携の目的のもとでプロジェクトを実行し、成果が得られた段階で、連携について見直しを図ることが大切。

 この場合、連携が形骸化しないよう、目的とゴールをプロジェクトの区切りなどの期間ごとに明確にしていくことが必要。さらに、連携を解消したあとも、協力関係は維持していくなどについて、双方の合意形成を図ることが重要となる。

◆地域の大学等との連携にかかる課題

 本章で取り上げる専門高校からの声は、「大学などと連携して授業を進めたいが、近くになく、どのように協力を求めてよいか分からない」「大学との日程調整がうまくいかない」「出前授業以外では連携が難しく、協力関係も一過性のものでしかない」などについて。

 本章では、こうした専門高校と地域の大学などとの連携にかかわる課題について、考え方を整理し、技術の高度化と複雑化への対応を踏まえ、地域でどのような人材を育成するべきかとの視点から提言する。

【大学などの意識】

 本審議会では、専門高校からの声を踏まえ、大学などとの連携の課題を検討するための参考として、道内を中心とした16大学1研究機関の教員29人に調査を行った。この結果の概要をつぎに示す。

①「専門高校との高大連携に携わりたいか、または関心があるか」との設問に対して「大いにある、少しある」と回答した人は、18人(62・1%)だった。

 大学側にとっての高大連携は、大学組織として行うものと、大学教員個人の裁量で行うものと大きく2つに分けて考えることができるが、本調査では両者を合わせた回答となっている。

②「専門高校との連携に取り組むためには何が必要か」との設問に対して、複数回答で回答を求めたが、回答の多い順に「高校からの情報提供」「高校担当者との意思疎通、信頼関係」「大学側の体制」「広報のメリット、研究教育のメリット」となった。

 うち、高校からの情報提供については、「高校が何を求めているか、連携を行いたい学校からの情報提供が必要である」との意見が多かったほか、「高校との連携を企画した際に、直接連絡を取ってよいか、道教委を通す必要があるか分からない」との意見もあった。

 つぎの高校担当者との意思疎通、信頼関係については、ほぼすべてから「必要不可欠である」との意見があり、大学側の体制については、「大学が広報の一環として行う出前授業以外の連携については、大学の業務とは認められず負担が大きくなってしまう」との意見が大半を占めた。

 また、広報のメリット、研究教育のメリットについては、約半数が必要としていた。

③「専門高校から協力依頼があった場合、どれくらいであれば協力できるか」との設問に対して「年10回程度の助言、メール等も可」との程度については「やや関心あり」と「あまり協力したくない」との回答が同数程度あった。

 また、「大学と共同開発、大学の施設利用」との程度については、「やや関心あり、協力したい」との回答が半数以上を占めた。

 このほか、設問に対して「あまり協力したくない」と回答した理由については「時間が取れない、大学側の体制が難しい」との理由が最も多くあった。

 また、「協力したい」という中にも「高校の教員が意義を感じておらず、やらされ感で連携していると協力しにくい」との回答もあった。

 本調査結果からは、大学などの教員の受け止め方として、専門高校との連携に対する関心はあるものの、実際には専門高校が何を求めているかといった情報の不足や、大学側にメリットが得られないことなどの理由から、専門高校側と同様に「高大連携をどう進める方向がよいか分からない」状況にあることが分かった。

▼調査結果を踏まえた連携の糸口

 こうしたことから、専門高校においては、例えば、学科ごとに高大連携に対するニーズを取りまとめて大学側に発信していくことが求められる。

 また、大学側も専門高校のニーズを把握することはもとより、大学教員の個人の裁量で行う高大連携を行いやすくすることと、大学組織と専門高校との連携を充実させることの両面を同時に進めていくことが大切である。

【大学などとつながりをもつこと】

▼高大連携の課題

 専門高校が大学等に協力を求めたい内容としては、科目「課題研究」の指導に対する助言のほか、先端技術の展望についてなどの出前講義の実施、指導方法や内容の支援など、単発的なものから継続的なものまで幅広くある。

 さらに、学校や科目によって大学等に協力を求めたい期間が様々であり、これらのことが大学等が高校側へ協力することを困難にしている面がある。

▼高大連携の円滑な推進方策

 このような課題を踏まえ、専門高校が大学等と連携して技術の高度化へ対応した授業実践を進めるためには、連携によってどのような成果を期待しているか、という目的を明確にして協力を要請することが必要となる。

 例えば、水産高校では、生徒が水産の知識を得て、それに基づいた食品加工を行うことができるようになるが、マーケティングや流通などの商業にかかわる知識が不足するので、そのために商業系の大学と連携した授業を行い、より実践的な商品開発のスキルを高めたいということが、目的として考えられる。

 このように、専門高校が大学と連携するに当たっては、教科・科目において育成したい資質・能力と連携による到達目標、具体的な内容と期間や時期、費用負担などをあらかじめ整理しておくことが重要となる。

 前項の調査結果では、大学などからは高校担当者との信頼関係を重視しているとの回答があることから、各地域ごとに、専門高校と大学等が双方の考え方などについて意見交換をする機会をもつことが重要となる。

 このため、今後は、第2章で示した大学や高校と企業との交流会や、道内の大学が主催する教育フォーラム等を活用し、専門高校と大学等が意思疎通を図る機会をもつことが大切。

 また、専門高校では、大学等に支援を求めたい内容や道教委の実践研究事業における大学等との連携についての好事例を自校のウェブサイトに掲載するなどの情報発信に努めることも、大学などと考え方を共有する上で大切になる。

 なお、こうしたことについて、道教委が専門高校と大学などとの意思疎通を図るパイプ役としての役割を果たすことも求められる。

 さらに、こうした意思疎通を図る前提として、双方の組織や運営体制が異なることや、大学側の高大連携の位置付けを高校側が理解することのほか、日程調整を相互で柔軟に行う意識をもつことが必要となる。

▼ICT環境の整備

 大学などとのかかわりを重視した教育活動を充実させるためには、高大連携が重要だが、高大連携が進まないことの理由の一つとして、大学等が専門高校の近隣にないとの声もある。

 このように、地域を限定しないで、専門高校が技術の高度化や複雑化に対応するために大学等とのつながりを密にしていくためには、人の移動を伴わないSkype等のコミュニケーションツールを取り入れるなどした教育活動を充実させることが必要。このため、道教委には、専門高校に必要なICT機器やWi―Fi環境を早急に整備するよう検討することが求められる。

【地域の学びの場としての役割を果たすこと】

▼地域の学びの場としての役割

 社会に直接接続するための産業教育を行っている専門高校では、卒業後に就職を希望する生徒の割合が高いことから、生徒の学ぶ場は社会全体ととらえることが必要。

 このため、専門高校での学びを中心に、歴史や文化、国際政治などの幅広い分野を専門とする大学等とつながりを構築するなど、高校の専門性とは異なる地域の大学などとも、互いが地域の学びの場としての役割を果たすことが必要である。

 また、専門高校が大学などとの連携を検討する際には、技術の高度化と複雑化への対応を踏まえ、連携先を各学科と同じ分野の近隣大学等に限定するのではなく、他の地域や多様な分野とのつながりを積極的にもつことによって、専門の学びの充実を図っていくことが大切。

 こうしたつながりを広げる上で、大学などには、研究内容や過去の高大連携の事例、専門的な研究内容などをホームページを通じて積極的に公開することや、連絡窓口を併せて公開することが求められる。

 また、専門高校が大学等とのつながりを深めていくためには、高大連携の成果を大学等へ確実にフィードバックすることが大切。このフィードバックを通して、大学などが専門高校に対する自らの協力や支援の意義や効果を実感することができれば、専門高校と連携するモチベーションも高まるものと考える。

 こうした成果の共有は、発表会や報告書などを通じて短期間に確認できるものもあれば、生徒の学習意欲や進路意識の変容など、様々な教育活動との相互作用によって長期的に見いだされるものもあることから、各専門高校は、時期や方法を工夫して大学などへ伝えることが重要。

▼大学などに対する負担の軽減

 さらに、専門高校には、こうした地域の学びの場の役割を果たす大学などの負担軽減に配慮することも求められる。このため、各学科ごとの校長会などの組織を活用して、大学などからの支援の内容について、高校間で情報を共有することが大切。

 このほかにも、大学などと連携した教育活動を行う場合は、プロジェクトの期間が終了したり、目標とする成果が得られた段階で、連携関係の見直しを図ることも重要である。

▼学生や大学職員に期待する役割

 専門高校が大学などに協力を求めたい内容には、大学教員だけではなく、学生、職員などが対応できるようなことも含まれている。このため、大学などでは、こうした柔軟な対応について検討することが大切。

 特に、大学生と高校生との意見交換は、高校生の学習意欲や進学意識の向上を図るほか、大学生にとっても目的意識や自尊意識が高まるなど、双方のメリットが期待できる。

◆組織マネジメントにかかわる課題

 本章で取り上げる専門高校からの声は、「校内で体系的・組織的に行う実践と評価、改善が十分に機能しておらず、全体に対する成果の還元も不十分である」「学科ごとの動きが主になっており、外部との連携を組織的にも継続的にも行うことができていない」などについて。

 本章では、こうした専門高校の校内組織マネジメントにかかわる課題について、考え方を整理し、これまでの第2章、第3章を踏まえ、今後の本道の産業教育をどのように充実させていくかとの視点から提言する。

【校内体制の見直しを図ること】

▼事業の推進方策

 専門高校からは、実践研究事業などを行う場合に、担当する学科や教員の主導で取り組まれることが多いことから、全校的に事業を推進することや、学校全体にその成果を共有することが十分に機能していないことなどが課題として挙げられていた。

 また、このことについて、企業のノウハウを得て改善していきたいとの要望もあった。

 学校の組織は、教員個人の専門性などが強い面があるなど、組織の運営の在り方が企業とは異なっているため、企業の手法をそのまま取り入れたとしてもうまくいくとは限らないことに留意することが大切。

 また、一般的に企業などで事業を行う場合、当初から得たい成果を目的として設定し、それを実現するための方法や結果の評価方法を全社的にコンセンサスを得た上で事業を推進している。

 こうしたことから、学校が全校的に事業を推進するためには、どのような生徒を育成するかという学校としての目的を設定し、全職員で共有することが大切。また、目標を達成するための仮説を立て、このための手法として事業に取り組むということを全職員の理解を得て進めることが最も重要となる。

 さらに、事業の途中においても、取組の成果について共有し検証することを繰り返して、学校組織全体で一定の方向性を形づくっていくことが必要になる。

▼仮説の設定

 仮説を立てるに当たっては、学校として、少し大きな課題となるように設定し、校内の各学科などにおいてそのテーマに基づく小課題を設定するようにすると全校的な取組につながるものと考える。

▼成果の検証

 成果の検証に当たっては、目標を長期、中期、短期と分けて設定するとともに、どの程度達成できたかという評価の観点や方法を、取組の開始前に設定しておくことが重要。

 人を育てるということは、どうしても長期的な視点が必要となり、成果として表しにくい側面があるが、適切に目標を設定して事業を進めることが大切である。

▼校内のベクトル

 学校の組織運営の特性上、それぞれの教員の考え方の違いから共通理解を図ることが困難であったり、教員の業務は、各教科の目標を達成するための教育活動が大部分を占めているため、学校全体としての取組が弱まる側面がある。

 こうした校内での温度差を解消する一つの方策として、外部の助言や表彰制度を有効に活用することが考えられる。

 例えば、学校評議員と教員によるディスカッションを通して学校外の視点の共有を図ることや、第2章で紹介した学校外部の団体等が主催するプログラムに取り組んでみることなどがある。

 なお、こうしたプログラムを活用する場合においても、特定の学科・生徒を対象として実施するだけではなく、全校の生徒を対象として取り組むなどして、組織的な取組に対する教員の意識の改善を図っていくことが大切。

 このように校内体制を見直していくことについては、専門高校の管理職による強いリーダーシップの発揮が期待される。日ごろから学校全体で教育目標を意識した取組が行われ、その成果や課題を共有しているかということに目を向け、学校をマネジメントしていくことが大切である。

【外部とつながりをもつこと】

▼外部との連携に対する考え方

 専門高校からは、インターンシップや実習などの教育活動に対して外部から支援を得た場合に、その成果について支援を受けた外部の人と協働して評価することができていないことなどが課題として挙げられていた。

 このことについては、専門高校において、教育活動の目標が達成できない原因はどこにあるか明確な分析を行ったり、支援を受けた外部の人からの助言に対して改善方策を検討し、さらに検証したりすることが十分ではないことが、その要因として考えられる。

 このため、専門高校が外部に対して教育活動の依頼を行う場合は、専門的な知識や技術を身に付ける職業教育を行うのか、自ら進路先を考えることができるようにするキャリア教育を行うのか方向性を示すとともに、活動の目標を明確にして依頼し、事前に先方とゴールを共有できるよう、説明することが必要である。

 また、外部と連携した活動による学校の期待を分かりやすく観点ごとに示すとともに、その評価方法を説明し、複数の目で評価を行うことができるよう、理解を得ていくことが重要である。

 学校としては、多忙な企業に対し、自校の教育活動についての協力要請がしにくいと受け止めている面が強いようだが、企業側としては、生徒の希望はできるだけかなえたいと考えているところがほとんどである。

 こうしたことから、学校は、生徒が自主的な意思に基づいて何をしたいと考えているか、併せて学校としてはどのような期待をしているかについて、企業に明確に意図を伝えることが必要。

 また、生徒が希望するしないにかかわらず、受入事業所に割り振りしてインターンシップを行っている実態があることについて、早急に改善する必要がある。

▼カリキュラム・マネジメントの推進

 これからの専門高校には、産業界や大学などはもとより家庭・地域とも、生徒が未来の創り手となるためにどのような資質・能力を育むかという目標を共有し、生徒の成長などと指導内容とを照らし合わせ、関連付けを図りながら、効果的な指導が行われるよう、不断の見直しを行うカリキュラム・マネジメントの実現が求められている。

 このため、管理職のみならず、すべての教職員が教育課程を軸に自らや学校の役割に関する共通認識をもつことのほか、日々の授業等において、教育課程全体の中での位置付けを意識しながら指導の充実に取り組むことが必要となる。

▼教員のコミュニケーション・スキルの向上

 特に、学校外部の人的・物的な教育資源などと学校の教育内容とを効果的に組み合わせるなどした指導計画を立てるなど、最初に外部との接点をもつこととなる教員のコミュニケーション・スキルが重要となる。

 このため、道教委では、どの教員でも外部とうまくやり取りすることができるよう、コミュニケーション・スキルの高い教員の事例研究を取り入れた研修機会を設けることが大切である。

 この研修の内容としては、例えば、企業がこれまで学校からの協力要請があった場合に、最初にどういったアプローチを受けて納得できたか、何を伝えてほしかったかなどについての事例を研究し、協議を行うことなどが考えられる。

 また、こうした研修を通して、教員のコミュニケーション・スキルを高め、外部との対応が特定の教員に集中しないようにすることが大切である。

【多様な評価軸をもつこと】

▼評価の観点を設定した取組

 事業成果の検証に当たっては、どの程度達成できたかという評価の観点や方法を、取組の開始前に設定することが重要であることは、前述のとおり。

 このことについて、専門高校では、地域でどのような人材を育成するべきかとの視点から、不断の見直しを図ることが必要になる。

 特に、評価が画一的となっていないかについては配慮が必要。例えば、一般的にいわゆる明朗活発で明るく元気に大きな声であいさつでき、物おじせず自分を表現できる生徒は高く評価されがちだが、こうしたことが苦手な生徒に対してどのような評価規準をもっているかということについても目を向けることが重要である。

 このため、専門高校では、実習などを通して生徒の多様な強みを見つけ、それを認めることが大切。

 また、企業側も多様な能力をもつ人材を求めていることから、生徒がその強みを自覚し、インターンシップ等の中でそのもてる力を実践してみることなど、生徒個々にあった教育内容や評価方法を受入事業所と共有し、社会全体で子どもたちを育てていく視点をもった教育を行うことが大切である。

▼インターンシップの効果的な実施

 また、専門高校におけるインターンシップについては、生徒の自発性に基づく就業体験とすることのほか、長期間の実習を行うデュアルシステムや、段階的な目標を設定した複数回実施など、生徒の多様な個性の伸長を図ることができるよう、受入事業所とプログラムを設定することが重要である。

 こうしたインターンシップの実施に当たっては、生徒の希望や適性を把握した事前指導を行うことが必要。単に体験するだけのインターンシップでは、自己の進路を考えるきっかけにはなるものの、進路にかかわる意思を決定するための判断材料としては不十分であるため、事前指導の内容を受入事業所の担当者とも共有し、事後評価を行う際にも生徒本人を交えた面談を行うなどの工夫を図ることが求められる。この場合、自発性が発揮されずにいる段階の生徒に対しては、指導上の配慮が必要である。

 今後の産業教育では、生徒がこれまで重視してきた専門的な知識・技術を身に付けることに加えて、多様な課題に対応できる課題解決能力を育成することが重要となる。

 また、地域の一部としての教育機関に求められる役割を果たすため、地域や社会とのかかわりを重視した実践的な学習活動や、大学などとの接続など多様な学びを実現できるよう、より一層の指導の工夫改善が求められる。

 こうしたことから、道教委は専門高校、企業、大学等3者の枠組による協議の場を設定するなどして、専門高校がそれぞれの地域において、企業や大学等とのパートナーシップを構築することが容易になるよう取り組むことが大切。

 このように、社会に開かれた学校での学びが学んだことを社会に還元し、地域に貢献しようとする生徒の意識を高めることにつながることから、専門高校は地域を担う人材を育成する産業教育について、地域からの支援を得るよう理解を求めていくことが重要となる。

 また、第2章、第3章にもあるように、現在の専門高校には、こうした外部との連携を進める上で必要となるICT環境が十分でない状況が見受けられる。

 例えば、授業を行う教室や専門の技術習得を行う実習室、農場等にWi―Fi環境が整備されておらず、生徒は特定の場所で限られたインターネットサービスを利用するにとどまっている状況などが見受けられる。

 特に、卒業してすぐに社会に巣立つ生徒が多い専門高校においては、生徒指導の面での配慮もしつつ、個人の情報端末を柔軟に活用することや、データを地域社会の人々とも共有できるようクラウドの利用に習熟すること、実社会で行われているSNSを活用した企業広報などについて実習しておくことなどが必要であり、道教委には、あらためて専門高校のICT環境を早急に整備することが求められる。 

(道・道教委 2020-04-03付)

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