道研報告書「へき地・小規模校教員研修の在り方」 遠隔活用した研修方法開発(道・道教委 2020-04-13付)
遠隔研修を受ける教員
道立教育研究所は、令和元年度文部科学省指定「少子化・人口減少社会に対応した活力ある学校教育推進事業」における成果報告書『へき地・小規模校を輝かせる教員研修の在り方に関する調査研究報告書』を作成した。ホームページから閲覧することができる。1年間の指定の中で、遠隔研修を中心に、へき地・小規模校の教員研修における新たな可能性を追究してきた調査研究の概要や事例、成果の一部を紹介する。
■事業の概要
本事業は、「都道府県の指導・助言・援助の在り方に関する調査研究」を主題に「へき地・小規模校における教職員研修の充実」について1年間研究するもの。
大学、教育研究団体、教育委員会が連携・協力し、ICT機器を効果的に活用したへき地・小規模校に関する研修講座や小規模校同士の合同研修等を開発・実施・検証し、成果を普及させることを目的としている。
先進事例の収集や、関係機関が連携・協力した研修講座や合同研修会等の開発・実施などを通し、「遠距離にある研修会場をICT機器を活用してリアルタイムでつなぎ、受講者の実態や複式学級設置校のニーズに応じた協議・演習を行う研修講座の在り方」「遠距離にある小規模校同士がICT機器を活用して実施する合同研修や研究相談、情報交流等の在り方」について調査研究を行った。
■遠隔研修の試行実践事例
【複数の学校(勤務校)と道研を接続する遠隔研修(Web会議方式)】
▼対象校
▽岩見沢市立栗沢中学校(5学級、生徒数93人、教科担任数・外国語1人、全教職員数19人)
▽岩見沢市立上幌向中学校(6学級、生徒数59人、教科担任数・外国語1人、全教職員数18人)
▼実施のねらい
▽栗沢中=校内に外国語担当教員が1人しかいないため、遠隔による授業交流の機会を通して外国語の指導力を高めたい。
▽上幌向中=他校の外国語の授業を参観する機会が少ないので、互いの授業を見合って日常の実践を交流したい。
▼実施方法
両校の実施のねらいが本道の小規模校が抱える研修の課題と共通していたことから、両校の外国語担当教員と道研の外国語担当の研究研修主事がWeb会議システムを使用して遠隔合同研修を実施。「相互の授業を参観し、日ごろ感じている授業の悩みや指導方法等に関する実践交流」「道研所員3人からモデル授業配信」「モデル授業終了後の質疑応答・意見交換、授業に反映できる内容の確認」の3つの内容を展開した。
▼成果
校内に外国語担当教員が1人でも、遠隔の授業交流の機会を通して、外国語の指導力を高めることができた。
他校の教員と互いの授業に関して実践を交流したことで、多くの学びを得ることができた。
▼課題
通信環境があまり良くないため、映像や音声の遅れが度々あった。遠隔研修を行う環境を整備することが必要。
今回の方法では、個々の発話までは聞き取ることができなかったので、本時のねらいの達成状況を把握することが難しい。
▼今後の方向性
遠隔授業の事前に研修を行うなど、目的を焦点化することで、研修を一層充実させる。
システムを使って、校区の小学校の外国語活動を参観し合うことで、小中連携につなげる。
【各地の研修事例】
▼積丹町教委
▽日司小学校(1学級、児童数2人)
▽野塚小学校(3学級、児童数7人)
▽余別小学校(3学級、児童数8人)
▼実施のねらい
町の学校の小規模化が進み、教員同士の相談や研究が行いにくいことや、専門性を生かした授業が困難である課題を解消する。
▼実施方法
児童数1人の学年が多いことから、児童の考えを深めるためのペアでの対話やグループによる話し合いが重要な役割を果たす道徳科を中心に、Web会議システムで3校を結んだ遠隔授業を実施。
▼成果
3校の教員が協働して授業づくりを行うことができるようになった。
対話を取り入れた授業によって、児童の多面的な思考を促すことができるようになった。
▼今後の方向性
事前打ち合わせや機器のセッティングを短時間で行うための工夫が必要。
▽道徳科以外の教科で遠隔授業を行うために、3校の授業進度を合わせることが課題
【遠隔研修推進のポイント(積丹町教委の事例から)】
▼研修を進める上での留意点
年度当初に、遠隔合同授業についての教員研修を行う意義や目的、具体的な授業イメージ等について共通認識をもつ。
遠隔授業ならではの授業設計や指導方法等の理解を深めることをねらいとする合同研修を実施する。
授業実施後の振り返りも研修の機会ととらえ、次時に向けた打ち合わせと併せて短時間で毎回実施する。
定期的に遠隔合同研修の機会を設け、遠隔合同授業の工夫改善について、意見交換し、授業づくりに生かす。
▼教職員の声(成果)
▽友達と意見を交流する学習に対する子どもの意欲が向上した
▽子どもが多様な意見を述べることができるようになった
▽子どもが相手意識をもって発言したり友達の意見に対して反応したりできるようになった
▽広角レンズを活用するなど、工夫次第で子どもの実態に合わせた活動が可能であることが分かった
▼教職員の声(課題)
▽現段階では1単位時間で完結する道徳科の授業での活用に限定されていることから、今後は各教科等での活用に向けて、進度を調整していく必要がある
▽事前の打ち合わせや、機器のセッティング等にかかる時間を短時間で行えるよう工夫する必要がある
【遠隔研修に期待される効果と今後解消する必要がある課題】
▼期待される効果
▽移動時間がかからない
▽学校を空けることなく勤務地で研修できる
▽個別の課題意識に対応した内容の研修を受講することができる
▽遠隔合同研修を研修の場とするなど、日常の業務において研修できる
▽ほかの地域や他校の教員など、様々な意見にふれることができる
▽最新の知識や情報、新たな指導方法、専門的知見にふれることができる
▼解消する必要がある課題
▽機器の設置やインターネット回線の整備
▽機器のトラブルの際の技術的な対応
▽タイムラグ等、遠隔システムの特性を踏まえた研修内容および進行
▽遠隔で行うことが効果的な研修内容の精選
■研究の成果と今後の取組
【研究の成果】
へき地・小規模校の教員の個別課題に対応した遠隔研修の試行や、研修機能をもたせた遠隔合同授業の効果の把握によって、遠隔システムを効果的に活用した研修方法を明らかにすることができた。
勤務校で受信する遠隔研修の試行や、大学等の関係機関が有する既存のネットワークと教育力を活用した遠隔研修の実施によって、研修会場への移動時間などの教員の負担を軽減するとともに、へき地・小規模校に適した効果的な研修を実施することが可能であることを明らかにすることができた。
先進校における研修機能を有した業務推進体制の効果の把握および外部有識者からの意見聴取によって、研修を関連付けた業務推進体制の重要性を明らかにすることができた。
【今後の取組】
道研と道教育大へき地・小規模校教育研究センターおよび道へき地・複式教育研究連盟が連携した遠隔研修講座の実施。
道内の市町村および管内教育研究所などで実施する道研研修講座における本研究成果の普及・還元。
調査研究に参加した市町村および学校における研究結果の活用の継続的な把握と支援。
(道・道教委 2020-04-13付)
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