道教委が新任指導班主査研修会 全教室で豊かな学びを 赤間学校教育監 再開後の指導
(道・道教委 2020-05-28付)

赤間幸人学校教育監
赤間幸人学校教育監

 道教委は25日、遠隔会議システムによる令和2年度新任指導班主査研修会を開いた。赤間幸人学校教育監が「教育課題~学習指導要領改訂等を踏まえた教育改革の推進」と題して教育改革の動向や学校再開後の指導の工夫などを解説。「本道のすべての教室で豊かな学びを提供できるよう、教育行政を担う一員として健闘してほしい」と呼びかけた。

 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、従来の2日間日程を1日に短縮し、道庁別館、各教育局、道立教育研究所、道立特別支援教育センターを遠隔会議システムで接続して実施した。

 概要はつぎのとおり。

▼教育改革の動向

 文部科学省「Society5・0に向けて取り組むべき政策の方向性」、教育再生実行会議第11次提言、中央教育審議会への諮問「新しい時代の初等中等教育の在り方について」などの国の動向を踏まえるとともに、本道の教育大綱、2年度教育行政執行方針の趣旨を十分理解して、教育行政を推進することが重要である。

▼高校教育改革の推進(地域創生・高大接続改革等の観点から)

 第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略などにおいて、地域創生の観点からの高校教育改革が進められていることを踏まえることが大切である。学校においては、生徒が地域課題の解決を通じた探究的な学びに取り組むことが求められており、小・中学校においても、発達段階に応じて地域課題に関する学習の充実を図ることが期待されている。

 平成30年度から令和2年度の道ふるさと・みらい創生推進事業高校OPENプロジェクトは全国的にも先進的な取組であり、今後、道内の高校に取組を広げていくことが求められる。

 高大接続改革は、高校教育を含む初等中等教育改革、大学教育の改革、大学入学者選抜改革の一体的改革であり、初等中等教育においては、小学校から高校を卒業するまでに身に付けるべき資質・能力を育成する観点から、授業の在り方を改善していくことを求めている。

 高校生のための学びの基礎診断は、各高校の判断で活用する測定ツールによって、生徒の学習成果や課題を把握して、教育課程や学習・指導方法の改善に生かすことが重要である。道教委が実施する学力テストを測定ツールとして活用する場合、これまで以上に学校のPDCAサイクルに位置付けていくことが望まれる。

 また、高校入学者選抜については、新中学校学習指導要領の趣旨を踏まえ、基礎的・基本的な知識および技能とともに、思考力、判断力、表現力等についてもバランスよく出題することに留意して改善を図ることが求められており、道教委としては、こうした趣旨を踏まえ、4年度道立高校入学者選抜から、学力検査においてすべての生徒に同一の問題を課すこととした。

▼学習指導要領の質的転換

 これまでの学習指導要領は、どのような内容を教えるかを中心とした構造であったが、今回の改訂では、学習指導要領の構造を、育成を目指す資質・能力を起点として見直し、何を学ぶかだけでなく、何ができるようになるか、どのように学ぶかの観点から改善が図られていることを再確認していただきたい。

 学力の要素として、知識および技能の習得、思考力・判断力・表現力等の能力の育成、主体的に学習に取り組む態度のかん養に加えて、個性を生かし多様な人々との協働を促すこと(多様性・協働性)が示されたことに留意する必要がある。

▼学校として育成を目指す資質・能力とカリキュラム・マネジメントの推進

 新学習指導要領では、育成を目指す資質・能力について、生きて働く知識・技能の習得、未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力などの育成、学びを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力・人間性等のかん養―の3つの柱が示されているが、育成を目指す資質・能力には大きく2つの要素があり、1つは学校として育成を目指す資質・能力であり、もう1つは各教科・科目に示された資質・能力である。

学校として育成を目指す資質・能力については、学習の基盤となる資質・能力、現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力などの教科等横断的な視点に立った資質・能力を、学校教育目標に明確に位置付けることが求められている。

 また、各学校で育成を目指す資質・能力について、同一中学校区内の小学校と中学校や地域で共有することが望ましく、地域によっては、高校も含めた12年間を通して子どもたちが身に付ける資質・能力を共有することも期待される。

 学校のカリキュラム・マネジメントについては、教科等横断的な視点に立ち、学校として育成を目指す資質・能力を育むよう、教育活動や学校経営の取組を進めることが求められており、校長の方針のもと、すべての教職員が役割を分担しつつ、連携しながら、カリキュラム・マネジメントを行うことが求められている。

▼各教科で育成を目指す資質・能力と授業改善

 新学習指導要領では、各教科の目標および内容が資質・能力の3つの柱で再整理され、特に、内容に示された思考力、判断力、表現力等を読み込むことが重要であり、その育成のため、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善が求められていることを十分理解して、指導助言に当たっていただきたい。

 その際、思考力、判断力、表現力等や学びに向かう力・人間性等の資質・能力を各教科の知識・技能と結び付け、汎用的な資質・能力と領域固有の内容を一体的に身に付けることが、今回の改訂の重要点であることを十分認識していただきたい。

 このことは、OECDのキー・コンピテンシーなど、資質・能力の考え方の世界的な潮流を踏まえていることも意識していただきたい。

 資質・能力の3つの柱を偏りなく実現できるよう、教科用図書検定基準も改定され、今後、教科書を使って指導する際に、学習指導要領改訂の趣旨を十分生かすことが求められている。

 各教科の観点別学習状況評価についても、資質・能力の3つの柱をもとに、知識・技能、思考・判断・表現、主体的に学習に取り組む態度となることを踏まえる必要がある。

 主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善については、学習内容や時間のまとまりの中で、学習を見通し振り返る場面や、グループなどで対話する場面、児童生徒が考える場面、教師が教える場面などをどのように組み立てることによって、すべての児童生徒の学びを深めることができる授業を進めていくかが重要である。

 これまで、知識を習得すれば自然と活用力も身に付くと暗黙裏に考えられてきたが、そのような学習の転移は簡単に起こらないことが検証されてきており、活用力を身に付けるためには、授業で活用のプロセスを学ぶことが必要であることが指摘されている。

 活用力を育むためには、考えた結論だけでなく、考えのプロセスを語ることによって、交流を生むことが必要である。

 また、自分で何を学んだかというメタ認知(振り返り)ができる授業をしないと学力は身に付かないと言われている。

 TIMSS(国際理科・数学教育動向調査)1995と2015の分析によると、日本のグループ学習の実施度と学力は、1995では逆相関を示していたが、2015では高い相関関係に転じ、20年間で日本のグループ学習は質的に大きな変化を遂げていると指摘されている。

 Society5・0などの社会変化を踏まえると、学校においてこそ、対話や協働、学び合いや教え合いなどを通じて人間としての強みをさらに伸ばし、発揮することが必要とされ、教師には、高い専門性とともに、集団としての学びの質を高める力量が求められている。

▼学習指導と生徒指導、困難さに応じた指導の工夫

 新学習指導要領において、学習指導と関連付けながら、生徒指導の充実を図ることが明確に示された。学習指導において、主体的・対話的で深い学びなどを通し、教職員と児童生徒の信頼関係や児童生徒相互の人間関係を築くとともに、自己存在感を実感しながら、自己実現を図っていくことができるよう、児童生徒理解を深め、生徒指導の充実を図ることが求められる。

 いじめや不登校の未然防止に向け、児童生徒のコミュニケーション能力を育むことが重要とされており、道教委が道医療大学と共に作成した子ども理解支援ツール「ほっと」によって、児童生徒のコミュニケーション能力を客観的に把握することが効果的である。

 生徒指導上、大きな課題となっている青少年の自殺予防教育を進めるため、学校教育の様々な場面で、助けを求める方法やつらいときには助けを求めてもよいということを学ぶSOSの出し方に関する教育を充実させていくことが重要である。

障がいのある児童生徒等への指導については、通常の学級においても、一人ひとりの教育的ニーズに応じたきめ細かな指導や支援ができるよう、障がい種別の指導の工夫のみならず、個々の児童生徒の困難さに応じた指導内容や指導方法の工夫が求められ、学習指導要領解説に示されているきめ細かな工夫例を参考にすることが大切である。

▼学校教育の情報化推進

 現在、国のGIGAスクール構想によって、各学校における通信ネットワークと、小・中学校における1人1台端末の整備が進められており、道教委としては、学校のICT環境整備とともに、ICT教育の内容の充実に資するよう、本年度新たにICT教育推進局を設置し、ICTを活用した指導の工夫や学校の先進的な取組等の紹介などを進める予定としている。

 また、本道の地域の小規模な高校等で、幅広い教科・科目を学ぶことができるよう、来年度からの遠隔授業の本格実施を目指し、遠隔授業の配信センターの設置に向けて取り組んでいる。

 GIGAスクール構想では、一人ひとりの反応を踏まえた双方向型の一斉授業や、一人ひとりが同時に別の内容を学習し学習履歴が自動的に記録される個別学習、一人ひとりが各自の考えで編集した情報を即時に共有し意見交流ができる協働学習など、すべての教室で、誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学びを実現することを目指している。

▼新型コロナウイルス感染症に伴う臨時休業等の対応

 これまで、児童生徒の学習指導、学習の保障、学校運営上の工夫、学びの保障の方向性等についての通知等が出されており、今後、学校における感染およびその拡大のリスクを可能な限り低減しつつ段階的に実施可能な教育活動を開始することになるので、学校の状況に応じた指導助言を願う。

 各学校では、可能な限り授業時数の確保に向けた工夫を行うとともに、学校の授業における通常の学習活動で指導を終えることが困難な場合の特例的な対応として、個人でも実施可能な学習活動の一部を家庭学習等において行うことなどによって、学校の授業において行う学習活動を重点化することが可能とされている。

 その際、家庭学習等の内容が指導計画に適切に位置付くものであること、教師が学習状況・成果を適切に把握することが可能であること、十分な学習内容の定着がみられることが要件となるので、留意願う。

▼最後に

 学校教育の基本は授業である。誰一人取り残すことのない学びの実現を目指し、本道のすべての教室で豊かな学びを提供できるよう、教育行政を担う一員として健闘いただきたい。

(道・道教委 2020-05-28付)

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