教職員の協力を高める学校づくり〈No.52〉 “同調圧力”とは 職員室の心理学 3(教職員の協力を高める学校づくり 2020-10-27付)
人は多くの方の意見に同調行動(周りの意見や行動に合わせ、自分も同じように行動をとることをいい、意識的や無意識に行っているケースがみられます)を図ることがみられ、「自分をしっかりもって、建設的な意見を述べてほしい」と話してみるものの、この状況はなかなか変わりません。特に公的な場ほど、この傾向が高くなると言われています。
それでは、なぜ、人は周りに合わせてしまうのでしょうか。
その理由として、同調圧力による影響が考えられます。同調圧力とは、多数意見に合わせるよう暗黙のうちに強制することをいい、仲間を表す「peer」と、圧力を表す「pressure」を合わせて「peer pressure(ピアプレッシャー)」とも言われています。
自分なりの独自の考えが言いづらい、仕事が終わっても自分だけ早く帰るわけにはいかないなどが同調圧力と言えます。
同調圧力は、否定的な意味で使われることが多いようですが、お互いに周囲に合わせようとすることで、チームワークがよくなり、「周りに迷惑をかけたくない」という気持ちがもたらされ、心の安定を図ることができます。
しかし、行き過ぎてしまえば、新しいことに挑戦するなど自分だけが出過ぎてはならないと感じたり、他の職員の目を気にし、失敗を過度に恐れて萎縮してしまったりと、個々の教育活動や学校全体にマイナスに作用することがあります。
これには、日本特有のコミュニケーションの歴史が背景にあると言われています。「場の空気を読む」という言葉があるように、これができないと暗黙のうちにネガティブな評価を受けてしまいます。
また、他人と衝突することはなるべく避け、和を尊ぶという考え方が広く共有されていることに由来しています。
こう考えると、自分の意見を言わずに我慢するというのは、チームワークを乱さないこと、集団の和を乱さないことを優先していることが、周りに合わせる理由と言えます。
もしも、職場の雰囲気にそう感じたならば、つぎのようなことを意識されたらどうでしょうか。
①積極的なコミュニケーションを図る
同調圧力を感じると、同僚とのコミュニケーションが減少し孤立しがちとなります。
まず、そのような自分を俯瞰(自分をもう1人の自分から客観的にとらえる)し、つぎに積極的なかかわりをもつようにします。
かかわりが多くなれば自己開示が進み、親密段階が高まり同調圧力を感じることは少なくなります(人間関係には、低親密度、中親密度、高親密度の段階があり、互いに理解し合う深さと広がりは、接する機会が多ければ、それだけ関係性が高まりやすいと言われています)。
②職場での自分を確立する
相手の立場に配慮し、①で説明したように、職場への適応(その場の状態・条件などによくあてはまること)を図りながら、「言うべきことは、しっかり伝える」など、周りの同僚に認めてもらうよう努めることです。
それによって、職場での立ち位置が明確化され、過度な同調圧力を感じることが少なくなりストレスも減少します。
ただし、相手へ自分の考えを伝える場合は感情的にならないように注意する必要があります。
(北海道文教大学人間科学部子ども発達学科教授・石垣則昭)
参考・引用文献
「社会心理学」 池田謙一・唐沢譲・工藤恵理子・村本由紀子著 有斐閣
「認知心理学」 箱田裕司・都築誉史・川畑秀明・萩原慈著 有斐閣
「人間関係の心理学」 齋藤勇著 誠信書房
(教職員の協力を高める学校づくり 2020-10-27付)
その他の記事( 教職員の協力を高める学校づくり)
教職員の協力を高める学校づくり 〈No.57〉 傾聴し感情吐出させる 保護者との信頼関係築く対応 1
今回から、保護者との信頼関係を築く対応について、10回掲載します。 教育活動は学校種別を問わず、地域や保護者の信頼関係を高めながら進めることが求められているのはいうまでもありませんが、...(2021-01-19) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈No.56〉 注意、指摘の仕方とは 職員室の心理学 7
社会問題として「ハラスメント」が取り上げられるようになり、注意、指摘が難しい時代になってきたと管理職や経験豊かな教職員から聞かされます。 「目につくことがあるけれど、言わないほうがいい...(2020-12-18) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり 〈No.55〉 互いの意識づくり 職員室の心理学 6
人は「そのとおりである」「それは違う」と評価を受けることで態度が変化します。肯定されるならば、自分に自信をもち、以降、発言したように活動をしようとします。しかし、自分の意見が否定されると、...(2020-12-07) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈No.54〉 求められるリーダーシップ 職員室の心理学 5
教育の場だけではなく、様々な場や機会でリーダーシップの在り方が問われています。今回は「職場に求められるリーダーシップ」と題し説明いたします。 社会心理学では、「民主型」「専制型」「放任...(2020-11-27) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり 〈No.53〉 集団極化現象とは 職員室の心理学 4
会議などで特異な意見を述べる人に注目が集まり、決定事項も時として偏った内容になることがあります。物事を決定するのは、一人で決めるよりも集団で話し合うほうが安全でよい決定となるとは限らないと...(2020-11-11) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈No.51〉 売り言葉に買い言葉 職員室の心理学 2
何気ない日常で、相手の否定的な感情を込めた言葉に、つい自分も感情的になり後味の悪い幕切れとなることがあります。 その後、口には出さないものの、互いの対立意識が強まり職員室全体の士気に影...(2020-10-07) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈No.50〉 人は誰に相談をするのか 職員室の心理学 1
毎日の学習指導や生徒指導など、様々な課題を抱えながら教育活動を進められていると存じます。また、職員間の同僚性が高く、相談機能が発揮されているならば、様々な問題の解決に向け歩むことができます...(2020-09-24) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈No.49〉 毅然とした態度が必要 そして子どもたちはきずつく 5
【学校の役割とは】 学校は、学習と人間関係を学ぶ場です。しかし、人間関係は、どちらかというと子どもたち任せで、連絡を伝達し、結果による注意、指導するだけの教師を見聞きします。 学習に...(2020-09-07) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈No.48〉 満足度高める授業の工夫を そして子どもたちはきずつく 4
【生徒指導の機能とは】 研修会の折、授業と生徒指導は別問題であると発言した先生がいました。 別問題とする考えをお話しくださいと問うと、生徒指導とは問題行動に対応することであり、授業は...(2020-08-26) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈No.47〉 認め合う機会と場構築 そして子どもたちはきずつく 3
【エピソードで考える学校づくり】 ある中学校のエピソードを紹介します。 その学校は、校舎内外に子どもたちが捨てたごみが日常的に散乱していました。当然、ごみの散乱だけではなく授業中も落...(2020-08-12) 全て読む