教職員の協力を高める学校づくり〈No.51〉 売り言葉に買い言葉 職員室の心理学 2(教職員の協力を高める学校づくり 2020-10-07付)
何気ない日常で、相手の否定的な感情を込めた言葉に、つい自分も感情的になり後味の悪い幕切れとなることがあります。
その後、口には出さないものの、互いの対立意識が強まり職員室全体の士気に影響し、その結果、職員会議などでは目的にほど遠い対立、休憩時間などでの陰口、連絡や報告が不徹底となり、子どもたちの教育活動にも影響を与えてしまいます。
売り言葉に買い言葉とは、相手の乱暴な言葉に対して同じように応酬することのたとえをいいますが、社会心理学ではつぎのように分類されます。
▽悪意のマインド・リーディング
互いに悪意から発言していると思い込む傾向が強まり、関係性を悪い方向に考えてしまうことをいいます。
少し関係が悪くなり、気を遣うような相手に対して、例えば、朝「おはようございます」と声をかけたが返答してくれないと、きっと私を避けているのだろうと思い込んでしまう場合をいいます。
▽ネガティブ・インパクト・コミュニケーション
関係性が悪いときには、ショック度の大きいネガティブな情報交換をする頻度が高まり、相手へ伝える情報が、無意識にネガティブな態度や発言になっていく場合をいいます。
▽相互批判コミュニケーション
「いつも何をしているのだ」「そのようなことは言われたくありません」など、互いに非難するコミュニケーションをいいます。これでは、互いの関係性を悪化するだけです。
▽勝負のコミュニケーション
「あの人には負けたくない」など、仲が悪ければ悪いほど競ってしまいがちで、話の本題よりも勝つか負けるのか、勝負、互いに挑むコミュニケーションをいいます。生活の多くには当然「勝ち」も「負け」もありません。
▽メタ・コミュニケーションへの落ち込み
会話のための会話をいい、「それで結局、何を言いたいの」「どうして、そんなことを言うのだろう?」などの発言の応酬をいいます。
▽自己完結的コミュニケーション
相手との会話ではなく、自分で勝手に結論を導き出してしまうコミュニケーションをいい、「〇〇さんは結局、○○について○○だと言いたいのでしょう」といった発言で、相手を追い込んでしまい、関係修復どころか、関係が余計に悪化します。
このような、関係性を悪化させるコミュニケーションに共通している問題は「思い込み」です。思い込みとは、ある考え方に執着し相手の理にかなうよりも、自分が正しいことを主張するための前例や先入観をいいます。
人間関係を悪化させず、円滑な関係を築くためには、①自分が間違っているかも知れないという、いい意味での自分を疑う思考をもつ②職員室の相手を職員室で会う姿だけではなく、一人の人間として、地域や家庭人としての姿を多面的にイメージする―などを心がけるようにしてはどうでしょうか。
人は自分だけの感情で相手を見ていますが、同時にそれは、自分が見たいように相手を見ていることになります。
このように自分の思い込みに気付くことで、相手を別の角度から理解し、他人を受け入れるようになります。
(北海道文教大学人間科学部子ども発達学科教授・石垣則昭)
参考・引用文献
「社会心理学」 池田謙一・唐沢譲・工藤恵理子・村本由紀子著 有斐閣
「認知心理学」 箱田裕司・都築誉史・川畑秀明・萩原慈著 有斐閣
「人間関係の心理学」 齋藤勇著 誠信書房
(教職員の協力を高める学校づくり 2020-10-07付)
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