教職員の協力を高める学校づくり 〈No.55〉 互いの意識づくり 職員室の心理学 6
(教職員の協力を高める学校づくり 2020-12-07付)

 人は「そのとおりである」「それは違う」と評価を受けることで態度が変化します。肯定されるならば、自分に自信をもち、以降、発言したように活動をしようとします。しかし、自分の意見が否定されると、自分に自信をなくし違う考え方を模索しようとします。

 行動主義心理学(内的・心的状態に依拠せずとも科学的に行動を研究できるという主張)の基本的な理論である報酬や罰といった「結果」を得ることによって、自発的に「行動」を取るようになる学習をオペラント条件付けといいます。これは、あくまでも条件反射とは違い、生物の自発的行動の理論です。

 具体的に説明しますと、認められ褒められれば、仕事に前向きに取り組み、よい結果を出すよう努力するなど、正の刺激によって行動の頻度が促進され、①行動を起こす↓②良い刺激を受ける↓③さらに行動を起こす、という流れになります。

 しかし、逆に誰からも認められることがなく、褒められることがなければ、仕事に前向きに取り組む意欲は低下します。誰からも認められない、褒められないは負の刺激であり、行動の頻度が抑制され、①行動を起こす↓②悪い刺激を受ける↓③行動を起こさなくなる、というパターンとなります。

 望ましくない行動がみられたときには、その行動を抑制するため、注意・指摘し、行動を起こさないようにしなければなりません。つまり、人の行動には、報酬と罰の双方を使い分け、接することが大切であるといえます。

 ここで問題があります。双方の使い分けと説明しましたが、認められ褒められることがなくして頻繁に注意・指摘をされ続けると、どのような感情を抱くのでしょうか。

 「〇〇さんは認め、褒めるところは見当たらない。注意・指摘することが多い」と言われる方がいますが、その都度、注意や指摘が繰り返されると、相手のメンタルを損なう恐れがあります。特に若年層の教職員には留意しなければなりません。

 相手に注意・指摘をするためには認め、褒める機会が日常的に必要です。「注意・指摘は認め、褒めるためにあり、認め、褒めるためには注意・指摘」が基本です。また、自身の経験知によって、「〇〇くらいはできて当然である」ではなく、できているところを認め、褒めるようにしてはどうでしょうか。

 さらに、職場の教育力を高めるためには望ましい人間関係づくりが大切であるといわれています。

 アメリカのある工場で「ホーソン実験」といわれる実験が行われました。内容は、従業員に一定の心理状態で仕事を進めてもらうため、面談し職場改善などの願いを聴き職場の関係を高め、個々の存在を認めるようにした結果、生産性が向上したとの実験です。

 つまり、職場の人間関係の満足度が教育力を高めることにつながると言い換えることができます。職場の人間関係の満足度を高めるためには端的に述べると、「ありがとうございます」を自然と発するような職場づくりです。日常的にこの言葉が飛び交うことによって、互いを尊重する意識が高まり、協力して教育活動を進めやすくなります。

(北海道文教大学人間科学部子ども発達学科教授・石垣則昭)

参考・引用文献

「社会心理学」 池田謙一・唐沢譲・工藤恵理子・村本由紀子著 有斐閣

「認知心理学」 箱田裕司・都築誉史・川畑秀明・萩原慈著 有斐閣

「人間関係の心理学」 齋藤勇著 誠信書房

(教職員の協力を高める学校づくり 2020-12-07付)

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