教職員の協力を高める学校づくり〈No.59〉 心情に寄り添い聴く 保護者との信頼関係築く対応 3(教職員の協力を高める学校づくり 2021-02-03付)
保護者には「先に謝るべきである」と言われる方がいますが、重大な事案以外は「このたびは誠に申し訳ありません。お詫び申し上げます」と述べるのではなく、「このたびは不快な思いをさせ、申し訳ありません。きょうはお話をお聞かせいただけますか」としてはどうでしょうか。
このポイントは「不快な思い」と述べるところに意味があります。訴えの内容ではなく、保護者の心情を害したことにお詫びをし、つぎに「お話をお聞きします」とします。
つまり、どのようなことに対して心情を害したのか話してもらい、保護者の感情を受け取る意味が含まれています。
保護者の感情を受け取るためには、聴く側の態度が極めて重要です。
特に、管理職の先生や主任などスクールリーダーが、視線を逸らし、腕や足を組み、ソファーに深く座り込むような態度をとっては、上から目線になり感情に火をつけることになります。
「うなずきは会話のエンジン」といいますが、保護者なりの考え方や感情を述べたときを中心にうなずき、話の内容に同調(保護者と対立することなく調子を合わせること)し、感情の高まりを軽減します。
また、時折、「そうでしたか」「お気持ちはよく理解できます」「大変つらい思いをさせてしまいました」、さらに、学校の方針と一致している場合は「お母さん、立派なお考えですね」などの言葉を発し、保護者の話を受容(相手を否定し評価することなく、存在自体を受け入れること)、支持(相手の意見や行動を認めて、後押しをすること)し、保護者をクールダウンするように話を聴きます。
電話の対応も同様であり、保護者と直接対面していることを想定し「うなずき」ながら、前記のような「相づち」が大切です。
しかし、保護者が感情的に学校や教師への非難を繰り返すと、ついつい保護者の感情に乗じ、非難や否定の応酬となり、「学校や先生の考え方はよく分かりました」と席を立ち、次回以降の対応を難しくさせる事例もあります。
こうなると、次回以降は保護者なりの対抗策を講じて学校に来ることになり、親しい保護者や近所の方にネガティブな情報をふれ回り、同意してくれる方の理解を求めようとします。その結果、学校に対する不信が拡散されてしまいます。
保護者の話は、たとえ事実と違い想像的で思い込みの強い話であっても、「それは違います」などと否定し、口を挟まないことです。
口を挟まず聴くことによって、保護者が事実についてどう感じているかが理解でき、対応の手立てのヒントとなります。
また、保護者の中には、一方的に話をしている自分が不安になり、相手がどう理解しているのか知りたいために「〇〇について答えてください!」と声を荒げるときがあります。
「お話をお聞かせいただきありがとうございます。さらに、〇〇についてお話を聞かせていただけますか」「お話をお聞きした〇〇について、〇〇と考えられていることに、さらに理解を深めることができました。ありがとうございます。〇〇についてもう少し、お話を聞かせていただけますか」などと発言します。
保護者の感情的な誘導発言に乗ってしまい、のちのち、「〇〇先生、前回〇〇と言いましたよね」などと、言った、言わない論争に巻き込まれることもあります。
難しい保護者との対応では、まず、保護者の心情に寄り添い聴くことです。
(北海道文教大学人間科学部子ども発達学科教授・石垣則昭)
引用・参考文献
「コミュニケーションハンドブック」 石垣則昭 登別市教育委員会・登別市校長会
「保護者と信頼関係を築く関わり」 石垣則昭 ぎょうせい悠+(はるかプラス)連載
「児童心理臨時増刊NO984“難しい親”への対応」 金子書房
「“過剰反応社会”の悪夢」榎本博明 角川新書
「事例解説 教育対象暴力―教育現場でのクレーム対応―」 近畿弁護士会連合会民事介入暴力及び弁護士業務妨害対策委員会 ぎょうせい)
(教職員の協力を高める学校づくり 2021-02-03付)
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