教職員の協力を高める学校づくり〈No.61〉 事実関係を正確に確認 保護者との信頼関係築く対応 5
(教職員の協力を高める学校づくり 2021-03-10付)

 保護者が穏やかに変化したところで、何が問題となっているのか、事実を正確に確認します(感情的な物言いをしているときと、比較的冷静になったときの意見が変わることがみられます。感情的な意見を真に受けてしまうと、保護者も引っ込みがつかなくなる恐れがあります)。

 また、事実を正確に確認するために、保護者の了解を得て内容をメモします。

 事実確認で重要なことは、保護者のとらえ違いや思い込みを論破することではありません。たとえ、保護者の思い違いがあったとしても、非を正すような言い方をすると、以降の信頼関係は築けなくなります。

 事実確認は、①いつ、どこで、どのようなことがあったのか②どのようなことに保護者は不満を感じているのか③不満は誰がもっているのか(児童生徒、保護者、祖父母など)④どのような問題点があったのか⑤教師や学校にどのような要求をしているのか―などを正確に聞き取るようにします。

 さらに、保護者の不満を受け、事実確認を該当の教師や児童生徒から聞き取ると、「そのようなつもりはなかった」「そのようなことは知らなかった」などと自己弁護に終始する場合があります。この内容は、当事者の保護者に伝える内容ではありません。

 また、児童生徒から聞き取りをする場合は、保護者へ連絡することが必要です。あくまでも聞き取りですので、聞き取りをする教師の思い込みで指導や説教調の対応は控えなければなりません(「先生が怖かったのでウンと言ってしまった」などを、防がなければなりません)。後々、聞き取りをした児童生徒の保護者から教師や学校へ苦情が寄せられ、対応に混乱を来すこともあります。

 正確な聞き取りが、以降の対応を適切なものにします。あってはならないのは、最初の聞き取りが経過によって変わり、不信感をもたれることです。聞き取りは、特定の先生が行い、児童生徒をグループ単位で行うのではなく、聞き取りをする教職員同士で事前に聞き取り方を確認し、できれば同時間に行うことが望まれます。

 保護者が電話で不満を述べた場合は、来校する日までに事実関係を正確に把握しておきます。直接、学校に不満を述べに来たときは、前記で挙げた事実確認によって聞き取りをしますが、電話であれ、対面であれ「〇〇についてのご意見でよろしいでしょうか」「〇〇について、〇〇とのご意見ですね」「〇〇さんは、〇〇との要望でよろしいでしょうか」など、保護者の話を丁寧に聞き取り、それぞれ確認をします。

 事実関係を知らせる場合は、電話ではなく来校を促すようにしますが、一度電話を切り早い段階で、「〇〇日の〇〇時の都合はどうでしょうか」と尋ねるようにします。

 この迅速な連絡は、「先生や学校は、すぐ動いてくれている」との印象を与え、よい影響を与えます。ただし、来校を促すときは、「学校に来られるのはお母さんですね」などと確認を取ってください。保護者の応援団として近所の方や友人を同行させ、対応が混乱した事例もあります。

(北海道文教大学人間科学部子ども発達学科教授・石垣則昭)

引用・参考文献

「コミュニケーションハンドブック」 石垣則昭 登別市教育委員会・登別市校長会

「保護者と信頼関係を築く関わり」 石垣則昭 ぎょうせい悠+(はるかプラス)連載

「児童心理臨時増刊NO984“難しい親”への対応」 金子書房

「“過剰反応社会”の悪夢」榎本博明 角川新書

「事例解説 教育対象暴力―教育現場でのクレーム対応―」 近畿弁護士会連合会民事介入暴力及び弁護士業務妨害対策委員会 ぎょうせい

(教職員の協力を高める学校づくり 2021-03-10付)

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