教職員の協力を高める学校づくり 〈No.57〉 傾聴し感情吐出させる 保護者との信頼関係築く対応 1(教職員の協力を高める学校づくり 2021-01-19付)
今回から、保護者との信頼関係を築く対応について、10回掲載します。
教育活動は学校種別を問わず、地域や保護者の信頼関係を高めながら進めることが求められているのはいうまでもありませんが、十数年前より現代社会を象徴するかのような現象の一つとして挙げられているのがクレーマーであり、様々な場や機会で、自身の主張を述べるのが難しい立場にある人が対象となっています。また、増加傾向にあるこの状況を社会病理(社会で発生している異常な出来事であり、社会において存在している逸脱や支障などの事柄)であると述べる方もいます。
特に、教育の場では、かかわりの難しい保護者の存在が様々な機会に取り上げられ、保護者に翻弄される教師の様子が浮き彫りとなり「自己喪失感」(自分という存在を否定したくなる心境のこと)にさいなまれ、心に痛みを感じ、通常の教育業務ができない状況に陥る場合もみられます。
保護者にしてみれば、当然言い分はありますが、教師の立場を全面否定し、心の傷となるような言動に憤りを感じるのは私だけではないはずです。
かかわりの難しい保護者の心理は、「自分の主張が正しく、優位である」と感じ、不当な要求や相手を傷つけている認識はなく、自分の言い分は妥当であると考えているのが一般的です。さらに、保護者なりの個別の価値観をもって主張しますので、意見の内容は教師や学校組織との食い違いが生じます。
「自分の考えがすべてである」との思いを根底にもっている保護者には、教師や学校が子どもたちへの対応や役割を述べても理解しようとしません。そればかりか、感情的な攻撃に転じることもあります。
保護者対応でよく見かけるケースとして、保護者との面談の最初に「学校は毅然としている姿を保護者に見せるべきである」と言われる方がいます。
確かに教師や学校の毅然とした対応は大切です。しかし、対応の順序立てを間違うと、感情を逆なでする結果となります。連載の中で私の対応の体験を含めた内容を記載しますが、保護者対応の基本ステップの1は、口を挟まず話を聴き感情を吐出させることです。
研修会の折、「クレームの定義を教えてください」との質問がありましたが、保護者個々の価値観によるため、定義を設定するのは難しいとお答えしています。ただし、一般的な心理的背景は次回に記載します。
学校や先生から「保護者からのクレームで悩んでいる」と相談される機会があります。よくよくお話を聞くと、クレーム自体をネガティブにとらえ対応するため、かえって問題をこじらせている事例もあります。
保護者が感情的な言い方であっても、学校への教育改善を求めているケースもあり、学校や教師の教育力を高める機会とすべき内容も多く含んでいます。保護者からの連絡イコール、クレームではありません。
対応の最初は、保護者の語調に心を揺り動かされることなく、「何を訴えているのか」「何について、どう改善すべきと述べているのか」を聴くことです。保護者の話を聴くことができないと、以降の対応を難しくさせてしまいます。
どう聴くとよいのかについては、シリーズで順を追って掲載いたします。
(北海道文教大学人間科学部子ども発達学科教授・石垣則昭)
引用・参考文献
「コミュニケーションハンドブック」 石垣則昭 登別市教育委員会・登別市校長会
「保護者と信頼関係を築く関わり」 石垣則昭 ぎょうせい悠+(はるかプラス)連載
「児童心理臨時増刊NO984“難しい親”への対応」 金子書房
「“過剰反応社会”の悪夢」榎本博明 角川新書
「事例解説 教育対象暴力―教育現場でのクレーム対応―」 近畿弁護士会連合会民事介入暴力及び弁護士業務妨害対策委員会 ぎょうせい
(教職員の協力を高める学校づくり 2021-01-19付)
その他の記事( 教職員の協力を高める学校づくり)
教職員の協力を高める学校づくり〈No.62〉 解決策 代替案の提示を 保護者との信頼関係築く対応 6
前回説明した事実確認のあとに必要なのは、問題の解決策や代替案の提示です。 この場合、特に気を付けたいことは、学校の立場を一方的に告げてしまうことです。保護者に、「今まで話してくれたこと...(2021-03-30) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈No.61〉 事実関係を正確に確認 保護者との信頼関係築く対応 5
保護者が穏やかに変化したところで、何が問題となっているのか、事実を正確に確認します(感情的な物言いをしているときと、比較的冷静になったときの意見が変わることがみられます。感情的な意見を真に...(2021-03-10) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈No.60〉 感情を理解し受け入れる 保護者との信頼関係築く対応 4
前回まで、かかわりの難しい保護者対応の原則として、「聴く」ことの大切さを掲載しました。 「聴く」ことは保護者の不満を知るばかりではなく、感情を理解することで不快な気分や怒りは次第に収ま...(2021-02-18) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈No.59〉 心情に寄り添い聴く 保護者との信頼関係築く対応 3
保護者には「先に謝るべきである」と言われる方がいますが、重大な事案以外は「このたびは誠に申し訳ありません。お詫び申し上げます」と述べるのではなく、「このたびは不快な思いをさせ、申し訳ありま...(2021-02-03) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈No.58〉 6つの心理的背景 保護者との信頼関係築く対応 2
十数年前、道立高校の研修会で、小・中学校では、学校に対するクレームが社会問題化し始めた時期でしたが、「やがて高校でも同様の対応が求められるようになります」、さらに、「学校は、保護者にとって...(2021-01-26) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈No.56〉 注意、指摘の仕方とは 職員室の心理学 7
社会問題として「ハラスメント」が取り上げられるようになり、注意、指摘が難しい時代になってきたと管理職や経験豊かな教職員から聞かされます。 「目につくことがあるけれど、言わないほうがいい...(2020-12-18) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり 〈No.55〉 互いの意識づくり 職員室の心理学 6
人は「そのとおりである」「それは違う」と評価を受けることで態度が変化します。肯定されるならば、自分に自信をもち、以降、発言したように活動をしようとします。しかし、自分の意見が否定されると、...(2020-12-07) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈No.54〉 求められるリーダーシップ 職員室の心理学 5
教育の場だけではなく、様々な場や機会でリーダーシップの在り方が問われています。今回は「職場に求められるリーダーシップ」と題し説明いたします。 社会心理学では、「民主型」「専制型」「放任...(2020-11-27) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり 〈No.53〉 集団極化現象とは 職員室の心理学 4
会議などで特異な意見を述べる人に注目が集まり、決定事項も時として偏った内容になることがあります。物事を決定するのは、一人で決めるよりも集団で話し合うほうが安全でよい決定となるとは限らないと...(2020-11-11) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈No.52〉 “同調圧力”とは 職員室の心理学 3
人は多くの方の意見に同調行動(周りの意見や行動に合わせ、自分も同じように行動をとることをいい、意識的や無意識に行っているケースがみられます)を図ることがみられ、「自分をしっかりもって、建設...(2020-10-27) 全て読む