教職員の協力を高める学校づくり〈No.60〉 感情を理解し受け入れる 保護者との信頼関係築く対応 4(教職員の協力を高める学校づくり 2021-02-18付)
前回まで、かかわりの難しい保護者対応の原則として、「聴く」ことの大切さを掲載しました。
「聴く」ことは保護者の不満を知るばかりではなく、感情を理解することで不快な気分や怒りは次第に収まっていきます。特に、はじめは言葉に敏感になっていて、決してそういうつもりではない発言も、誤解される危険性があります。「先生や学校は分かってくれている」という安心感が、以降の適切な対応につながります。
教職員の協力を高める学校シリーズで何度か説明しましたが、人とのコミュニケーションは「感情のやり取り」です。言葉や言い方によっては不快な思いをさせてしまうこともあります。特に不満を抱いている、かかわりの難しい保護者であればなおさらなことです。
保護者との対応中に、使ってはならない言葉がありますので紹介します。
保護者が話した内容に「ですから、先ほどもお話したように、それは、………です」。この言葉遣いは、「先ほどもお話をしたのに理解していない」、また、上から目線で「理解できない人だ」とのメッセージを伝えることになります。
「お話はよく理解できました。〇〇については、〇〇のような考え方はどうでしょうか」と意見を質問調に変えるとよいと思います。
さらに、「〇〇さんには、きっとご理解いただけると思いますが、〇〇については、〇〇のような考え方はどうでしょうか」と保護者の自尊心を傷つけない言い方もあります。
つぎに、保護者の発言に対し「だって………」などの言葉は、不満や不快な思いに対して逃げ腰ととらえられます。逃げ腰の姿勢をみせれば、言葉尻をとらえ持論によって追及してきます。
「お話はよく理解できました。貴重なご意見ありがとうございます」「大切なご意見ですので、〇〇さんのご意見を検討させていただきます」(決して、前向きにとは言わないでください。また、この言い方は感情を鎮めることになり、後日、あらためて返答するようにします)などと変えてみてはどうでしょうか。
さらに、保護者の意見に「そう言われても………です」「でも、………です」は「先生や学校は、私の話に耳を貸そうとはしていない」などと保護者の存在を否定し、反抗しているようかのようにとらえられますので、前記のような言い方に変えるとどうでしょうか。
「そうなのですね」「そのようなことがあったのですね」「それは、素晴らしいお考えですね」などの言葉を使うことで、徐々に心が穏やかになってきます。
語調には気を付けたいものです。消え入るような声や、妙なトーン、大声では、保護者は感情を受け入れてもらっている気持ちにはなりづらく、言葉以上に不信感を募らせることになります。
さらに気を付けたいことは、間の取り方です。保護者が問うているのに返答が遅れ、間を取らず話を切り出してしまうと、話を聞いてもらっていない不快な印象を与えます。
(北海道文教大学人間科学部子ども発達学科教授・石垣則昭)
引用・参考文献
「コミュニケーションハンドブック」 石垣則昭 登別市教育委員会・登別市校長会
「保護者と信頼関係を築く関わり」 石垣則昭 ぎょうせい悠+(はるかプラス)連載
「児童心理臨時増刊NO984“難しい親”への対応」 金子書房
「“過剰反応社会”の悪夢」榎本博明 角川新書
「事例解説 教育対象暴力―教育現場でのクレーム対応―」 近畿弁護士会連合会民事介入暴力及び弁護士業務妨害対策委員会 ぎょうせい
(教職員の協力を高める学校づくり 2021-02-18付)
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