教職員の協力を高める学校づくり〈N0.64〉 「初期対応」と「思い込み」 保護者との信頼関係築く対応 8(教職員の協力を高める学校づくり 2021-05-14付)
対応の不適切さを指摘される問題に「初期対応」と「思い込み」(事実をみるのではなく、主観的にそれを認識すること)があります。
事例で説明しますと、いじめアンケート調査では、学級でいじめがないとなっていましたが、いじめがあると子どもから話を聞いた保護者が不安のあまり来校し、その不安を訴えました。担任は「生徒たちは仲が良く、いじめはないと思っています。そのようなことはありません」「生徒からもそのような相談を受けたことがありません」と否定した結果、「子どもの言うことと、先生の言うことに食い違いがある」と校長へ直接訴え、生徒から聞き取りをしたところ、仲良く一緒にいたと思われる子が仲間からいじめられていることが分かりました。
校長、担任共に保護者に謝罪しましたが、担任への不信感が拭えず、担任を替えるよう求められ、他の保護者を巻き込み大きな問題になりました。
この事例でお分かりのように、初期対応では、保護者の訴えを否定せず、肯定的に受け止めるようにするべきでした。また、いじめの難しさでもありますが、日々変わる児童生徒の人間関係に注視すべきであり、一緒に仲良くしているのでという思い込みがいじめを繰り返させる結果となり、保護者の不信を招いた事例です。
つぎは、部活動の担当教師の「たいしたことではありませんので…」という問題意識のなさによって問題が大きくなった事例です。
部活動の顧問は日ごろから部活動の生徒に対し、心を追い詰めるような発言をし、管理職へ保護者から苦情の電話があって、「あまり厳しい指導は理解されないので、ほどほどにするように」と数回、注意を受けていました。しかし、顧問は、「今の自分があるのは、私が行っているような指導のおかげであり、批判はたいしたことがありません」と繰り返し返答していました。
あるとき、「〇〇部活動の〇〇先生の行き過ぎた指導の苦情のため、学校の管理職に話をしても、何も変わらないため来ました。顧問を交代させてください」、さらに、「学校は信用できないので、教育委員会に入っていただき保護者会を開き保護者や生徒への謝罪を求めます」と連絡を受け対応に追われました。
問題は、顧問の思い込みや管理職の問題意識の低さです。当初は、部活動の顧問の指導方法の不満でしたが、保護者から電話を受けた管理職が部活動を顧問任せとはせず、事実関係を確認するなど、すぐに対応を図らなかったこと、さらに、事実関係を確認後、顧問に対し部活動の指導方法の改善について、膝を交え話し合う機会をもたなかったことが挙げられます。
さらに、「学級が騒がしくて、授業がよく聞こえない」との子どもの話を聞いた保護者が担任に直接説明を求めたところ、「うちの学級は元気がいいだけですよ。授業に問題ありません」と答えたあと、数人の保護者が校長に詰め寄り「担任を替えてください」と訴え、地域の問題となった事例もあります。
事例によって説明しましたが、多くは初期対応と思い込みの問題を中心に、教師や学校の対応の誤りが保護者の感情を害させ、かかわりを難しくさせているように感じます。
(北海道文教大学人間科学部子ども発達学科教授・石垣則昭)
引用・参考文献
「コミュニケーションハンドブック」 石垣則昭 登別市教育委員会・登別市校長会
「保護者と信頼関係を築く関わり」 石垣則昭 ぎょうせい悠+(はるかプラス)連載
「児童心理臨時増刊NO984“難しい親”への対応」 金子書房
「“過剰反応社会”の悪夢」榎本博明 角川新書
「事例解説 教育対象暴力―教育現場でのクレーム対応―」 近畿弁護士会連合会民事介入暴力及び弁護士業務妨害対策委員会 ぎょうせい
(教職員の協力を高める学校づくり 2021-05-14付)
その他の記事( 教職員の協力を高める学校づくり)
教職員の協力を高める学校づくり〈№69〉積極的に地域と対話 協同づくりとスクールリーダー3
【校務会議の統合と会議の心得の制定】 学校には、「組織ありて活動なし」といわれるように、機能していない形骸化した組織が存在している場合があります。その結果、「組織があるのだから会議をしな...(2021-07-28) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈№68〉 早期に学校体制を〝整美〟 協同づくりとスクールリーダー 2
【教職員の協同づくりの第一歩】 赴任前の3月下旬に異動人事の発表がありました。異動の命を受けた学校の実態は、ある程度理解していましたので、改善に向けて早めのスタートを切ろうと決めていまし...(2021-07-13) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈№67〉 学校の実態を的確に把握 協同づくりとスクールリーダー 1
教職員の協同体制づくりの実践にかかわり、私自身が、北海道内の中学校に勤務し教職員とともに、生徒指導上の問題の解消、学力の向上を図ることができた内容をご紹介します。 校長のリーダーシップ...(2021-06-28) 全て読む
高める学校づくり 教職員の協力を〈№66〉 相談できる関係づくりを 保護者との信頼関係築く対応 10
保護者対応の問題の一つに「抱え込み」があります。以降の対応に苦慮する場合には、抱え込みによる初期対応に問題がみられます。 事例にもよりますが、意見や苦情を受けた保護者への連絡は、早けれ...(2021-06-11) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈№65〉 電話対応の留意点 保護者との信頼関係築く対応 9
電話対応は、気持ちを推し測りながら対応することになり、ついつい保護者の言葉に感情的に反応し、以降のかかわりが難しくなる事例がみられます。「保護者との信頼関係築く対応 5」に記載しましたが、...(2021-05-28) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈No.63〉 感情受け取ること重視 保護者との信頼関係築く対応7
保護者対応の人数は、保護者が2人の場合は2人か3人が適当です。保護者が1人の場合は2人で対応します。 対応は、事前に役割を決めて臨みますが、3人で対応する例として、「〇〇主任の〇〇先生...(2021-04-20) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈No.62〉 解決策 代替案の提示を 保護者との信頼関係築く対応 6
前回説明した事実確認のあとに必要なのは、問題の解決策や代替案の提示です。 この場合、特に気を付けたいことは、学校の立場を一方的に告げてしまうことです。保護者に、「今まで話してくれたこと...(2021-03-30) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈No.61〉 事実関係を正確に確認 保護者との信頼関係築く対応 5
保護者が穏やかに変化したところで、何が問題となっているのか、事実を正確に確認します(感情的な物言いをしているときと、比較的冷静になったときの意見が変わることがみられます。感情的な意見を真に...(2021-03-10) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈No.60〉 感情を理解し受け入れる 保護者との信頼関係築く対応 4
前回まで、かかわりの難しい保護者対応の原則として、「聴く」ことの大切さを掲載しました。 「聴く」ことは保護者の不満を知るばかりではなく、感情を理解することで不快な気分や怒りは次第に収ま...(2021-02-18) 全て読む
教職員の協力を高める学校づくり〈No.59〉 心情に寄り添い聴く 保護者との信頼関係築く対応 3
保護者には「先に謝るべきである」と言われる方がいますが、重大な事案以外は「このたびは誠に申し訳ありません。お詫び申し上げます」と述べるのではなく、「このたびは不快な思いをさせ、申し訳ありま...(2021-02-03) 全て読む