教職員の協力を高める学校づくり〈No.49〉 毅然とした態度が必要 そして子どもたちはきずつく 5(教職員の協力を高める学校づくり 2020-09-07付)
【学校の役割とは】
学校は、学習と人間関係を学ぶ場です。しかし、人間関係は、どちらかというと子どもたち任せで、連絡を伝達し、結果による注意、指導するだけの教師を見聞きします。
学習によって得た知識は、人間関係の中で発揮されます。いくら知識が豊富でも、それを生かそうとする人間関係力に課題があると、得た力をうまく生かすことはできません。学習と同様に人間関係の大切さを子どもたちと共有できているのでしょうか。
直近ではありませんが、国立教育政策研究所が抽出校(小・中学校19校を対象)で、いじめの興味深い追跡調査(2013~2015年、小学4年生から6年生、同じく中学1年生から3年生にかけてのいじめの被害、加害について同じ内容の質問を繰り返し調査した内容:2016―6.生徒指導・進路指導教育センター)が行われました。
質問項目の「あなたはいじめに遭いましたか」「仲間外しに遭いましたか」、また、「あなたはいじめをしましたか」「仲間外しをしましたか」との同じ質問に、無視、陰口、悪口を中心にいじめの被害者、加害者になったと回答した割合が小学校では8割、中学校では6・5割に達しました。
この調査結果から、いじめの被害、加害は一部の子どもたちだけではないと理解できます。また、高校での調査はありませんが、小・中学校の結果から考えると相当数あると推測できます。
長年、数校の学校カウンセラーをしている方々とお会いすると、相談件数の中で圧倒的に多いのが友人同士の仲たがいであり、いじめであると話してくれました。また、先生に相談しても曖昧な返答なので、カウンセラーの先生に相談に来る数が最近多いと話しています。
子どもたちにとって一番の危機は、仲間から排除されることです。学校では、人間関係づくりを学ぶ活動や対応が職員間で共有され、実践できているでしょうか。
【教師の危機意識と子どもたちの試し行動】
学校の毎日は危機の連続です。教師の予測を超えた問題もあり、対応に追われるときもありますが、危険なのは教師の見逃しであり慣れです。
問題がさほどない学校は、危機に対するアンテナが低くなっています。その結果、様々な問題の兆候を見逃してしまう傾向がみられます。逆に問題が毎日のようにある学校は、「またか、いつものことだ」と子どもたちの相談も安易に受け流しがちです。見逃しや慣れは惰性です。
子どもたちは教師へ試し行動をします。
授業中、ある子どもの発言にほかの子どもが「間違ったこと言うんじゃないよ」とやゆしたとき、教師がどのような反応するのか、子どもたちは注目しています。そのとき、何も言わなかったり、中途半端や曖昧に「そんなことを言うものじゃない」と話したりでは、以降、過激な言動をエスカレートさせるきっかけになります。
この場面はまさに、教師の真剣度が試されているときです。子どもの心ない発言に単に怒鳴り散らすのではなく、本気をみせ、不用意な発言をされた子どもや、した子どものケアをしながら(子どもによっては、指摘されたことに開き直る場合がありますので、個別指導が必要です)、その発言がなぜ問題なのかを根拠をもって説明します。
教師は子どもたちに本気度を伝えなくてはなりません。この毅然とした態度が教師への信頼となります。
5回シリーズで「そして子どもたちはきずつく」と題し記載しました。皆さんの教師生活を振り返る機会としていただければ幸いです。
(北海道文教大学人間科学部子ども発達学科教授・石垣則昭)
(教職員の協力を高める学校づくり 2020-09-07付)
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