教職員の協力を高める学校づくり〈No.44〉 日ごろから学級づくり大切に 不登校対応の事例(教職員の協力を高める学校づくり 2020-06-26付)
今回は、前回に引き続き不登校対応の実際を解説します。
【本人、学校生活に起因する慢性型の事例】
D子は普通科高校に通学する女子生徒です。成績は中程度で部活動や学校行事などに積極的に参加する一方、中学生のころから神経質なところがあり相手がそう思っていなくても過剰に反応しトラブルになり、そのたびに数日間欠席を繰り返していました。
高校に入学し、当初は友人もでき意欲的な態度で学校生活を送っていましたが、6月初旬に担任へ「学級でいじめられています」「学校には行けません」と相談がありました。
担任は、早速様々な情報を得ようとしましたが、いじめを受けている事実は見当たりません。本人にその旨を告げると「みんなはうそをついています」「私はいじめられています」と感情的になり、翌日から登校しなくなりました。担任は責任を感じ、これからどう対応してよいか悩んでいます。
▼現状のとらえ方
中学校時代からたびたび人間関係のトラブルがあり、そのたびに数日間欠席していた情報によって慢性型と理解できます。
見立てを本コラムの第35回に記載した内容でとらえると、まず、本人の問題に起因する慢性型と考えられます。教室環境に敏感すぎる、何事にも不安や緊張が高い、頭痛や腹痛を起こすことがある、人間関係づくりが苦手であるなどの状態が該当します。
つぎに、学校生活に起因する慢性型です。友人関係が維持できない、入学など生活に変化がある、学級崩壊やいじめを経験している、学習が遅れ気味であるが該当します。
▼手立てと経過
幸いに担任と会うことに抵抗がありませんでしたので、欠席のきっかけとなった「いじめられている」という申し出には直接ふれず、つらい気持ちや不安に思っていることを「その気持ちよく分かるよ」と共感し、丁寧に聴くようにしました。また、電話を含め、連絡を小まめに取り、学校に心をつなぐよう努めました。
その後、初期にみられる混乱から、自分の気持ちを話し始める、家庭学習を始める、茶の間で家族と談笑するという中期とみられる変化があり、本人の気持ちを大切に「○○のとき、手伝ってくれてありがとう」「○○のときの明るい笑顔が、学級の仲間の励みになったね」など、肯定的に働きかけた結果、小学5年生のとき、いじめに遭ったことを打ち明けてくれました。
仲のよい友達に「でしゃばり」「かっこつけて」と言われ話しかけても無視をされ、親や先生に相談しても学級のみんなからいじめられている感覚に陥り、これからも同じような目に遭うのではないかといつも不安であったと話してくれました。
この事例は、本人と学校生活に起因する両面をもつ慢性型ですが、丁寧な登校刺激を図った結果、再登校し元気に学校生活を送っています。担任は学級の人間関係の大切さを痛感し、生徒の何気ない話にも耳を傾け、日ごろから学級づくりを大切にし学級経営に努めています。
14回のシリーズで不登校対応を連載しましたが、不登校はバッテリーの出力が減少した状態です。再充電(登校刺激)には時期の見極めが大切です。皆さんの教育活動に本コラムをお役立ていただければ幸いです。
(北海道文教大学人間科学部子ども発達学科教授・石垣則昭)
※次回から「そして子どもたちはきずつく」をテーマに連載を継続します。
(教職員の協力を高める学校づくり 2020-06-26付)
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