教職員の協力を高める学校づくり〈No.43〉 人間関係づくりの輪を 不登校対応の事例(教職員の協力を高める学校づくり 2020-06-12付)
今回と次回は不登校対応の実際を解説します。
【学校生活に起因する慢性型の事例】
C男は中学校1年生です。運動と勉強が苦手で、バスケットやバレーボールのゲームではボールを手にすることはありません。家庭学習は十分ではなく、数学と英語が特に苦手です。
中学校に入学後、親しい友人も他の学級となり一緒に登下校することもなくなり、ゴールデンウィーク後から休みがちになりました。担任は親しい友人に自宅に行くようお願いしましたが、再登校には至っていません。
小学校時代から休みがちなC男に対して保護者は厳しい口調で「勉強や運動ができなくてもいいから、学校にだけは行きなさい」と言いますが、一向に学校に行こうとしないC男に困り果てています。
▼現状のとらえ方
人間関係の不安と学習へのコンプレックスを抱えながらも、協力的で様々な依頼を断らないのは、集団に何とか適応しようと努めている証しです。しかし、次第に自分の居場所を見いだすことができなくなり、無気力に陥ったと考えられます。自尊感情(自分自身を価値ある者と感じる感覚、自分自身が好きで自分を大切に思える気持ち)を高めながら、自信を回復させる手立てが必要です。
▼手立てと経過
手立てとしては人間関係づくりの輪を広げながら、頑張るエネルギーの回復を待つようにし、つぎの段階で学習に取り組めるよう再登校のプランを立てました。
母親はいら立ち「学校に行きなさい」と何かにつけ厳しく接していました。母親には初期(混乱期―イライラしている。自室に閉じこもる。自室が乱雑でも片付けをしない。過食、食事を取らず昼夜逆転がみられる)の段階であることを説明し、①学校に行くことは強要しない②過度な干渉は避け、心理的余裕をもたせる③わずかなことでも、笑顔で認め褒める④「大丈夫だよ、お母さん守るからね」などの言葉がけをする―ようお願いしました。
兼ねてからの友人には短時間でも足を運ぶようお願いをし、「学校に来るように」と今は言わないようにすること。一緒にゲームだけ楽しむのではなく、できるだけ学校の楽しい話をするようお願いをしました。
3週間が過ぎたあたりで友人に「学校に行きたいな」と言い出しましたが、「どうせ勉強が分らないから」との情報を受け、不登校が中期(膠着期―気持ちや考えていることを言葉にできる。家族への気遣いができる。自分の身の回りのことができるなど)であると担任は理解しました。
そこで、適応指導教室に行き学習するのと、先生の課題を学習するのとどっちがいいかと提示したところ、「規則正しい生活もできるし、勉強も分かるようになりたい」と言い、適応指導教室を選択しました。
最初は緊張し、たびたび行けない日もありましたが、次第に雰囲気に慣れ笑顔が見られるようになりました。担任も適応指導教室へ足を運び、本人を激励しました。
1ヵ月後、不登校の後期(試行・回復期―自分の考え方を述べる。適応指導教室の学習プリントを家庭で取り組む。登校について前向きな発言がみられる)と考えた担任は、学校への再登校を勧めました。担任との信頼関係が築かれ、友人の協力、適応教室への通級によって再登校できました。
(北海道文教大学人間科学部子ども発達学科教授・石垣則昭)
(教職員の協力を高める学校づくり 2020-06-12付)
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