教職員の協力を高める学校づくり〈No.39〉 保護者・本人の状況把握を 登校刺激と情報収集 適切に
(教職員の協力を高める学校づくり 2020-03-31付)

 不登校の対応は保護者と連絡を取る、本人と話をする、友人に登校するよう迎えに行かせるなどの対応を取りますが、その根拠となる保護者や本人の状況を把握しなければ、結果的に不登校を長引かせます。「教職員の協力を高める学校づくり」の36回に不登校の情報と題して記載しましたが、今回は登校刺激と改めて情報収集の大切さを説明します。

 登校刺激とは、本人に登校を促すだけではありません。先生が玄関で保護者と話をしている、登校時間に家の外から他の児童生徒の声が聞こえる、友人の再登校を促す手紙を渡すなど、見ること、聞くこと、感じることすべてが登校刺激となります。

 不登校の児童生徒にとって先生が玄関先にいるだけで不安や混乱が生じる場合があります。また、登校時間になるとカーテンや部屋のドアを閉め耳を塞いだり、友人の登校を促す手紙に不登校を知られてしまい、不登校が長期化した事例もあります。本人の状況を理解できていない一方的な対応は、適切な登校刺激とは言えません。

 できるだけ早く再登校させなければならない教師の熱意と、保護者の願いは十分理解できますが、まずは必要な情報を得ながらどのような登校刺激をどう進めるのがよいのか、また、登校刺激の時期はいつがよいのだろうかなどのプランを練ることが大切です。特に、登校刺激の前に不登校に至る情報を分析的にとらえるようにしますが、慢性型と思われる児童生徒には家庭や本人の様子を理解しながら登校刺激を与えるようにします。

 情報収集が不十分な事例を説明します。

 中学校2年生のA子の保護者から「学校に行きたくない」と泣きじゃくっていると連絡がありました。担任はすぐさま仲のよい友人に、A子が学校に行きたくないといっているが「何か知っている」と聞きましたが、「知らない」との返答でした。さらに仲のよいグループのメンバーに登校時迎えに行くよう依頼しましたが、A子は会うのを拒否し自室へこもりっきりになりました。実際には仲良しグループの亀裂が不登校のきっかけでした。

 担任からみて仲がよいと感じていたメンバーに直接聞き、再登校を促すよう依頼したことが不登校を長引かせてしまった事例です。仲よしグループのメンバーが自然に変化するのではなく、急激に変わる場合は仲違いがないかどうか見守ることが必要です。

 高校3年生のB男の事例です。人間関係に不器用さがみられますが、真面目に学習に取り組むB男が個別の進路相談を間近に控え、突然不登校になりました。担任は保護者と連絡を取るものの、自室から出ようとしないと説明を受けました。コミュニケーションが苦手なB男は、学級役員の生徒にからかわれ、「進路希望校に行けるわけがないと担任が言っていた」「勉強しても無駄な努力だ」と言われ、ショックを受けての不登校でした。担任は家庭訪問をしてもB男が会おうとしないわけが理解できました。

 結果的に担任がそう発言していないと説明し再登校しましたが、2つの事例でお分かりのように児童生徒への思い込みや大まかな情報で対応するのではなく、そのときどきの様子について具体的な情報をとらえ、状況に見合う適切な登校刺激を与えるようにします。(北海道医療大学非常勤講師・石垣則昭)

引用・参考文献

「上手な登校刺激の与え方」 小澤美代子著 2003 ほんの森出版

(教職員の協力を高める学校づくり 2020-03-31付)

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