道中 第62回函館大会研究紀要⑤ 地域との連携・協働推進 登別市緑陽中・野﨑校長(関係団体 2020-12-14付)
《第5分科会》
▼研究主題=家庭・地域や校種間における連携・協働の推進
▼研究の視点=地域との連携・協働の推進
①チームとしての学校と地域の連携・協働体制の在り方
②外部人材と連携する専門性に基づくチーム体制の構築
■発表者=登別市立緑陽中学校・野﨑均校長
◆はじめに
学校はこれまでも、保護者や地域と力を合わせて、健やかな子どもたちの育成に取り組んできた。それぞれの教育力を生かし成果を上げてきたが、社会構造や雇用環境などが大きく変化し、子どもたちを取り巻く課題はますます複雑化・多様化の一途にある。
そのため、教員以外の専門スタッフとの協働や、学校運営協議会を中心とした「地域と共にある学校づくり」の推進、さらには校種間の円滑な接続が強く求められている。
そこで、研究の視点を「学校と地域の協働」に置き、登別市立小・中学校における現段階での取組の成果と課題をまとめた。
◆学校・地域の状況
登別市は、学校教育目標を「希望と高い志を持ち、未来に向かって心豊かにたくましく生きる人間の育成」とし、魅力ある学校づくりに取り組んでいる。目標達成に向け、重点の一つとして「地域に根ざした魅力ある学校づくり」を掲げ、特色ある教育活動の推進や開かれた学校づくりの推進、教育環境の充実を目指し、施策を進めている。それらの動きを受け、市内全小・中学校(小学校8校、中学校5校)では、平成26年度から学校運営協議会によるコミュニティ・スクール(CS)や土曜授業を実施している。
このような体制がつくられた背景には、本市において、以前から、情熱をもって子どもたちとかかわりながら、健全育成に尽力してきたPTAをはじめ子ども会や多くの団体があり、地域の教育力の向上が図られてきたことが挙げられる。
完全学校週5日制が実施されてからは、教育委員会は地域での人材育成に向けた学校・家庭・地域の連携組織として子ども地域交流プラザを設置し、子どもたちの豊かな体験活動を中心に据えた事業を展開してきた。
23年度には学校支援地域本部事業として統合し、町内会や子ども会などと学校との連携を進める地域コーディネーターを中学校区ごとに配置するとともに、人材バンクの整備や支援ボランティアの募集などを進め、現在の体制の基盤となる1本部5地域教育協議会が組織され、5人の地域コーディネーターのもとで学校支援活動が行われてきた。
一方、学校運営については、13年度から学校評議員制度が導入され、地域の意見を学校運営に反映してきたが、学校と地域が目指す子ども像や様々な情報を共有することが必要と考え、25年度には、地域運営協議会制度を活用し、登別版CSに発展させることとなった。
加えて、学校の運営状況を評価する評価委員会の機能も兼ねた組織となるよう準備が進められ、現在、市内すべての小・中学校に学校運営協議会が設置され、地域の実情に応じた学校運営が展開されるに至っている。
そうした中、教育委員会は26年度から隔年で教育フォーラムを開催し、市内でCSにかかわる人たち(町内会役員、少年団関係者、社会福祉関係者、PTA役員等)が一堂に会する場を設定し、それぞれの地区での実践や課題を交流し合い、社会全体で子どもを育てる意識の共有を図り、さらなる発展への体制強化を進めている。
こうした市の施策に基づいて、各校や中学校区において6年間、様々な取組が展開されてきた。
◆実践の概要
【登別市校長会の研究主題】
▼研究主題
自ら心豊かに生きる人間の育成を目指す学校経営
▼主題設定の理由
市の学校教育目標ならびに重点を受け、地域に根ざした教育活動を市内全小・中学校で展開することによって、市の未来を担う子どもの育成につながると考え、設定した。
特にCSは開始から7年目を迎え、本研究4年次には10年の節目を迎える。その間、管理職の世代交代も進むことが予想されることから、本研究を通して地域と共にある学校づくりを確実に継承する意味も込めた。
【研究計画(4ヵ年計画1年目)】
▼研究の目的・方法
▽目的=地域とともにある学校づくりの理念や目指す姿の共有、学校・地域が協働し、それぞれの地区の特色を生かした学校経営のさらなる推進
▽方法=共通理解の場の設定、各地区の取組と課題の共有、支援から協働に進める手立ての検証
▼研究計画
▽1・2年次
①理念や目指す姿の共有(「協働」のイメージの共有)
②各地区・学校の成果と課題の共有
▽3・4年次
①協働の具体的な取組と推進上の課題の確認
②11年目に向けた方向性の確認
【実践(予定を含む)】
▼「協働」のイメージの共有
学校支援地域本部が地域学校協働本部に変わった今、学校を支援するという考え方から、学校と協働するという考えへの移行が求められている。その認識のもと研修会を開き、地域の人自らが責任をもって育成に携わることの重要性を確認した。
▼各地区や学校の取組
各学校や中学校区の取組をつぎの2点からとらえなおし、それぞれの良さを共有し、自校の経営に生かした。
▽地域との連携・協働体制
①若草小学校の取組
学校運営協議会の構成を、地域連携コミュニティ、教育活動コミュニティ、安全推進コミュニティに分け、それぞれに所属する委員の参画意識を図るとともに、責任をもって運用に当たってもらう仕組みにしている。
取り組む内容を焦点化することで、何をすべきか考えやすくしている。
また、学校運営協議会とPTAが合同で取り組む行事を企画・運営し、協働体制を強化している。
②登別中学校区の取組
年に1回、地域の幼稚園や保育所、小学校、中学校が合同で学校運営協議会を開催している。
議題を「規則正しい生活習慣の確立」とし、小学校と中学校で同じ時期に行った睡眠調査の結果やスマートフォン等の使い方に関する現状、幼稚園や保育所で行っている自宅学習の取組状況を報告し合い、それぞれの立場で何ができるか、継続して話し合っている。
学校等や家庭、地域が共通して話し合うことのできるテーマを設定することで、地域全体で子どもを育てる意識の向上が図られている。
話し合いを継続することで取り組む幅も広がりをみせている。
③緑陽中学校区の取組
校区にある道立高校がCSを導入する機会をとらえ、小学校2校と中学校1校、高校1校で合同の学校運営協議会開催を検討している。高校卒業時までを考えた体制づくりを目指している。
▽地域人材の活用
教育委員会は、CS導入時に中学校区に配置する地域コーディネーターをその地域に住んでいる人から選んだ。そうすることで、地域人材の活用を円滑に進めた。
「地域の子どもたちの学力を少しでも向上したい」との意見が学校運営協議会で出されたときは、協議会会長が地域コーディネーターに依頼し、地域からボランティアを募った。おかげで学校にとっては人材発掘の負担が減ることとなった。
頼まれる人にとっても、気心が知れている地域ボランティアからの依頼は引き受けやすい。その結果、地域の人たちがそれぞれの専門性を生かし、学校の教育活動に参画する場面が広がった。
全小学校で取り組むスキー授業のときは、多くの人に講師をお願いすることで、きめ細かく安全な授業が実現できている。
植物の栽培では、畑や田んぼづくり、苗植え、管理や収穫に至るまで携わっていただき、子どもたちと一緒に収穫を祝っている。
地域の伝統芸能の継承では、保存会の人が直接子どもに教え、地域の祭りでの披露につなげていただき、郷土愛の育成につなげている。
そのほか、登下校の見守り活動や地域と合同の避難訓練などにも多くの人に協力いただいて実施することができている。
学校は、例えば、土曜授業を活用するなど工夫をし、地域の人が参加しやすい機会の創出に努めるとともに、その様子を広く市民に紹介し、取組の周知を図ることで、地域全体で子どもを育てる機運の醸成につなげている。
課題としては、地域コーディネーターやボランティアの人たちの高齢化が挙げられる。
そうした状況に対応するため、教育委員会は地域コーディネーターを助ける学校コーディネーターの設置を進めている。今の取組をつぎの世代につなげるねらいがある。
学校では地域コーディネーターと協力し、PTAなどで学校の教育活動に力をいただいた人たちを中心に声をかけ、学校コーディネーターの選出を進め、体制の維持とボランティアのさらなる拡充を図っている。
◆研究の成果と課題
【連携・協働体制】
▼成果
①地域と学校が協働体制のもとに推進していく重要性を、13人の校長で確認することができた
②各校の取組の良さ(組織づくりや学校運営協議会主催の活動の創出、幼保小中高の連携強化など)をあらためて共有し、協働に向けての方策を考え合うことができた
▼課題
①各校6年間の実績がある中、さらに地域が主体となる体制に幅を広げていくことができるかどうか
②協働体制を進める中で、さらに学校の負担感を少なくしていくことができるかどうか(この取組の有効性を教職員に一層実感させることができるかどうか)
【外部人材との協働】
▼成果
①地域コーディネーターのおかげで、地域人材の活用を円滑に進めることができた。同時に教育内容における専門性が高まった。
②取組を広く紹介することで、活動の定着を図ることができた。また、信頼される学校づくりにもつながった
▼課題
①協働の理念や取組がさらに広く地域の人に理解され、学校運営に参画してくれる人の輪がつぎの世代にも広げることができるかどうか
②多様な人材を生かす場が、学校運営に効果的に結び付けていくことができるかどうか
終わりに
学校と地域の協働について、その体制や外部人材との連携の2点から、本市小・中学校の取組の成果と課題をまとめてきたが、これらの取組を推進することができているのは、市の確かな基盤づくりがあるからである。
市民と協働のまちづくりを掲げる市の施策の一部として、地域と共にある学校づくりをとらえ、市立小・中学校が同じ方向を向いて取り組むことが重要であり、本研究は、その基本理念を共有するとともに、具体的な方策を探り合う機会となっている。
CS導入10年の節目に向け、今後もさらに研究を推進していく。
(シリーズ終わり)
(関係団体 2020-12-14付)
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