道中 第62回函館大会研究紀要 ③ 道徳教育で学校安全確保 置戸中・石原校長(関係団体 2020-12-10付)
《第3分科会》
▼研究主題
豊かな心と健やかな体を育む教育の充実
▼研究の視点
よりよく生きようとする意思や能力を育む道徳教育の充実
①道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度の育成
②道徳教育推進教師を中心とした指導体制の充実
■発表者=置戸町立置戸中学校・石原邦彦校長
◆はじめに
いじめ防止に加えて学校における安全確保について、道徳教育が果たす役割への期待は、とりわけ東日本大震災以降、北海道胆振東部地震を踏まえ、ますます高まっている。
このことは、新学習指導要領における「特別の教科 道徳(以下、道徳科)」にも反映されており、道徳教育の方向性として、安全確保が強く意識されている。
特に自助、共助の思考力・判断力を育成していく上で、道徳科の内容項目では「節度、節制」「社会参画、公共の精神」が、このことをよく示している。道徳教育と安全確保について各教科や総合的な学習の時間とも関連させ、防災教育にかかる教育課程の編成・実施が不可欠となる。
災害発生時に、自ら危険を予測し、回避するための主体的に行動する態度(自助)を育成し、支援者となる視点から安全で安心な社会づくりに貢献する共助・公助の精神を育成する防災教育の構築が重要となる。
◆置戸町校長会研究活動概要
【研究の趣旨】
置戸町校長会では、よりよく生きようとする意思や能力を育む道徳教育の充実を目指し、防災教育を切り口に研究を深めていく。
そこで、平成30年9月6日の北海道胆振東部地震で経験した全道ブラックアウトの教訓を生かし、現状を踏まえ、学校が地域、関係機関と連携し、本研究課題における取組を構築し、持続的、継続的に防災教育を軸においた地域・学校における校長の役割と指導性について追求・究明していきたい。また、このことを通じて、本年度設置したコミュニティ・スクール(CS)等を通じて地域・学校間、地域間連携の基盤整備も行いたい。
▼研究主題設定理由
災害発生時に、自ら危険を予測し、回避するための主体的に行動する態度(自助)を育成し、支援者となる視点から安全で安心な社会づくりに貢献する自助・共助の精神を育成する防災教育が重要である。
このため、自然災害等の危険に際して自らの命を守り抜くために(自助)、ボランティア活動に参加しようとする態度(共助)なども含めて災害時に必要とされる様々な資質や能力を身に付けるためには、日常生活においても状況を判断し、最善を尽くそうとする主体的に行動する態度を育成する必要がある。
人間には自分に都合の悪い情報を無視したり過小評価したりしてしまう心理的特性「正常化の偏見(バイアス)」があることから、知識が自らの行動に結び付きにくい状況を招いている。行動につなげるためには児童生徒等が知識を主体的に学び、豊かな生活体験・学習体験を積む中で、自分を取り巻く社会・自然の成り立ちや仕組み、そこに住む人々や生物の有り様をしっかりとつかむことも大切である。
場面や状況、発達段階に応じ、防災教育のねらいや展開は多岐にわたると考えられるが、道徳科とも関連させた学習活動の中に、これらの考え方を取り入れていくことが重要である。
【研究の内容】
研究主題に基づき、自助と共助の2課題を設定し、4年間を見通し課題の究明を図る。
▼自らの危険を予測し、回避する能力を高める自助
自然災害では、想定した被害を超える災害が起こる可能性が常にあり、東日本大震災の地震・津波や北海道胆振東部地震でも状況に応じ、臨機応変な判断や行動を取る姿勢を重視する教育によって危険を回避することができた例があった。
そのため、災害に備えるためのハザードマップ等を有効に活用しながら、さらにその想定を超えた場合の行動や対応を可能とすることを目指して指導することが必要である。その際、想定を超えた自然災害から児童生徒等が主体性をもって自らの命を守り抜くために行動するという主体的に行動する態度を身に付けることは極めて重要となる。
災害時に自ら危険を予測し、回避するためには、自然災害に関する知識を身に付けるとともに、習得した知識に基づいて的確に判断し、迅速な行動をとることが必要である。また、その力を身に付けるには、日常生活においても状況を判断し、最善を尽くそうとする主体的に行動する態度を育成する必要がある。
前述した正常化の偏見という心理的特性も踏まえ、自らの命を守り抜くための主体的に行動する態度を育成するための教育手法を開発・普及する必要がある。
▽周りの状況に応じ、自らの命を守り抜くために主体的に行動する態度の育成
災害図上訓練(DIG)、避難所運営訓練(HUG)など、実践的態度を育む活動を行う。
緊急地震速報や北海道シェイクアウトの活用や地理情報システム(GIS)など、科学技術を活用した防災対策を行う。
自然災害を想定した防災・避難訓練が重要となる。
▽防災教育の基礎となる基本的な知識に関する指導の充実
①自然現象および自然災害発生のメカニズム(地震、台風、土砂災害、洪水、液状化等)
②過去の自然災害
③自然災害と被害想定(人的、物的被害、ライフラインの影響等)および防災体制
④応急救護の実践的学習
▽支援者としての視点から、安全で安心な社会づくりに貢献する意識を高める共助
防災教育で一番重要なことは、自らの命を守ることであるが、その後の生活、復旧、復興を支えるための支援者となる視点も必要である。特に、被災地でのボランティア活動は、災害時の支援者としての視点に立つ活動となる。
①防災ボランティア活動
避難所運営の役割とルール設定訓練。
②災害時および災害後の心のケア
ストレスの仕組みと対処法。
◆校長の指導性
【防災教育の教育課程への位置付け】
校長として、近年の地震災害をはじめ、多くの災害が報告される中で、安全教育における主体的に行動する態度や共助・公助の視点に立ち、各教科、道徳、総合的な学習の時間や修学旅行で関連性や系統的なビジョンを示し、地域の信頼に応える指導を展開しなければならない。
連携先や授業時数などの確保だけでなく、小中一貫した指導も視野に入れ、校内分掌および町総務課防災係、大学などの関係機関にも働きかけ、防災教育を教育課程に位置付け、編成した。
【地域、関係機関との連携と校内組織への指示】
防災教育は学校内で完結するものではなく、災害時に学校と地域住民、行政がスムーズに連携できなければ、その教育効果は低い。災害から自分の命を守り、身近な人を助ける自助・共助が重要であることを、すべての生徒、地域住民に理解を得るとともに、日ごろの訓練・教育の積み重ねによって災害を減ずる技術を習得し、災害発生時に適切な判断のもと、全員がスムーズに、かつ安全に避難活動できる体制を構築することが不可欠である。
このことを、校長が防災教育のオピニオン・リーダーとなり、学校から地域や関係機関と連携して行うことの重要性を発信し、校長の指導のもと、連携の話し合いを設定した。
さらに、1日防災学校の地域共同開催や、本校生徒の地域への発信やメディア等への発言機会の場の設定を通して、広く学校から地域全体への意識啓発を投げかけた。
▼学校目標、重点目標との関連付け
すべての教育活動は、学校目標や重点目標のもとにある。その目標実現のために、カリキュラム・マネジメントを進めていくことを肝に銘じ、安全教育や防災教育がその中にきちんと収まるように、その教育内容を具体化していくことが重要である。
そのことについて、校長から校務運営委員会を通じて再確認させ、教育課程、重点目標を意識させた取組を実現した。
課題解決への具体的取組
【置戸中における防災教育の実践】
▼防災教育の目標設定
▽知識・判断・思考
地震・津波に関するメカニズムなどの災害や地域の特性について理解を深める。また、災害への日常の備えや的確な避難行動、社会貢献の大切さについて理解を深める(自助、共助)。
▽危険予測・主体的な行動
自他の安全に対し、責任ある行動をとるとともに、災害発生時には他者と協力して、災害弱者を助けたり、適切な応急処置を行ったりすることができる(自助、共助)。
▽社会貢献・支援者の基盤
①自他の生命を尊び、他者の生き方を尊重する態度を身に付ける(自助、共助)
②安全な社会づくりのために貢献しようとする態度を身に付ける(共助)
▼主な防災学習活動の具体
▽東北地方への震災学習修学旅行
①荒浜小学校震災遺構見学(宮城教育大学作成・仙台市震災遺構見学ワークシート活用)
②三陸鉄道震災学習列車乗車(社員から震災の実際を学ぶ)
③釜石いのちをつなぐ未来館見学(てんでんこの実際を学ぶ)
④釜石市震災語り部(釜石市の被災状況解説ガイド)
⑤修学旅行報告会の実施
地域への公開・自主的な防災への提案。
⑥防災壁新聞作成
町図書館展示、町民文化祭展示。
▽外部講師による防災学習
①北見工業大学准教授による震災メカニズムや耐震設計の学習
②測量資格者による地理情報システム(GIS)を活用した図上学習・情報解析
③心理カウンセラーによる震災時の心理に関する学習
④新聞記者(3社)からの新聞制作指導
▽1日防災学校
①避難訓練(置戸消防支署)
②起震車体験(震度7体験)
③防災ワーク(網走地方気象台)
④津波モデル実験(同上)
⑤避難所設営(日赤看護大)
⑥簡易トイレ設置(振興局)
⑦発電機運転CO測定(町防災)
⑧要介護者配慮の避難所対応(日赤看護大)
⑨炊き出し(ハイゼックス袋、日赤看護大・町防災・日赤奉仕団)
⑩防災展示(町防災)
▽壁新聞制作
▽道徳教育
①震災に関連した道徳教材
②教科書共助(C12)など
③自ら防災を考え、議論する場面の設定
▽青少年赤十字活動
生徒会ボランティア活動。
▽技術・家庭科防災作品製作
①非常持ち出し袋(2学年)
②防災ラジオ製作(3学年)
▽救命救急講習(2学年)
◆成果と課題
▼成果
防災教育を意識したカリキュラム・マネジメントを行うことによって、教科指導・学級指導・全体指導において、系統的・計画的指導を進めることができ、教育内容が充実するとともに方向性が明確になった。
災害想定場面では、広く地域、関係機関と連携した防災学習や修学旅行等の被災場所の見学や事前学習を通じて啓発できた。また、多様な場面における避難行動の在り方や指導ができ、生徒の判断力や意識の向上に役立てることができた。
▼課題
教育課程編成において、防災教育の時間数は限られており、その確保が課題となっている。今後、各校における教科指導や防災避難訓練の在り方等を整理してその内容や実施方法を検討し、実践的な防災教育を支援する教材(指導手引等)の作成が必要である。
今回の研究、実践を通じ、地域社会と連携した防災教育の重要性は認識されている。しかし、さらなる連携の円滑化や一時的な取組ではなく恒常的かつ効率的な方法での実施について、さらに議論、研究していくことが重要である。CSや地域連携会議での実施方法等を再検討し、具体的なビジョンを示す必要がある。
(関係団体 2020-12-10付)
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