道中 第62回函館大会研究紀要② 異学年交流で規範意識向上 釧路市北中・松岡校長(関係団体 2020-12-09付)
《第2分科会》
▼研究主題
新たな時代に求められる資質・能力の育成と学習評価の充実
▼研究の視点
学力向上を目指した学校経営の推進
①生きて働く知識・技能の習得と学力向上
②すべての学習の基盤となる言語能力や情報活用能力、問題発見・解決能力の向上
■発表者=釧路市立北中学校・松岡伸之校長
◆はじめに
かつて私が教頭時代に、道公立学校教頭会研究大会および全国公立学校教頭会研究大会において提言する機会があった。そのときは教育課程分科会における提言だったが、両大会に参加し、いくつか他地域の提言を見聞きする中で、一つの共通点があることに気付いた。それは、学力向上をテーマとした提言において、必ずと言っていいほど「小中連携」というキーワードが出てくるということであった。ここで、小中連携の意義についてあらためて考えてみたい。小中連携を行うことで、つぎのような効果が指摘されている。
▽中学校における不登校生徒数の減少など、いわゆる中1ギャップ解消につながる
▽異学年児童生徒の交流が活発となり、規範意識が向上し、自尊感情の高まりがみられる
▽9年間というスパンで子どもを育てようとする教職員の意識改革につながる
▽教職員の児童生徒理解や指導方法改善への意欲が高まる
▽全国学力・学習状況調査における平均正答率の上昇がみられる
以上のことから、小中連携が直接的、間接的に学力向上につながると考える。
その学力向上が喫緊の課題であると言われて久しい。当然、校長として自校の経営方針を打ち出す際には、学力向上に関する施策についてふれるはずである。しかし、その一方で、中学校3年間だけの問題ではなく、小学校を含めた義務教育9ヵ年という長期的スパンでとらえることも必要であると考える。
今回の実践は、研究の視点のうち、特に①「生きて働く知識・技能の習得と学力向上」について、その前提となる学習規律や家庭学習など、学力を支える学習環境や生活環境に焦点を当てる。
◆学校・地域の状況
釧路市には27の小学校および17の中学校がある。このうち6割以上は、一つの中学校と複数の小学校で校区を形成している。その一方で、一つの小学校の卒業生が複数の中学校に入学する場合も多くみられ、そのことが小中連携を進めにくくしている原因の一つでもあった。
こういった実態もあって、平成30年度までは各校区での小中連携にかなりの温度差があったことも事実である。校区によっては、年間で複数回の連携に関する取組が当然のように行われるところがある反面、校長・教頭レベルでの連携はあるものの、日常的な一般教員レベルでの連携に関してはあまりみられない校区もあった。
◆実践の概要
▼釧路市小中学校校長会としての取組
こうした実情を踏まえ、前年度、釧路市教委は全市的に小中連携を推進したいとの考えから、7月に市内一斉での小中連携研修の機会を設定するに至った。これを受けて釧路市小中学校校長会では、月に1度の定例校長会議の折に、つぎのような小中連携に関する研修を位置付けることとした。
①30年度以前の中学校区ごとの小中連携に関する取組を全体交流
②7月に実施した小中連携研修を踏まえての交流および協議(校区をシャッフルしたグループでの協議)
③各中学校区の協議(本年度の成果と次年度以降の展望の確認)
以上のような経過を踏まえ、いくつかの中学校区における特徴的な取組について述べることとする。
▼A中学校区の取組
中学校1校に対して小学校2校の校区である。29年度に3校の校長、教頭、教務主任によって小中連携プロジェクト委員会を立ち上げた。昨年7月の一斉研修時は中学校1年生3学級の授業参観をもとに、国語、算数・数学、英語の部会を中心とした研修を実施した。部会では、つぎのような点を中心に活発な話し合いが展開された。
▽小中でのノート指導の共通点、相違点
▽授業と家庭学習(宿題)とをどのように連動させるか
▽小中共通で取り組むべき学習規律は何か
数ヵ月前まで小学生だった1年生の授業参観後の協議だったため、各部会ともに子どもの姿や実態をもとに、具体的な話し合いが行われたことが最大の成果であった。
このほか、教科を中心とした3部会とは別に、特別支援教育部会、養護教諭部会が行われた。特別支援教育部会では、ここでの協議を受けて、中学校の特別支援教育コーディネーターが小学校を訪問し、対象児童の様子を観察する機会や、児童および保護者が中学校の授業を参観する機会を増やす取組を行うなど、学力向上とは別の面での成果が具体的な形となって現れている。
▼B中学校区の取組
この地区はほぼ中学校1校―小学校1校の校区である。中学校が主体となって小中連携委員会が定例化しており、そこで企画立案された合同研修会が年3回行われている。
これまでの成果として、「小中9年間を見通した学習および生活習慣表」「聞くときの約束」を作成し、共同歩調を取っている。また、児童生徒の実態や課題を踏まえ、「表現力」「コミュニケーション能力」を、目指す子ども像として小中で共有していることも特徴として挙げることができる。
昨年の一斉研修日では、教務部会と生徒指導部会に分かれ協議した。教務部会は主に学習規律について、生徒指導部会は主にスマートフォン対策について、小中それぞれの立場から意見を交流した。本年度はインターネットの利用についてのアンケートを小中共通で行い、今後の対応策を検討して学習環境のさらなる整備につなげる予定である。
▼C中学校区の取組
C中学校区は、完全に中学校1校―小学校1校の地区であり、令和3年度に義務教育学校に移行することがすでに決定している。
義務教育学校開校に向けて開校準備協議会を設立し、小中の教職員を5つのグループに分けた。その内訳はつぎのとおりである。
▽学校経営グループ(校長・教頭)
▽教育課程グループ(教務部)
▽生徒指導グループ(生徒指導部、養護教諭)
▽研修グループ(研修部)
▽事務グループ(事務職員)
また、小中各1人を開校推進コーディネーターに指名し、その2人に管理職および各グループ代表を加えて推進委員会を組織している。この委員会が開校までのロードマップを作成したほか、各グループの活動を統括しそれぞれの進ちょく状況を把握し、それらの情報を全体のものにするための通信を発行している。
ちなみに、教育課程グループでは、9年間を見通した各教科等の年間指導計画作成はもちろんのこと、つぎのような点について検討を重ねている。
▽学習規律の作成
▽ノート指導の方法検討
▽家庭学習の仕方など、学習サポート体制の検討
▽9年間を見通した学習習慣表の作成
▽異学年交流の在り方検討
▽義務教育学校ならではの総合的な学習の時間の計画
▽学力向上に向けての計画立案
▼D中学校区の取組
中学校1校に対して小学校2校の校区であり、3校の教職員数を合計すると100人を超える大規模な校区である。そのため、昨年7月の連携研修では16の部会によって協議を進めた。内訳は、「学力向上」「体力向上」「生徒指導」「特別支援」などのほか、「道徳」や「英語」、さらには「中学校1年生」から「中学校3年生」まで、学年別の部会などである。
このうち、学力向上部会では、つぎのようなことが話し合われた。
▽学年が進むにつれて自主的な取組となるような家庭学習の在り方を小中で検討していきたい
▽学習者負担軽減の観点から、中学校では学習用具を学校に置いておき、必要なもののみ持ち帰ることにしている(いわゆる置き勉)。そのことで判断力や見通しをもつ力の育成にもつながる。これを小学校とどのようにつなげていくかも考えていく必要がある
一方、中学校2年生部会では、中学校側が小学校に対する要望として、人とかかわる力を身に付けさせてほしいとの声が上がっていた。学習(学力)の前提として、人とかかわる力が必要であるとの考えを小中で共有することができた。
▼E中学校区の取組
この校区は、中学校1校に対して小学校3校という構成である。校区の学校数が多ければ多いほど連携しにくいのが一般的だが、この校区は平成21年度から連携事業を継続している。当初は、中学校のいじめ防止集会や地域合同合唱祭に小学生が参加したり、中学生が小学生の合唱を指導したりするなどのイベント的な連携が中心であった。
その後、小中が互いの教育を理解し合い、課題を共有し、学びと育ちを支える取組を進めようとの考えから、夏と冬の年2回、研修会を開催している。その中で、つぎのような取組がこれまで行われてきた。
▽9年間の学習に関する取組について、学習準備の仕方、授業中の話し方・聞き方や書き方(ノートの取り方を含む)、家庭学習の進め方などについて、小中で足並みをそろえるために明文化している
▽保護者向けに「家庭学習のお願い」を、4校の校長連名で発行し、学習面で小中のギャップが生じないよう工夫している
▽中学校の2期制に合わせて、小学校も評価(通知表)の2期制を取り入れる
▽国語、算数・数学、英語といった教科指導における4校共通の課題を洗い出し、授業改善に向けた手だてを追究するなど、研修の面でも連携を図っている
なお、今後はつぎのような点について取り組んでいく予定である。
▽「進んであいさつできる」「自律的な学習態度を身に付けることができる」など、校区全体で育てたい子どもの姿を策定
▽小学校での単元テストと、中学校における定期テストや学力(文協)テストの交流
▽小学校高学年を対象とした、一定のまとまった範囲を復習させる機会(仮称・長期復習テスト)の設定
▼校長としてのリーダーシップ
こういった各校区での取組がより効果を高めるには、校長がリーダーシップを発揮していく必要がある。どういったことをすべきなのか、いくつか実例も含めて考察していくこととする。
▽教職員に対する小中連携の意義啓発
同じ学校の教職員であっても小中連携に対する考え方や姿勢には大きな温度差がみられるケースが多い。しかし、足並みがそろわなければ、連携事業の効果も思うように上がらない場合もある。
そこで、A校区の校長は、職員会議や校内研修の機会を利用し数回にわたって小中連携の目的や効果について、具体的な資料を用いたり、実例を挙げたりしながら啓発を行った。また、意識の低い教職員に対しては、期首・期末面談でも個別に連携の意義を訴えた。
▽校区内における校長間の連携強化
小中連携は往々にして小学校側が消極的になりがちである。それは、中学校に比べて小学校の方が連携の意義を実感しにくいことに起因している。校長間の連携を密にし、校区内の小学校における教職員や児童の様子などを小学校の校長から情報を集めることが、つぎなる手立てを講じていくことにつながると考える。
▽連携のための組織体制づくり
今回紹介した5つの校区のみならず、ほとんどの中学校区で小中連携を推進するための組織が置かれている。ただし、校長や教頭など、人が変わることによって小中連携が滞ってしまうことが時折みられる。それを防ぐためにも、連携を推進する組織づくりが肝要となる。
組織のメンバー選出などにおいて校長が個々の適性を踏まえ、2年後、3年後を見据えた人選をすることが必要である。
▽保護者や地域に対する情報発信
学校内にとどまらず、家庭や地域に対して小中連携に関する情報を提供することも校長の役割である。校区内のすべての学校において同じスタンスで学校経営を行い、一体となって子どもを育てようとしているという姿勢を示すことが重要だと考える。E校区では、4校校長連名で保護者あてに文書を発出するなどの工夫をしている。
取組・実践の成果と課題
▼実践の成果
昨年、市内一斉の研修日を設けたことによって、一番多く聞かれた声は、「異校種の実態が分かってよかった」というものであった。このことから、小中連携の意義をより一層実感した教職員が増えたと受け止めている。
また、定例校長会議の中で小中連携に関する研修を行うことで、他地区の取組を知り、それが新たな刺激となるケースもみられた。
▼今後の課題
連携する学校数が多ければ多いほど足並みをそろえることが難しい。また、一部の小学校は2つの中学校に分かれて子どもが進学していることから、普段連携している中学校以外の、もう一方の中学校との連携がしにくい状況があり、それも課題である。
さらに、継続した連携のためには、推進母体の組織が重要である。どういった組織がふさわしいのか、比較検討することも必要だと考えている。
終わりに
前年度、釧路市一斉での取組を開始したばかりであり、本年度はこれを発展させながら取組を続ける予定であった。本来であれば、アンケートの実施によって教職員の意識の変容を分析し、小中連携によって学力面でどのような成果があったのかも検証したいと考えていた。
次年度以降も見据えながら、積み残しのないよう取り組んでいきたい。
(関係団体 2020-12-09付)
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