道中 第62回函館大会研究紀要① 浜頓別中・細谷校長 教職員の経営参画意識向上
(関係団体 2020-12-08付)

 道中学校長会(鎌田浩志会長)は、第62回研究大会函館大会の『研究紀要』を発刊した。大会は新型コロナウイルス感染症拡大防止のため中止としたが、紀要では、大会主題「新たな時代を切り拓き、よりよい社会を創り出していく日本人を育てる中学校教育」のもと、大会で予定していた分科会提言の要旨などを掲載している。5人の校長の分科会提言の概要を連載して紹介する。

《第1分科会》

▼研究主題

 「社会に開かれた教育課程」の実現

▼研究の視点

 創意工夫に基づく調和のとれた教育課程の編成・実施

①学習の基盤となる資質・能力や現代的な諸課題に対応して求められる力の育成

②家庭や地域社会と連携・協働した創意工夫に基づく教育活動の充実

■発表者=浜頓別町立浜頓別中学校・細谷隆志校長

◆はじめに

 予測困難で急激に変化する社会に生きる生徒たちは、未知の状況に対応し、新しい時代を切り拓いていく力を身に付けなければならない。そのため、学校には生徒たちに育成すべき資質・能力を具体的かつ明確に示し、社会と連携・協働して育んでいくためのカリキュラム・マネジメントを推進することが求められる。

 平成29年3月に新学習指導要領が告示され、中学校では本年度までの移行期間を経て、令和3年度から全面実施される。

 各学校において、必要な学習内容をどのように学び、どのような資質・能力を身に付けられるようにするのかを教育課程において明確にする必要がある。さらに、社会との連携・協働によって社会に開かれた教育課程を実現することを目指し、家庭や地域社会と協力して各学校の特色を生かした創意工夫に基づく教育活動を工夫していかなければならない。

 私たち宗谷校長会においても、子どもたちに育成すべき資質・能力や、社会との連携・協働による教育活動の充実をどのように学校単位で取り組めばよいのか、取組事例をもとに研究してきた。以下、宗谷校長会として取り組んできた研究実践を提案する。

◆地域の実態

 宗谷は、最北端の管内であり、2つの離島をもち、1市8町1村の10市町村からなる地域である。近年は、人口減による学校の統廃合や閉校が相次いでおり、小規模化が進んでいる。前年度も2校の小学校が廃校になり、現在、管内の学校数は、小学校31校、中学校17校、小中併置校5校の計53校である。教職員数は約600人で、うち、管理職が約100人を占め、教職員6人に対して1人が管理職である。総じて教職員の年齢は若い。

 宗谷の教育の特徴としては、稚内市を中心に進められていた保護者・地域が連携した「子育て運動」の取組である。この運動は、学校の教育力、家庭の教育力、地域の教育力を、それぞれが相互に作用し合い高めていこうとするものだった。

 小・中学校の教職員、PTA、地域の子ども会の担当者が、地域を盛り上げるための様々な行事づくりにチャレンジし、現在もその活動は活発に行われている。教職員や保護者が地域とつながり始めたばかりでなく、地域の人たち同士がつながり、子どもを中心にした地域の教育力も飛躍的に向上した。

 このような子育てに関する大人の協働の取組は、稚内市以外にも広がり、宗谷管内各地で取り組まれている。

 また、宗谷管内における中学校の学校運営協議会の設置は、管内10市町村のうち8町が設置、中学校に限れば、22校中13校が設置している。稚内市と礼文町は学校運営協議会を設置していないが、代わる組織が現在のところ役割を担っている。

◆実践の概要

【研究の概要】

 宗谷校長会は結成以来、「宗谷の風土に根ざした豊かな自然に育む子ども」を目標に掲げ、社会の変化に伴う学校教育の諸課題を正面から受け止めながら、会員相互が研鑚に励んできた。本年度も「学び合い」「オール宗谷」を合言葉に、職能向上と学校経営の課題解明を図り、管内教育の充実・発展に努めている。

 本研究主題である「社会に開かれた教育課程の実現~創意工夫に基づく調和のとれた教育課程の編成・実施」の研究については、各校において教育課程の管理や学校運営協議会との協働を模索しながら実践している。

 宗谷校長会の研究活動方針である5つの方針の中で、本年度は特に、以下の2つの柱を中心に研究を進めてきた。

①地域社会の期待と要請に応え、教育課程についての研究と当面する教育課題に向き合う学校経営を究明する

②「ふるさとを愛し、志をもって、新しい社会を切り拓く力を育む学校教育」のもと、学校経営、教育課程、資質向上にかかわる信頼される学校づくりの共通課題を明らかにし、実践的研究の充実に努める

 また、管内中学校を対象に、主題にかかわる2つの視点についてアンケート調査を実施し、実践事例から、成果と課題を考察しようと試みた。

【実践事例】

▼視点1から

▽教育課程編成作業による学校改善

 A中学校では平成29年3月に告示された学習指導要領に対し、校内研修や教育課程編成作業に力点を置き学校改善を進めてきた。学習指導要領で「社会に開かれた教育課程」が示されたことを受けて、それを中核に据えた教育課程を目指して、全教職員で取組を進めてきた。

 重点に置いたのは、キャリア教育の視点を大事にした、学校の学びと社会とのつながりである。学校経営重点目標を「社会で貢献できる資質をもった生徒の育成」と定め、その実現を「人間関係の力」「自立の力」「課題解決の力」「人生設計の力」の4つの視点から見取ることを大事にした。

 このように、すべての教育活動を資質・能力の育成というキーワードでつなぎ、学校経営の重点教育目標実現につながる教育課程編成を進めた。

①教科部会

 単元を単位として生徒の資質・能力を伸ばすことをあらためて共通理解し、単元ごとに「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点で目標設定するとともに、それを評価の観点とした。

②総合的な学習の時間

 生徒自らが課題を設定する重要性について再確認し地域貢献活動と、これまでの職場体験学習、上級学校訪問など、単独で取り組んでいた体験学習を「自己の人生設計」というテーマで課題を設定させ、その課題解決の手段として教育課程に位置付けた。

③特別活動

 行事の時数を60時間まで精選することができた。単に精選するだけでなく、学級活動や生徒会活動および学校行事における体育的行事・文化的活動で、どのような資質・能力を育成するかを重点に教育課程を編成した。

④道徳科

 道徳教育の全体計画、道徳科の年間指導計画、別葉を見直したほか、各教科の年間指導計画作成時に道徳科との関連についても整理した。

▽学校教育目標改訂の取組

 B中学校におけるこれまでの学校教育目標は開校以来変わっていない。開校時、地域にどのような受け皿をつくり生徒を育てるかなど地域と学校の在り方等の議論がなされたことは想像できる。

 しかし、開校当時と比べて社会の様相は様変わりし、令和3年度には新中学校改訂学習指導要領の全面実施を迎えている。

 今後、新しい教育への対応や、さらなる学校の進化を求めていくためには、根幹となる学校の教育目標を見直す必要があると感じ、学校教育目標を改訂した。

①改訂の基本方針

・教職員、保護者、地域の願いと社会状況を総合して策定する

・教育活動の共通理念として浸透させるため、簡潔で一息で言えるものにする

・組織的・計画的な取組はもとより、教育目標見直しの取組を進める中で、教職員一人ひとりから、自校の教育活動をよりよくするための提言を求め、改善に向かう取組を推進した

②具体的な取組

 平成30年度には学校評価・年度末反省をもとに、学校教育目標の改訂に着手することを全教職員で確認した。元年度は、1学期に教育目標改訂について基本提案し、2学期は、教育目標改訂について共通理解・次期学習指導要領の学習を行った。

 具体としては、教育目標改訂趣旨説明(PTA役員会・学校評議員会議)、役割分担・スケジュール等確認(改訂委員会)、アンケート配布・集約開始(生徒・保護者・地域・教職員)などである。

▽グランドデザインの作成・改善と学校経営マネジメント

 C中学校では、学校づくりにかかわって本年度の取組の焦点化が図られるよう、記載内容を精選し、取組の重点化を図った。また、喫緊の課題として新学習指導要領全面実施に向けた取組や働き方改革の推進に向けた取組を明記した。年度の途中で各種評価を受け、具対的な取組等について修正を加え、グランドデザインの改善を図った。

 また、C中学校では生徒の資質・能力の育成に向けて3種類の学級経営マネジメントシート(学級経営重点の取組交流用紙・学級全体指導経過交流・個別の指導計画)を統一し、全教職員が全学級を共通の視点で指導する実践を行った。

▼視点2から

▽A中学校の実践

 平成31年度・令和元年度は、新学習指導要領の教育課程編成を実践化するに当たって、学校経営の重点目標「社会で貢献できる資質をもった生徒の育成」に直結する活動が展開された。

 特に元年度は、家庭や地域社会と連携・協働した創意工夫に基づく教育活動の充実に重点を置き、総合的な学習の時間の教育課程編成の工夫、地域と連携した活動を整理する取組を行った。

①自己の人生設計

 1年生のジョブフェア、2年生の職場体験学習、3年生の上級学校訪問など、これまで単独で取り組まれてきた体験活動に「自己の人生設計」という課題を設定することで系統性をもたせることができるようになった。

②地域貢献活動

 古紙回収といった型にはまったボランティア活動ではなく、生徒自らが「地域に貢献できることは何か」といった課題を設定し取組を進めることによって、生徒の地域に対する見方が数段広がったほか、質の高い課題解決学習に取り組むことができた。

▽C中学校の実践

 C中学校は地域や家庭との結び付きを大切にしている。そのような中で、小学校と共に同じ校区である地区で様々な教育活動や子育て運動を展開している。

 地区子育て連絡協議会や各町内会との結び付き、地区子ども育成連合や地区子ども支援ネットワーク会議、小中合同学校評議員会など、その組織は多彩である。

 それらの組織と連動して行われているのが、子どもも大人も楽しむお祭り的行事であったり、小中PTAや学校評議員、地区民生委員や高校、大学との情報交流や連携などであったりする。

▽D中学校の実践

①地域とともにある学校づくり

 学校の情報発信を強化するため、ホームページの公開・防災メールの配信、各種通信の活用、学校通信が町内全戸配布されていることを利用し、各種情報を発信した。

 また、学校参観日を地域参観日と位置付け、保護者だけでなく、自由に地域住民が来校・参観できるよう設定した。

②学校運営協議会(C町コミュニティ・スクール)

・合同学校運営協議会の開催

 これまで年4回各学校(園)で開催されていた運営協議会を、こども園・小学校・中学校の3者が合同で開催している。

・『町CS便り』の全戸配布を実施

 合同運営協議会で出された学校への要望や意見、学校から地域への要望や協力依頼などをまとめた『CS便り』を作成し、町内全戸に配布している。

③地域連携コーディネーターとの連携強化

 町の地域連携コーディネーターと定期的に交流をもち、学校のニーズをリアルタイムで伝えている。実際に、職場体験の受け入れ事業所の発掘や授業の補助指導者などの確保に役立っている。

◆成果と課題

▼視点1について

▽教育目標の改訂や教育課程の改訂など、社会に開かれた教育課程の実現に向けた宗谷管内各校の取組が行われた

▽教育課程編成や学校教育目標の改訂プロセスに全教職員がかかわることによって、教職員の学校経営参画意識が高まったり、保護者や地域の人の願いや期待が明確になったりした。また、策定にかかわってもらうことで、学校教育への理解や協力体制を再構築することにつながった

▽本年度は、休校等で教育課程の編成を変更せざるを得ず、実践の見直しを迫られている。あらためて、生徒の実態や状況に合わせた指標のモデレーションが必要である

▼視点2について

▽学校運営協議会の設置に伴い、学校と地域の連携、また、学校と地域のそれぞれの活動が整理されてきている

▽稚内市においては、学校と地域をつなぐ様々な組織が子育て運動を中心に地域の実情に合わせて行い、学校経営を進めることができている

▽管内においての学校運営協議会の設置は進んできているが、その機能がまだまだ前身である学校評議員会を踏襲していることが多い。また、現行の多岐にわたる関連組織が、生徒をどの方向に向かって育てていくかの共通認識をもつことが課題である

(関係団体 2020-12-08付)

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