経営的見方、考え方大切に 札幌市教委 3年度教育方針説明会
(札幌市 2021-03-10付)

札幌市教委教育長道都市教委連会長長谷川雅英
札幌市教委・長谷川雅英教育長

 札幌市教委は8日、令和3年度教育方針説明会を書面開催した。市立幼稚園、学校の園長・校長などに対して通知を発出。長谷川雅英教育長と檜田英樹教育次長のあいさつを動画で配信したほか、各部の所管事項の説明資料を配布した。長谷川教育長は、学校職員の不祥事防止を強調するとともに、働き方改革について、経営的なものの見方、考え方を大切にするよう求めた。

 長谷川教育長および檜田教育次長のあいさつ概要はつぎのとおり。

【長谷川教育長】

▼学校職員の不祥事

 ことしに入ってから、酒気帯び運転や覚せい剤の所持、そして生徒に対するわいせつ行為など、不祥事が相次いで起こっている。まさに、札幌市の教育に対する信頼が危機に瀕している。日々、子どもたちや保護者、地域と身近に接している園長や校長においては、さらに強い危機感をもっていることと思う。

 失った信頼の回復に向けて、市教委と学校が一丸となり、何としてもこの危機を乗り越えていかなければならない。

 「自分たちの職場から不祥事を起こす職員を絶対に出さない」という強い気持ちをもっていると思うが、何をしていかなくてはならないのか、何が足りなかったのか一緒に考え、行動していこう。

▼働き方改革の推進

 市教委において、6月に学校における働き方改革に向けた指針を策定し、業務改善の方向性を示した。

 その後、市教委内に私の直轄のプロジェクトとして「教育課程」「業務効率」「学校施設」の3つのワーキンググループを編成。具体的な検討を行うなど、長時間勤務解消に向けた取組を進めてきた。

 リモートアクセスサービスの試行導入や、冬季休校日の実施、表彰制度の創設など、着手できることから順次、スピード感をもって取組を進めている。

 各学校においても、昨年6月の指針や、12月に教育課程担当課から発出している通知などを参考に、様々な工夫を凝らしながら、既存の枠にとらわれることのない幅広い検討をお願いしている。

 何よりも重要なのは、皆さんをはじめ、教職員の意識改革。私も含め、昔は、夜遅くまで仕事することが当たり前といった、そんな風潮がそこかしこにあったように思う。そのような意識が、まだ我々の頭のどこかに残っているかもしれない。まずは、そこを含めて改めなくてはならない。市教委と学校が、本気になって変えていかなくてはならないと思っている。

 そしてもう一つ、経営的なものの見方、考え方を大切にしてほしいということ。皆さんは、教育者であると同時に、学校という組織の経営者でもある。

 イエローハットの鍵山秀三郎さんの「凡事徹底」、経営の神様と言われるドラッガーや、人を生かす組織づくりのデール・カーネギー、改善のために「なぜ」を5回繰り返すトヨタ生産方式などについて、いろいろと申し上げてきた。

 また、リスクマネジメントの重要性ということについても、事あるごとに申し上げてきた。

 これらは、これからの変化が激しく予測困難な将来に向け、組織を動かしていく力、マネジメントしていく力が、園長や校長にますます求められている。今一度、確認いただきたい。

 札幌市の小・中学校の職員数は、平均30人くらい、職員の多い高校でも60人から90人。職員の規模でいえば、日本経済の根幹である中小企業と同じ規模。

 私は、以前、中小企業のコンサルティングに携わっていたが、中小企業の社長の中には、業務が忙しいこともあってマネジメントに専念できず、プレイングマネージャーになっている人もいた。

 ただ、園長や校長にはこれとは違う意味で「プレイングマネージャー」になっていただきたい。同じプレイングでも、既存の枠にとらわれることなく、心に余裕をもって、業務運営に当たっていただきたい、教職員のやる気を笑顔でしっかりと後押ししてほしい。

 現在、新型コロナウイルスや不祥事など、いろいろなことで教育行政全体が萎縮しがちになったり、ついつい守りに入ってしまいがちになっていたりするが、そんな中でも、どんどんチャレンジしていただきたい。

 サントリーの創業者である鳥井信治郎さんの口癖でもある「やってみなはれ」の精神。そこには「みとくんなはれ」という後押しされた側の言葉もセットになっているようで、最後まで「やりきってみせる」という強いやる気のこもった職員の姿勢も必要である。

 このような状況だからこそ、楽しく、チャレンジングに最後まで責任をもって仕事をしていただきたい。皆さんの積極的な活動をしっかりと後押ししていきたいと思うので、ぜひ「みとくんなはれ」といえるような素晴らしい取組を期待している。

 最後になるが、学校が抱える課題は、今後ますます複雑化、多様化してくる。そのような中、いかに教職員の負担を軽減し、教職員が子どもと向き合う時間を確保していくか、このコロナ禍において、いかに教育の質を担保していくか、様々なスタッフの配置や地域・関係機関とのネットワークづくりも含め、チーム学校の在り方、その真価が今、問われている。

 様々な困難な状況に打ち勝つという願いも込めて、英語で回復力を意味する「レジリエンス」をことしのテーマに据え、取組を進めていきたいと考えている。

【檜田教育次長】

▼3年度学校教育の重点

▽感染症対策を講じた学校教育の推進

 感染症対策を第一としつつ、その時々の状況に応じて学習内容や方法を最大限工夫し、子どもたちの学びを継続するよう取り組む。

 新型コロナウイルス感染症の流行が始まって1年が過ぎた。感染症の終息はいまだ見通せないものの、ワクチンの接種も始まり、ウイルスの特質も少しずつ分かってきているといわれる。

 各学校においては、3年度の教育課程の編成に取り組んでいると思うが、リスクのある活動を控え続けるだけでは不十分である。

 札幌らしい特色ある学校教育の「雪」「環境」「読書」にかかわるスキー学習を例にとると、移動時の貸切バス、リフトやゴンドラ、昼食場所など、密を回避することへの心配は尽きない。

 一方、簡単にやめてしまっては、その活動での子どもの学びや育ちの貴重な機会を失ってしまうことにもなる。

 日常の教室での学びや、学校行事、校外の学び、それらすべての教育活動を含めて、その時々の状況に応じて、学習内容や方法を最大限工夫し、子どもたちの学びを継続するよう取組をお願いする。合言葉は「学びを止めない」。

▽小中一貫した教育の推進

 3年度は、本年度から配置したコーディネーターをすべての小・中学校に配置し、4年度からの小中一貫した教育の全面実施に向け、パートナー校単位での取組を協働的に進めていくことで、自立した札幌人の実現に向けた知・徳・体の調和のとれた育ちの一層の充実を図る。

 市内すべての小・中学校に、必ず取り組んでいただきたいのは、札幌市の小中一貫した教育の2つの柱「課題探究的な学習」と「発達の段階に応じた継続的な子ども理解」。そのために必要なことは、教職員同士の顔の見える関係づくりである。

 まずは、管理職同士が相談し合える関係をつくり、地域の子どもたちを9年間でどのように育てていくか、理想とする子どもの学びや育ちについて大いに意見を交わし、教職員同士の顔の見える関係づくりのために初めの一歩を進めてほしい。

▽ICTを活用した教育の推進

 現在、各校で4月からの活用開始に向け1人1台端末、および高速ネットワーク環境の整備を進めている。

 札幌市においては、すべての子どもたちがタブレット端末を学校生活や授業などのあらゆる場面で、学びのツール、いわゆる文房具の一つとして効果的に活用し、個別最適な学びや協働的な学びに取り組むことで、課題探究的な学習のさらなる充実を目指している。

 すでに、各校では校内組織を立ち上げたり、校内研修を行ったりするなどして、新年度当初から端末を活用する準備を進めていただいていると聞いている。

 できるところから着実に活用を始めるとともに、発達の段階に応じて少しずつ活用の幅を広げ、ゆくゆくは子どもが使い倒して学びを深めることができるよう、学校一丸となった取組の推進をお願いする。

 市教委としても、今後、フォーラムの開催やガイドラインの発行など、学校の取組を強くバックアップしていく予定。

▼学校職員の不祥事

 1月、酒気帯び運転で中学校教頭が逮捕された。一昨年、同じような教頭による案件があり、校長の中には、自家用車での通勤をやめたという人、教頭の中にも平日の飲酒をやめた人がいると聞いた。

 委員会と学校が一丸となって、「飲酒運転は絶対にあってはならない行為である」と繰り返し周知し、根絶に取り組んできた中で、再び学校職員の模範となるべき管理職が飲酒運転を行ったということは、極めて憂慮すべき事態。

 その後も、生徒へのわいせつ行為による中学校教諭の懲戒免職処分、覚せい剤の所持による小学校教諭の逮捕と、不祥事があとを絶たない。飲酒運転、生徒へのわいせつ行為、覚せい剤、そのどれも1件発生しただけで、教育への信頼を大きく揺るがしかねないものだが、それが立て続けに私たちのまち札幌市の教育現場で起こってしまっている。

 一方、園や学校を運営する中で、子どもたちのために創意工夫して、日々、子どもたちと向き合い指導している先生方や、その指導によって、のびのびと元気に育ち、学んでいる子どもたちの輝き、保護者の喜びなどを目にしているのではないか。

 子どもたちの笑顔や、教職員の笑顔を守るのは、我々管理職の使命。まずは、我々自身が、先生や子ども一人ひとりの思いをしっかりと受け止め、自らを律するということ、失った信頼を回復し、この危機を乗り越えていくんだという強い決意を共有したい。

 本年度、懲戒処分の件数自体は前年度と比べて減少傾向にある。紛れもなく、管理職の尽力と現場の意識の高まりによるもの。

 しかし、現実に不祥事が起き、今こうして厳しい状況に置かれている。管理職には、「不祥事を減らす、なくす」という思い、さらに「自分の学校を守る、子どもたちも守る、職場の仲間、家族も守り抜く」という強い気持ちで学校づくりを進めていただき、教職員、各学校、市教委が一致団結して不祥事の根絶に向けて取組を進めていきたい。

 管理職には、最近、セクシャル・ハラスメントやパワー・ハラスメントなど、職員からの相談が多く寄せられている。

 ハラスメントについては、皆さんも自身の言動には細心の注意を払いつつ、所属職員にもそのようなことが起こらないよう、日々声かけを行っていただいていることと思う。

 ただし、実際に問題となったケースをみると、日ごろからの職員間のコミュニケーションが不足しており、互いの意図や思いが十分に伝わっていなかったり、職員から管理職に対してハラスメントの相談があったときに、最初に管理職の方できちんとその受け止めができていなかったりすることで状況が悪化し、問題が深刻化していることが多いと感じている。

 職場での悩みやストレスを減らし、職員が生き生きと働ける状態をつくっていくことは、不祥事をなくすことにもつながる。管理職には、職員が働きやすい職場づくり、職員同士のコミュニケーションを大切にした同僚性を高める雰囲気づくり、風土の醸成をあらためてお願いしたい。

(札幌市 2021-03-10付)

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