札幌市中学校長会 各部の2年度研究成果 第7回 理解深め、かかわり続ける 特別支援教育部 成長・環境を多角的に
(札幌市 2021-03-19付)

第7課題 新たな未来を紡ぎ、よりよい社会を創る力を育む特別支援教育―新たな未来を紡ぎ、よりよい社会を創る力を育む特別支援教育の充実

▼研究の視点

①特別支援教育にかかる課題および動向についての研修と発信

②札幌市の特別支援教育の現状と学校経営における位置付け

③保護者、地域、関係機関および他校種との連携の在り方

▼研究内容

▽通常の学級における特別な配慮を要する生徒への指導に関する実践例

 西野中学校では、不登校生徒をはじめとする配慮を要する生徒の指導を充実させるために、校務用パソコンで生徒に関する情報を必要なときに素早く閲覧できるシステムを構築し活用している。以前は、校務用サーバーを利用して生徒に関する記録の情報を共有してきたが、生徒指導に関する記録と特別な配慮に関する記録、さらにはスクールカウンセラーの面談記録が加わって情報過多となり、必要な情報が得にくい状況になっていた。

 そこで、生徒指導に関する記録のシステムから特別な配慮を要する生徒の記録を分けることとし、校務用サーバー内に「対象生徒一覧」を表紙とする「学びの支援シート」を設けた。その中に1人1枚の「個別の支援シート」を置き、上段には「個別の指導計画」として、家庭の状況、登校状況、対人関係、学習・生活の実態、長期・短期目標とその手だてを記入でき、生徒の状況が一目で分かる様式となっている。

 下段には、教師によるかかわりや生徒の様子を随時記録するとともに、スクールカウンセラーの面談記録と教育センター教育相談員からの情報を教頭が、特別支援教育巡回相談員からの情報を特別支援教育コーディネーターの教員が記録している。

 また、引き継ぎ資料など生徒指導研修会資料、市教委に年3回報告する「不登校児童生徒個人票」、家庭環境調べをPDF化した「個人票」へ手早くリンクできるようにしてあり、生徒の状況を把握しやすくしている。

 通常の学級における特別な配慮を要する生徒への指導に関する実践例からは、困難さのある生徒について教職員や関係する人たちが、いかに理解を深め、協力してかかわり続けていくかが大事であることが分かる。

▽特別支援学級に在籍する高校進学を希望する生徒への指導に関する実践例

 東栄中学校では、多様な学びの選択肢の一つとして、高校進学希望を念頭に置いた進路指導を行っている。高校生活をどのように過ごすかを考え、どのような力を発揮しながら自己有用感を高めるのかを問いながら、生徒、保護者の教育的ニーズ等を深く理解することが重要である。そのための取組として、「サポートファイルさっぽろ」の活用や放課後等デイサービスなどの福祉機関との連携を通し、生徒の成長や取り巻く環境を多角的に掌握することが大切である。

 同校では、高校進学希望者には家庭学習用の宿題として通常の学級の教科書に合った内容の課題を出す、定期テスト後に各教科の問題を宿題として生徒に課す、定期テスト後に各教科の問題を宿題として生徒に課す、学力テストA・B・Cへの参加(特別支援学級に在籍する3年生9人のうち3人が受験)、放課後勉強会を開催し、特別支援学校を目指す生徒とは別に受験対策を実施する等の取組を行ってきた。

 高校側に進学希望者の障がいの状況を正確に理解していただくためには、より一層綿密な連携が必要となる。高校への進学を目指す生徒の多くは、知的障がいは軽度だが、情緒障がい等がある。この点について、高校側に生徒の特性として何ができて、どのような支援が必要なのかを明確に伝えることが大切である。

▽特別支援教育の視点を生かした全校的な取組の実践例

 篠路西中学校では、過去3年間、「授業のUD(ユニバーサルデザイン)化」を校内研修の中に位置付けて全校的な取組を行ってきた。

 1年目は「生徒が授業に参加できる工夫」とテーマを設定し、授業の導入時に、「私はできない」と先入観をもった生徒がそこから先へ進めなくなる負の連鎖が起きないように、すべての生徒が参加できる授業づくりを研究した。

 2年目は、「授業の視覚化・共有化・焦点化」「理解」を深めるための工夫として、教材を視覚化する、感情を数値で視覚化する、ペア学習やグループ学習で考えを共有する質問をシンプルにする、学んだことを具体的にまとめ焦点化する等を授業で行う研究をした。

 本年度は、「授業のUD化」に取り組んで3年目となり、教員は日常の授業の中で大がかりではなくとも効果をあげられるような最小限の援助を心がけている。テーマは「知識の習得と活用」であるが、既習の学習内容を繰り返し復習し習得するために、教員の多くがタブレット等のICTを活用し、視覚化を意識しながら知識のスパイラル化を図っている。ICTを活用した授業のUD化は教員・生徒双方にとっての「効率化」である。

 また、同校では研修内容を実践につなげる手立てとして、授業UDチェックシートやUD化取組報告書等を活用し成果を上げている。UD化の全校的な取組を通して「すべての生徒が分かる・できる・楽しい授業」をつくることを教員が意識するようになり、生徒たちの間にも他の生徒を気遣う気持ちが少しずつ培われ、以前より生徒同士のトラブルは減り、いじめはすっかり影を潜めている。

▼次年度への展望

 次年度の3年次研究の柱は、「切れ目ない支援体制の構築」である。子ども一人ひとりのよりよい成長を促すためには、適切な支援を継続することが重要である。校種が変わっても、それまでの実態把握・個別の目標・配慮事項などを生かしつつ、小学校・中学校・高校の各年代に応じた支援によってさらなる成長を支えたい。

 そのために、学校ではどのような取組が可能なのか、校長はどのような取組を推進するとよいのか、市内中学校の実践例から具体的な方策について検討していく。進級・進学時の切れ目ない支援(連続性)と関係機関との連動における切れ目ない支援(つながり)といった視点で研究を深めていきたい。

(連載おわり)

(札幌市 2021-03-19付)

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