謹賀新年 新春インタビュー 道教委・倉本博史教育長に聞く(道・道教委 2022-01-01付)
倉本博史教育長
新年を迎え、道教委の倉本博史教育長に、GIGAスクール構想への対応、学校における働き方改革と部活動改革など、様々な教育課題への今後の対応を聞いた。
―全国学力・学習状況調査の分析結果で明らかになった成果と課題、今後の取組の方向性をお聞かせ下さい。
昨年11月、令和3年度調査結果の分析と改善の方向性をまとめた報告書を公表しました。各教科の平均正答率は依然として全国平均に達していない状況にあるものの、中学校は国語・数学ともに全国平均に近づき、特に国語の平均正答率が上昇しています。
本調査の中学3年生が小学6年生だった平成30年度と比べると、国語・数学の平均正答率が上昇しており、中学校で学力が向上した生徒が確実に増えていると考えています。
一方、自分の考えをもって言葉や文章で伝える力は全国と比べ低く、依然として課題となっています。学校以外での勉強時間はわずかに増えているものの、ゲームをする時間も増えており、学習習慣と生活習慣で改善すべき点が多くあります。
まずは授業改善ですが、知識を習得するのみならず、自分の考えを相手に伝える、あるいは相手の話を聞くことが非常に重要であり、「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善が必要です。授業改善推進チーム活用事業では、指導力の優れた教員が学校を巡回して指導しており、引き続き授業改善を進めていきたいと思います。
小・中学校の連携も重要で、道内の各市町村で取組が進んでいます。義務教育の9年間で着実に学力が積み上がるよう、目指す子ども像の設定、系統性を踏まえた指導的な展開などの取組を一層促進していきたいと思います。1日の学習内容を振り返るなど、日常の学習習慣を定着させる必要があります。
学力向上は長期的な視野で取り組む必要があり、そのためには家庭・地域・行政が一体となって支援することが重要です。引き続き、各教育委員会などと意見交換をしながら取組を進めていきたいと思います。
―来年度から本格実施となる高校の新学習指導要領への対応についてお聞かせ下さい。
大切なことは、“何を学ぶのか”だけでなく“どのように学ぶか”ということと、個別最適な学びと協働的な学び、主体的・対話的で深い学びを実際の授業で実現することだと考えています。
そのためには、求められる資質・能力を高める教科指導、指導と評価の一体化、それらを組織として管理するカリキュラム・マネジメントの一層の充実が重要となってきます。生徒一人ひとりの力をきめ細かく把握し、次の授業に反映するなど、学年または学校全体でのカリキュラム・マネジメントをいかに実践するかが重要と考えています。
道教委では、『教育課程編成・実施の手引』の作成や動画資料の制作、教育課程研究協議会の開催などを通し、学習指導要領の趣旨が浸透するよう取り組んできました。教員が実際の授業で反映できるよう様々な授業例の提示・共有を行っていきたいと思います。情報Iなど、新しい教科にも対応するための授業改善セミナーも併せて行っており、4月の開始に向けて準備を進めています。
―教員の確保に向けた取組と今後の方向性について伺います。
学校教育は教員がいて初めて成り立つものであり、優秀な教員の確保は大前提といえます。一方、教員志望者が増えておらず、採用倍率が年々下がっているのも事実です。
道教委では受検者拡大に向け、令和元年度から東京都内に公立学校教員採用候補者選考検査1次検査の会場を設置するなど、教員志願者の確保に向け取り組んできましたが、本年度は原点に帰るという意味から、道教育大学と連携して、北海道で教員を目指す動機などを調査しました。
調査の結果、特徴的だったのは「地域の小規模校で教えたい」という教員志望者が多くいることです。子どもとの密接なかかわりを通して教育の素晴らしさを実感したという大学生も多く、北海道で教師をする魅力を多くの人に発信したいと思います。
中高生に早期から教職の魅力を伝えることも重要です。へき地・小規模校で大学生が教育実習や体験実習を行う草の根教育実習は、本年度から道教育大以外の大学生も対象に加え、参加者が大きく増えています。高校生の小・中学校等におけるインターンシップでは、参加生徒のキャリア意識の向上のみならず、受入校から「高校生との交流が教員の意欲向上につながった」など好評の声が寄せられています。
昨年8月にオンラインで開催した高校生を対象とした教員養成セミナーでは、現職教員や大学生が、子どもの成長を見守る喜びや達成感のある教員の仕事をリアリティと熱意をもって伝えてくれました。想定を大きく上回る数の生徒が参加し、第2回セミナーを1月7日に開催する予定となっています。
これらの取組の成果がすぐに現れることは難しいと思いますが、継続することで確実に教員志望者を増やすことが可能と考えており、一層進めていきたいと思っています。
―学校における働き方改革と部活動改革の取組と今後の方向性についてお願いします。
教員が本来の仕事である子どもたちと向き合うことに専念できる環境をつくることが必要です。本年度、北海道アクション・プラン(第2期)を策定し、学校における働き方改革をさらに徹底していきたいと思いますが、一朝一夕で結果を出すことは困難で、やはり組織的な対応が重要と考えています。道教委ではこれまで、部活動休養日や学校閉庁日の設定、スクール・サポート・スタッフや学習指導員の配置などの取組を進めてきました。
本年度は新たに、学校における法務相談支援事業を開始し、スクールロイヤーが相談に対応することで円滑な学校運営の支援、教職員の業務負担の軽減を図っています。
昨年10月から、教育委員会、学校、教職員等による優れた業務改善の実践事例やアイデアを募集しています。個々の効果は小さくても、現場の先生が日々の仕事で実感できるようにすることが大切です。各学校で工夫している取組を可能な限り共有していきたいと思います。
部活動改革は大きな課題です。教員の業務負担軽減の側面のみならず、少子化に伴い部活動の実施が困難な地域が多くあることも踏まえ、持続可能な部活動の在り方を考える必要があります。
国では休日の部活動の地域移行に向けた準備を進めており、道内では当別町、登別市、紋別市でモデル事業に取り組んでいます。
道教委では昨年11月、地域部活動推進フォーラムをオンラインで開催し、各地の取組を共有する試みを行いました。まずは、モデル事業の成果や課題を整理して道民の皆様に周知し、少しずつ地域の理解を得るよう努力したいと思います。
大きな課題は指導人材の確保と費用負担だと考えています。全国的にも大きな問題であり、解決可能なものから解決しながら、時間をかけて着実に進めていく必要があります。
―高校の魅力化に向けた方向性をお聞かせ下さい。
今後の高校の在り方を考えるに当たっては、「学校教育を通じてより良い社会をつくる」「どの地域でも学びたいことを学べる」の2つを中心に据えて考える必要があります。現在、道内には191の道立高校がありますが、各高校で育てる資質・能力、教育活動、3年間で育てる生徒像を分かりやすく地域住民の皆さんにお伝えすることがポイントになります。
昨年1月には高校魅力化の実現に向けた『地方創生に向けた高校魅力化の手引』をまとめました。コミュニティ・スクールや地域と連携した授業実践、学習活動などを各地で進めてきましたが、これからは新時代に対応した高校教育の在り方として、学校の存在意義や期待される社会的役割、目指すべき学校像を明確化する必要があります。
また、本年度から高校遠隔授業配信センターが本格稼働となり、生徒の興味・関心を育む効果的な遠隔授業を展開しています。小規模校でも生徒の多様な進路志望に応じた学習が可能となり、学校同士の連携の可能性も広がっています。遠隔教育は広域な本道で非常に有効であり、北海道ならではの高校魅力化の取組と考えています。
平成30年度に策定した高校づくりの指針に基づき、これらの取組を推進してきましたが、過去の取組の成果と課題を整理する必要があります。現在、中学生、高校生、保護者を対象としたアンケート調査の準備を進めており、地域住民や有識者の方々から様々な御意見を伺いながら今後の方向性を検討し、高校づくりの指針を見直す予定です。
―GIGAスクール構想の推進に向けた取組と今後の方向性についてお聞かせ下さい。
国のGIGAスクール構想に基づき、本年度からほぼすべての小・中学校で1人1台の端末が整備されました。高校では、令和4年度の新1年生からBYODによる1人1台端末環境を実現する予定となっています。
しかし、端末は使用することが目的ではなく、授業で、主体的・対話的で深い学び、個別最適な学び、協働的な学びを実現するツールであるものです。道教委ではICTを活用した授業の目指す姿を示すICT活用授業指針の作成、授業モデル等の各種コンテンツを提供するICT活用ポータルサイトでの情報発信、ICT活用に関する相談を受け付けるサポートデスクやヘルプデスクなどの支援体制を整備してきました。
今後は、ICT環境の整備と授業改善の一体的な取組が進むことから、情報やデータを効果的に活用する情報活用能力の育成が重要と考えています。正しい情報の扱い方を学ぶ情報モラル教育の一層の充実も必要です。ICTの活用には大きな可能性がある反面、インターネットの利用に係るトラブル等のリスクもあり、学校教育全体で情報モラルを含む情報活用能力の育成に取り組む必要があります。
また、特別支援教育の分野では、画面の拡大や文章の読み上げ機能など、一人一人に応じた合理的配慮のツールとしての活用も進みつつあります。学びへの意欲・関心を高める効果的な活用を行っていきたいと思います。
―新年に当たり、北海道教育の将来展望についてお願いします。
この2年間、感染症の影響で保護者の皆様や学校、教職員の方々は本当に苦労され、児童生徒も様々な思いで過ごされてきたと思います。新たな変異株の拡大も懸念される中、警戒感を落とすことなく子どもたちの安全と安心を確保し、学びを保障する取組を続けなければなりません。長期休業後の不登校児童生徒数の増加など、コロナ禍における子どもたちへの影響も引き続き注視する必要があります。
人口減少やグローバル化が進展し、過去の知識や経験では正しい解にたどりつけない時代となっています。こうした中、まさに学習指導要領で示す「主体的・対話的で深い学び」、様々な人の意見を聞き、まとめ、伝える力が一層重要になっています。
広域な北海道には、農業や水産業など多種多様な産業、アイヌの文化、歴史や遺産など北海道ならではの資源、フィールドが多くあります。これらを学校教育と社会教育が両輪となって上手に取り入れていくことが重要と考えています。
様々な情報を整理する力、確固たる自己を確立し、多様な価値感を認め、協働する力を培えば、子どもたちは自身の夢を見つけ、一歩ずつ進んでいくことが可能です。そのための質の高い学びの場を関係者の皆さんと連携して提供することが私たちの仕事です。北海道の教育は、前途洋々と思っています。
―ありがとうございました。
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