3年度事業報告 研究紀要から 札幌市立高・特校長会 第4回 教育相談・特支推進委員会①
(札幌市 2022-04-20付)

【はじめに】

 本推進委員会は、多様な生徒の困りに寄り添う手立てや生徒の自立を支える支援について主体的に研修・交流会等を行っている。3年度は、2年度と同様に新型コロナウイルス感染症の拡大防止対策として、3密を回避する観点から、推進委員会、道立・市立を越えた各校コーディネーターの交流会等を実施しないという判断に至った。

 スキルアップ研修については、実施形態を変えて、動画配信で実施。教育相談・特別支援教育にかかる専門性を高め、実践に役立つ知識・技能を身に付けることを目指し、市立の高校と特別支援学校の推進委員(特別支援コーディネーター等)だけではなく、広く、市立中学校、石狩管内の高校にも、研修動画の視聴を呼びかけた。

 動画作成に当たっては、2年度に引き続き、道教育大学教育学研究科の学校臨床心理専攻長の佐藤由佳利教授の全面的な協力をいただいた。

 佐藤教授の講演動画の概要と、市立高校と特別支援学校の推進委員からの感想を集約したものはつぎのとおり。

【スキルアップ研修】

 12月~4年1月にユーチューブで講演「子どものトラウマ」を配信した。

▼講話の視点と概要

 各校に友人とトラブルを起こしたり、反抗的・極端な怖がり・自己否定的になったりする児童生徒はいないであろうか?

 それは「トラウマ」が背景にあることがある。トラウマについて整理し理解を深めていこう。

 トラウマとは、過酷な体験によって生じる心の傷。過去の出来事が今の生活に影響を与えている。(その出来事を忘れていることもある)今に影響がなければトラウマと言わない。

▽トラウマ体験の分類

 単発的な外傷体験を単回性のトラウマというのに対し、長期にわたりいくつもの外傷的出来事にさらされているものを反復性(複雑性,複合性,発達性)トラウマという。

 「辛い出来事」があってもその辛さを理解してもらい安心感を得たり、重要な他者から調節してもらったりすると、その出来事は過去の出来事となり自己調節できる。しかし「辛い出来事」があったことを理解してもらえなかったり、安心感を得られなかったりしたまま過ごすとそれがトラウマとなる。トラウマは基本的安心感に左右される。

 特に幼児期に養育者から安心感を得られなかった場合には、その養育者の価値観を取り込んで自己を否定してしまう。それが繰り返された場合、養育者以外の緊張関係にあると相手から「お前はばかだ、駄目な奴だ」などと言われた場合にも、それを自分の価値観にしてしまい、自分には価値がない、人に認められ必要とされて役に立たないと駄目だ、頑張っても成果が出せない自分は駄目だと自己否定的認知になってしまう。

 子どものトラウマの特徴としては言語化できない、悪いことが起きたのは自分のせいと考えがち、そして家庭の占める割合が大きいので、家庭内で否定されると全否定になりやすいという特徴を持つ。例として親が怖いと人はみんな怖い、親が突然怒る人であると人はみんな突然怒るものと考えてしまう。父母の喧嘩が自分のせいだと思っている子に「もしかして自分が悪いと思っていない?」と聞いてみるのも対応の一方法。そして2人の喧嘩はあなたとは関係がないのだと伝えると良い。

・悪夢

・フラッシュバック=人は記憶を自ら探しに行くものだがフラッシュバックは向こうからやってくる。フラッシュバックは緊張していると起こりづらいので、子どもはいつも緊張している

・遊びで再現=辛い体験を再現することで収めていこうとする(大人は話すことで収める)

・睡眠障害=緊張感が強いので眠りが浅くなってしまう

・過度の警戒心、集中困難=いつもピリピリしている、集中力や記憶力を下げる

・寡黙、引きこもる、無感動=言ってはいけないと思いコミュニケーションを取らなくなる。また感情を持つと心が痛くなるので無感動になる

・赤ちゃん返り=回復のために必要

・身体化(頭痛、腹痛、発疹,発熱など)=言語化できないために体に症状が現れる。頭痛は虐待を受けた子に多く、下腹部痛は性虐待を受けた子に多い。ストレスが多い子は皮膚の状態が悪化する

▽困った子は困っている子と捉えることが大切

 外在化症状(攻撃行動・暴言・暴力・衝動性・非行・反抗的態度・違法薬物使用等)として出る子は加害者になりやすく、内在化症状(不安・抑うつ・自傷・自殺企図・過食・依存等)として出る子は被害者になりやすい。大事なのは子どもが困っていることに気づいてあげるということ。

 心の傷の残りやすさを左右するものは、起こった出来事によってトラウマ化するかどうか決まる訳ではなく、子ども自身の素因(安心安全な環境を持っているか、発達の課題はないか)やトラウマ体験の複合性、環境、体験内容、解離の有無などで決まる。いずれにしろトラウマの直後にすぐにSCや病院につなぐ方が回復の度合いが高い。

▽発達性トラウマの概念について

 定義「幼少期の慢性的トラウマによって生じる精神障害」

 乳幼児期に慢性的トラウマにさらされていると養育者との関係性の中で育っていくべき脳や自律神経調節機能が破壊される。脳や自律神経系は自己調節機能を司っているので「自己調節機能不全」が起こる。

 自閉症スペクトラムと発達性トラウマという両方の観点から見ていくことが大切である。両者は別物であるが非常に似ている。自閉症スペクトラムの子は親のキャパシティを越えるために虐待を受けやすいことを知っておくべきである。

▽障がいとトラウマのリスクについて

 障がいがあると虐待を受ける可能性が2倍、DV家庭にいる可能性は3倍、犯罪の被害者になる可能性は4倍、いじめを受ける可能性は2倍となる。身体拘束や隔離などの対象になりやすいことや、深刻で大きなけがをする確率が高いことも知られている。

▽発達障がいとトラウマ

 発達障がい児の起こす問題のほとんどは、本人が環境に適応しようとする努力の結果である。本人の適応能力を超えた環境の負荷で起こる。

▽本人のレジリエンス(困難に耐える力)を付けていく、安心安全な環境を用意する、大人との信頼関係を育てることが必要である。学校は枠組みがあるので色々な問題が起こる。ゆるい枠組みであれば問題行動は減る。安心安全と枠組みのバランスをどうするか、学校側が問われている。

▽虐待への対応について

 気づくことが一番大切である。「困っていることはない?」「けがをしているみたいだけどどうしたの?」などの何気ない声かけで気遣っていることを伝える。子どもに否定されても時々声をかける。それは保護者に対しても同じである。虐待している保護者は本人が困っていることが多い。保護者にしっかり対応することが子どもへの虐待を減らすことにつながる。

(札幌市 2022-04-20付)

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