旭川市教委 いじめ再発防止へ 独自に緊急支援チーム 重大事態対応マニュアルも
(市町村 2022-11-14付)

 【旭川発】旭川市教委は2日の市の総合教育会議で、9月中旬の市いじめ防止等対策委員会(第三者委員会)による「いじめ重大実態調査に係る調査報告書」を踏まえた再発防止策に向けた対応について(案)を説明した。具体的方策等には「市いじめの重大事態対応マニュアル」(仮称)を作成し、各学校に周知することや市独自の緊急支援チームによる重大事態発生時における学校への支援を行うことなどを盛り込んだ。

 辻並浩樹学校教育部次長がいじめの重大事態に係る調査報告書に関する市教委および学校の対応の検証と再発防止策について説明。再発防止策に関しては「いじめ重大事態に係る調査報告書」における再発防止策に向けた対応について(案)を示し、現在検討中の内容を含め20項目を記載したことを伝えた。

 また「市教委として実施できるものについては速やかに取り組んでいく。教委や学校の組織体制など、新たな仕組みの創設や予算を必要とする対策等については今後、これをベースに市長部局や関係機関とも協議しながら検討を進め、実現に向けて精いっぱい取り組んでいきたいと考えている」と述べた。

 予算措置が必要な具体的方策等について、困難なケースへの専門家の参加による解決では、スクールロイヤーや医師を配置するための人件費、教職員がいじめ防止等のために、心身のゆとりをもって、児童生徒と向き合うことのできる体制づくりでは、各学校においていじめ対策を推進する教員を配置するための人件費などの予算措置が必要となることから「今後あらためて市のいじめ対策の強化に向けて、これらの具体的方策等を実現するための予算について要望したいと考えている」と話した。

 委員からは「再発防止策を着実に進めるなど、全ての子どもが安心して過ごせる取組を一層推進する必要がある。教委と市長部局が連携して進めるべき取組があるため、引き続き担当部局同士でしっかりと協議を行っていただきたい」「教委と学校が一丸となり、実施可能な対策から一つ一つ取り組んでほしい」などの意見が上がった。

 再調査の実施について、竹内貴信子育て支援部次長が委員会設置スケジュールを説明。「11月中の立ち上げに向け、現在委員を選任中。調査期間については調査資料を確認の上、再調査委員会で設定する」と述べた。

 また諮問事項案として「いじめの事実関係の再検証」「認定されたいじめと死亡との関連性の再検証」「再検証を踏まえての再発防止策の評価(追加策など)」の3点を示したほか、再調査委員会体制案を解説した。

 野﨑幸宏教育長は「今後二度と同様の事態が起こることのないように、教委自らが抜本的に改める姿勢で学校と一丸となっていじめ防止対策に全力で取り組んでいかなければならないと考えている」と。また「10月17日に小・中学校の臨時校長会議を開催し、調査報告書や再発防止策についての説明のほか、いじめの発見・対応に遅れが出ないよう、月1回以上定例の学校いじめ対策組織会議を開催することなど、速やかに学校で取り組むべきことについて各校長に指示した」と報告。その上で「新たな仕組みの創設や抜本的な見直しを要するものについては市長部局とも協議しながら実現に向けた取組を進めていきたい」との考えを示した。

 仮称・いじめ防止条例の制定に向けては「再発防止策や再調査の動向なども踏まえ、内容やスケジュール等について必要に応じて再検討し、充実したものとなるように取組を進めていきたいと考えている。今後も市長部局との連携を密にしながら条例の制定や市長部局におけるいじめ対策専門部署の設置に係る検討を進め、いじめ防止対策の一層の強化を図り、本市の児童生徒が安心して学び、生活のできる教育環境の整備を図っていきたい」と話した。

 再調査の実施に関しては「担当部局との連携のもと、進捗状況の把握に努めるとともに、当時の対応記録等の資料提供や聞き取りに応じることなど、調査には全面的に協力していきたい」との考えを述べた。

 「いじめ重大事態に係る調査報告書」における再発防止策に向けた対応案はつぎのとおり。

【いじめ予防について】

◆幼小中高においての情報を統一様式にて記録し、進学先および転校先に引き継いでいくような情報共有のシステムを確立する

▼児童生徒の継続的な支援という観点から、様式が統一されたフェイスシート(すくらむ)を活用するなどして、幼小中高に引き継ぎが行われるシステムの創設を検討すること

▽引き継ぎに活用する資料として市内小・中学校が統一したフェイスシートを活用することについて各学校に周知、幼高については関係機関(道教委等)と協議

◆SNSの利用や性への関心、人間関係などについて、児童生徒にとって身近な体験を掘り起こしつつその知識とリスクへの対応を学ぶ機会を、学校教育の中で児童生徒に対してより系統的に提供する。これらの機会を通して、他者を尊重し、自分の尊厳を守ることへの意識の醸成を図る。その際、児童生徒・学校・家庭が一緒に学び共通理解を持ち、その意識が根付いた環境づくりに取り組む

▼児童生徒がSNSの適切な使用方法や性に関する正しい知識などについて学ぶ機会を設定すること

▼他者を尊重する、自らの尊厳を守る意識を醸成するなど、望ましい社会モラルの習得について、学校、保護者、児童生徒が一体となって学ぶことができる環境や体制を整備すること

▽「生命(いのち)の安全教育」や人権教育、SNS等に関する学習を全ての学年で実施することができるよう小1から中3までの教材を作成し、各学校に周知

▽PTAやNPO団体等と連携し、学校、保護者、生徒(児童)が一体となって学ぶことができるプログラムを全中学校において実施―要予算措置

◆教育関係者がいじめを正しく理解するための研修の継続的開催などにより専門性を高める

▼教職員のいじめに関する法制度の理解を深めるため、初任段階教員だけでなく様々な経験年数を対象とした研修を実施すること

▼先駆的な取組をしている自治体への出向などにより、市教委職員の専門性の習得および向上に取り組むこと

▽管理職、ミドルリーダー、中堅教員、初任段階教員など様々な経験年数を対象としたいじめに関する研修を計画的に実施

▽行政・学校・地域が一体となった取組を推進し成果が表れている自治体を教育指導課指導主事が訪問し、教委内で還流

【安心して暮らせる社会づくり】

◆インターネットやマスメディアなどでの個人情報や誤った情報の流布によって生活が脅かされない、人としての尊厳が守られる社会づくりを進める

▼市ひいては国全体が「人としての尊厳が守られる社会づくり」に向けた取組(児童生徒の安全確保、市民に向けた注意喚起等)を継続して行うこと

▽「人としての尊厳が守られる社会づくり」を目的とした取組および啓発活動の実施

◆子どもの安全・安心が保障される中で、教育活動を円滑かつ適切に行えるような学校の組織体制、勤務形態の再構築を行う

▼国が求める「子どもと向き合い、かかわる」学校教育を行うために、学校の組織体制や勤務形態など、教職員の健康や心に穏やかさが持てる体制を社会全体で考えること

▽教職員がいじめ防止等のために、心身のゆとりをもって、児童生徒と向き合うことのできる体制づくり―要予算措置

【いじめへの対応について】

◆学校設置者である旭川市教委が専門的知識を携え、上部組織として学校を適切に管理する体制の構築を行う

▼地教行法により教委は人的管理、物的管理、運営管理など学校を管理することから、市教委は担うべき義務、役割、業務を再確認し、その専門性を身につけること

▼市教委職員が校長のかつての部下・後輩であるという関係性から、毅然とした指導・指示ができないような状況がうかがえることから、人事組織の在り方について再検討すること

▽地教行法に示された教委の役割等に関することやいじめに関することなど、教委職員を対象とした計画的・継続的な研修の実施

▽事務の執行に当たり、人間関係等の要因が影響していると思われることのないよう、法令に基づく権限と義務について研修などを通じて再確認

◆いじめの把握および報告に対し事実確認、学校全体への情報共有、家庭との情報共有、対応までのシステムを確立する

▼いじめ(疑いを含む)に関する情報は、一定の基準を定めて書面化し、事実確認する内容等に関しては学校として統一的な対応ができるように一定の内容のマニュアル化およびルール化を図ること

▼いじめへの適切な対処には家庭との連携が不可欠であることから、家庭との情報共有の在り方や、家庭からの相談等の在り方について一定のルールを策定すること

▽学校・教委・市長部局が一元的に情報共有することを踏まえ、統一した報告様式の作成および報告方法などを示したマニュアルを作成し、各学校に周知

▽いじめ事案にかかる保護者対応や情報共有、相談等の在り方を示した資料を作成し、各学校に周知

◆学校と市教委との連携のもと、いじめをはじめ不登校や非行など不適応行動への早期発見・早期対応ができるよう、生活・行動面で心配な児童生徒を確実に拾い上げ、対応できる組織的システムを創設する

▼いじめの発見・対応に遅れがでないように月1回程度定期的に学校いじめ対策組織を開催し、児童生徒間のトラブル等のモニターと対応の検討や検証を行うこと

▼複眼的な視点で状況を検討し、ハイリスクケースの早期発見、早期対応のため、市教委職員が学校いじめ対策組織に参加することが望ましいこと

▼学校には生徒指導部会、支援委員会など、同じようなケースを取り扱う委員会が数多くあることから、教職員の業務負担を考慮した上で、学校いじめ対策組織を適切に機能させるため、委員会等の統廃合や適正化を検討すること

▽学校いじめ対策組織の開催頻度や役割等について、市いじめ防止基本方針に明記するとともに、学校いじめ防止基本方針の「学校いじめ対策組織の設置」「学校いじめ防止プログラム」に明記するよう各学校に周知

▽市教委職員が学校いじめ対策組織に参加することが必要な事案・ケース等について整理し、各学校に周知

▽学校いじめ対策組織の役割の再確認による、他の委員会との区別化、および定期開催を可能とするための開催方法等の工夫による当該組織の適正化

◆前記と連動し、いじめに専属的に対応する組織を市教委に設置することによって、学校では解決困難な事案に対応する支援を実践する

▼困難ケースに対応するための「いじめ対応に専属的な組織(部署)」を市教委に設置すること

▼適切な分析、判断、認知、助言、指導などができるよう「いじめ対応に専属的な組織(部署)」に適宜必要な専門家の参加を要請すること

▽教育指導課内にいじめに専属的に対応する組織(係)の設置

▽困難ケースへの専門家の参加による解決―要予算措置

◆国が示している「いじめ重大事態の調査に関するガイドライン」に則って「市いじめの重大事態対応マニュアル」(仮称)を策定する

▼重大事態に適切にまた共通の理解をもって対処できるように国が示しているガイドラインに準拠して学校等の体制も踏まえた「市いじめの重大事態対応マニュアル」(仮称)を策定すること

▼被害生徒や保護者に寄り添う専属の担当者を学校に1人配置すること

▼加害生徒への対応について、学校、生徒、保護者の理解に齟齬が生じないよう明確になっている事実関係については書面にして確認すること、謝罪で終結するのではなく加害生徒の内省を図るなど再発防止に計画的に取り組むこと

▽教委において「市いじめの重大事態対応マニュアル」(仮称)を作成し、各学校に周知

▽各学校において、被害児童生徒や被害児童生徒の保護者に寄り添う専属の担当者を配置―要予算措置

▽加害児童生徒の対応に係る記録や再発防止に向けた指導計画の様式を教委において作成し、各学校に周知

◆重大事態が起きた際、学校に対し事案への対処に向けて専門的な助言・指示・直接的支援ができる緊急支援チームを市教委に創設する

▼重大事態に対処しなければならない学校を迅速に支援できるよう、いじめ対応に専属的な組織(部署)を核としながら、弁護士、医師、心理職、ソーシャルワーカーなどが参加する独自の緊急支援チームを市教委に設置すること

▽市独自の緊急支援チームによる重大事態発生時における学校への支援―要予算措置

(市町村 2022-11-14付)

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