新春インタビュー 札幌市教委 檜田英樹教育長に聞く 「人間尊重の教育」を推進(札幌市 2023-01-01付)
新年を迎え、札幌市教委の檜田英樹教育長に市内教育の現状と課題、札幌らしいコミュニティ・スクール(CS)の導入、人間尊重の教育、小中一貫した教育などの方向性や今後の展望を聞いた。
―札幌市の教育の現状と課題、今後の対応について
昨年は、引き続く新型コロナウイルス感染症への対策を講じながら、その中でも豊かな学びを継続できるよう、教育委員会をはじめ、各学校などでこれまで培ってきた経験を最大限生かし、様々な取組を進めてきた。
依然として厳しい状況が続く中、子どもたちが笑顔で学校の活動に取り組めるよう、多方面で学校運営にお力添えいただいた皆さまに、あらためて心からお礼申し上げたい。
これから受験や卒業、入学と学校教育においては大切な時期を迎えることからも、引き続き国の動向などを見据えて、適切に豊かな学びを継続できるよう引き続き取り組んでいく。
札幌市では「人間尊重の教育」を札幌市学校教育の重点の基盤とし、子ども一人ひとりが「自分が大切にされている」と実感できる学校づくりを進めている。学校は、どの子も安心して力を発揮できるところであるべきと考える。
一方、子どもには、困難に立ち向かい乗り越えていく経験も必要である。多様な人や仲間と関わりながら、自分の目標に向かい、たとえ困難に直面しても、しなやかに歩み続ける子どもの姿が醸成されるよう、先生方には、愛情を持って子ども一人ひとりに向き合い、それぞれの子どもに応じた関わりをお願いしたい。
現在「子ども一人一人が大切にされている」と実感できる学校づくりに向けて、全市の子どもの合言葉となる「さっぽろっ子宣言」を子どもたちの手によってつくり上げているところである。1人1台端末を活用し、市内全ての小・中学校の子どもを対象に実施したアンケートの結果を踏まえ、各区を代表する中学校生徒会の子どもたちが、宣言の候補になる文案を考え、提案するなどしている。
その過程では、子どもたちの積極的かつ建設的な意見交流が見られ、大変素晴らしかった。最終的に、子どもたちがどのような宣言をつくり出すのか、とても楽しみにしている。今後は、この宣言を踏まえ、子どもが「共生」の大切さを実感できるような本物の経験を積めるよう、各学校における教育活動の創意工夫に期待したい。
また、小・中学校に加え、高校および新たに開校した夜間中学「星友館中学校」においても1人1台端末の日常的な活用が進められている。今後は、ICTの特性・強みを生かしながら、学びの質を高めていけるよう、学習の過程を充実させることや、校種間の連続性・一貫性を意識すること、1人1台端末を授業と家庭学習のかけ橋として学校と家庭の連携・協働を大切にすることなど、より一層効果的な活用を図っていきたい。
続いて、札幌市における「小中一貫した教育」は、中学校区を基本単位とした全ての小中学校で、4年度から全面的に実施している。①9年間の学びをつなげる②子どもの育ちをつなげる③小中の教職員がつながる④学校・家庭・地域がつながる―を取組の視点として、9年間の連続性のある教育を実現していくものである。
現在、コロナ禍にも関わらず、各学校において①~③は、着実に歩みを進めていただいている。今後は、④も含めて、各パートナー校の取組の一層の充実に資するよう後押ししていきたい。
またことしは、本市初の義務教育学校である「福移学園」が開校し、今後は他地域でも順次開校を予定している。義務教育学校では4つの視点に基づく取組を推進しやすい環境が整うことから、先進的な取組事例を全市へ還元し、さらなる推進につなげていきたい。
そして、子どもを取り巻く環境の変化に伴い、生徒指導をめぐる状況も大きく変化している。このことを踏まえ、文部科学省発行の学校・教職員向けの基本書である生徒指導提要が、昨年末、12年ぶりに改訂された。今般の改訂で示された児童生徒の成長を支え、成長を促す考え方については、本市の学校教育の基盤である「人間尊重の教育」と軌を一にするものである。今後も一人ひとりが抱える困りや悩みに丁寧に向き合い、個性の発見と良さや可能性の伸長、社会的資質・能力の発達に資する生徒指導の充実に努めていく。
ことし4月から学校給食費を公会計化し、これまで各学校で行っていた学校給食費の徴収管理を、教育委員会で一括して実施する。
この公会計化によって、学校全体の業務負担が軽減し、教員が子どもたちと向き合う時間が増え、より質の高い教育活動の実現に繋がっていくものと認識している。
加えて、納付方法の多様化による保護者の利便性向上や、食材購入費を市の予算に編入することで、より一層安定した給食提供につながるなど、様々な効果も見込んでいる。
現在、来年度も札幌市立の小・中・特別支援学校に在籍見込みのご家庭から、口座振替依頼書の提出をご協力いただくなど公会計化の準備を着実に進めており、円滑に導入ができるよう引き続き取り組んでいきたい。
このほかにも、青少年科学館については、開館から41年が経過したことに伴い、展示物および施設設備の老朽化が進んでいるため、4年8月22日から5年度末までを休館期間とし、大規模な展示物などのリニューアルを進めている。
リニューアルにおいては、平成30年度に策定した「札幌市青少年科学館活用基本構想」に基づき、現在の展示コンセプト「見て・触れて・考える」を大切にしながら、子どもから大人まで繰り返し来館したくなるような科学館を目指す。
最後に、札幌市では平成26年に10年間を計画期間とする「札幌市教育振興基本計画」を策定し「自立した札幌人」の実現を目指し、教育環境の充実など様々な施策を進めてきた。
現行の計画期間は令和5年度末までであるため、本年は現行計画の振り返りと社会情勢の変化なども踏まえながら、地域と協働した学校づくりを進めるとともに、学びを通した人々の関わりがより良いまちづくりにもつながり、人も社会も豊かになるような教育の実現を目指し、次期計画の策定に取り組んでいく。
―「札幌らしいコミュニティ・スクール」の在り方について
先行きが不透明で、将来の予測が困難な時代、変動制・不確実性・複雑性・曖昧性の頭文字をとったVUCAの時代と呼ばれる中にあって、社会で求められる能力が適宜変化する世の中になっている。
このような時代を生き抜いていくためには、多様な見方・考え方を大切にし、変化を前向きに受け止め、主体的に課題を見つけ、多様な人々と協働して解決できるようにすることが大切と考えている。こうした人材を育成するためには多様な人々と関わりながら学ぶことが重要であり、札幌市としては、小中一貫した教育において重視している家庭・地域とのつながりの一層の充実を図り、持続的で魅力ある学校教育を実現するために、コミュニティ・スクールを導入したいと考える。
加えて、最近は地域社会のつながりや支え合いが希薄になっていることが、地域の課題として挙げられることがあるが、地域の子どもたちをより良く育てることはもちろんのこと、このコミュニティ・スクールをきっかけに地域のネットワークが強化され、将来的に学校を核としたまちづくりにもつながっていくことも期待している。
現在、コミュニティ・スクールの導入に向け、学識経験者や有識者で構成する「札幌らしいコミュニティ・スクールの在り方検討委員会」を設置し、委員の皆さまにも道外の実際の先進事例を見ていただいた上で、議論をしていただくこととしている。
様々な観点からご意見をいただきながら、札幌らしいコミュニティ・スクールの導入を実現していきたい。
―部活動の地域移行について
部活動の地域移行は、生徒の自主的で多様な学びの場であった部活動の教育的意義を継承・発展し、少子化が進む中においても、将来にわたり生徒がスポーツ・文化芸術活動に継続して親しむことのできる機会を確保することを目指している。
本市では、これまで、部活動指導員などの外部人材を活用するほか、在籍中学校に希望する部活動がない場合に隣接校の部活動に参加できる「学校間連携方式」を実施するなど、部活動における子どもの活動機会の充実に努めてきた。
昨年、国において、部活動の地域移行に関する提言がなされ、休日の部活動を段階的に地域移行する改革の方向性が示された。本市では、休日の運動部活動運営を民間事業者に委託するモデル事業を実施するとともに、教育委員会、スポーツ局、市民文化局が連携し、子どもたちの豊かな体験機会を確保するべく、生徒の多様なニーズに合ったスポーツ・文化芸術活動機会のさらなる充実に向けた検討をしっかりと進めていきたい。
―教職員の負担軽減に向け、今後どのように取り組んでいくのか
札幌市では、長時間労働の解消に向け、これまで、時間外上限時間の設定、働き方改革に関する指針を策定するとともに、教育委員会内にワーキンググループを設置し、長時間労働解消に向けた取組について具体的な検討を行い、取組を進めてきたところ。具体的には夏季休校日および冬季休校日の設定、学校と教育委員会間の連絡用PCを全校に増設、出退勤管理システムの導入、複合機の全校導入、コロナ禍を契機とした行事や業務の見直しおよび働き方改革に取り組んだ学校を表彰することによる教員の負担軽減となる好取組事例の共有等、様々な視点から負担軽減に向けて取組を行ってきた。
今後も長時間労働の解消に向け、ICTを活用したさらなる取組や既成概念に捉われない視点から働き方改革を進め、教育委員会と学校が一体となって長時間労働の解決に向けて取組を進め、教員が心身ともにゆとりを持って子どもたちと向き合える環境づくりに努めていく。
―学校規模適正化の方向性について
少子化の影響によって市内の児童生徒数も減少傾向にあり、市立小学校・中学校の1学年当たりの学級数も減少し、学校の小規模化が進んでいる状況にある。
小規模な学校は、教員が子どもにきめ細かく関わりやすいなどの長所がある一方で、クラス替えが行えないことで人間関係が固定化しやすい、集団活動の機会や多様な価値観に触れる機会が限られるなど、様々な課題が生じる可能性がある。
そのような課題を解決するため、学校規模を適正化することは、今後、ますます重要になるものと考えている。
「札幌市立小中学校の学校規模適正化に関する基本方針」では、小学校で18~24学級、少なくとも12学級以上、中学校で12学級~18学級、少なくとも6学級以上を適正規模の基準として、基準を下回る学校については、学校規模適正化の対象として順次、取組を進めている。
取組を進めるに当たっては、各地域の実情に合わせて、学校規模適正化の意義をしっかりと説明して、地域や保護者の方々の理解を得ることが何よりも大切なことと考えている。
その一環として、住民説明会の実施形態を見直し、会場に取組内容に関するパネルを展示し、来場者からの意見や質問に個別で対応を行うオープンハウス型に変更した。令和4年11月中旬から12月中旬にかけて東区と豊平区の4地区の住民説明会を開催したが、これまでの講義型の説明会と比べて、より多くの率直な意見を聞くことができ、来場者からも概ね好評だった。
また、学校施設の改築や改修を行う場合は、公共施設の複合化も検討していくことになるが、学校は地域コミュニティの拠点となる施設であるので、地域や保護者の方々に、広くまちづくりの観点から協議していただく必要もあると考えている。
今後、ますます少子化が進む中、学校規模適正化の取組を着実に進め、未来を担う子どもたちが切磋琢磨し、多様性を認め合い、互いを尊重しながら、たくましく成長していけるよう、より良い教育環境を整えていきたい。
―新年を迎え、学校や関係機関、保護者、子どもたちに向けたメッセージ
現在を取り巻く環境は、新型コロナウイルス感染症をはじめ、ロシアによるウクライナ侵攻等、様々なつらく痛ましいことが起きている状況である。1日も早い平和の実現と、感染症の収束を願うばかりである。
このような状況の中においても、子どもたちには、個としての意見をしっかりと持ちながら、他者を思いやる気持ちを持ち、友達や家族とたくさんのコミュニケーションを取りながら、楽しく遊び、時にはぶつかり合うなど、多彩な経験を積みながら健やかに成長していってほしい。
また、最近、教育においても注目され始めた「ウェルビーイング」という言葉が表すように、子どもたちはもちろんのこと、保護者の皆さま、教職員、各関係機関を取り巻く学習環境、家庭環境、労働環境がより良い状況となり、またそれらが続くよう、各種教育施策に全力で取り組んでまいる所存であり、従前と変わらぬご理解とご協力をお願い申し上げたい。
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檜田教育長
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