新春インタビュー4種校長会長に聞く③ 北海道高等学校長協会会長 林 正憲 氏
(関係団体 2023-01-19付)

新春インタビュー高校長協会林会長
林 正憲会長

◆新学習指導要領の理念具現化

 ―新年~年度内の課題と取組(新型コロナ、入試対策など)

 新型コロナウイルス感染症はいまだ終息せず、各校で多くの時間とエネルギーを費やしています。副校長・教頭先生に大きな負担があり休養が十分か心配しています。

 現在の日本では経済施策が推進される一方、学校では陽性者、濃厚接触者、リストアップ者等出席停止の生徒が絶えず、閉鎖等への対応に苦慮しています。今は国の指針を踏まえ、生徒の安全をしっかり守るとともに活動を維持する策を徹底する必要があります。

 高校は受験シーズンを迎えており、卒業式もあります。細心の注意を払い、指導内容と現実に差があれば、即座に是正しなければなりません。

 入試は生徒の一生に係ることです。ミスは決して許されません。「確認」の重要性は言うまでもありませんが「絶対に間違いがない」と断言できる確認方法なのか、校長自身が確かめることです。高校入試も大学入試も、それぞれの感染症対応があります。実施要領を踏まえ、生徒が安心して力を出せるよう進めます。

 協会の活動としては、1月10、11日に後期研を終え、年度内最後の2月の支部長研・理事研において、次年度を展望します。3月には採用校長と昇任教頭のための研修会を行います。より落ち着いて新天地に臨める学びの場とネットワークづくりに努めます。

 ―校長協会の抱える課題と対策について

 本協会の運営指針である4S「支える・備える・攻める・育てる」のうち「育てる」に関わる現状は大変厳しいです。社会の信託に応える学校教育には、適切な組織マネジメントが必要であり、学校経営のリーダーが鍵を握ります。

 前年度から道教委が私たちとの連携を強化し「未来の教頭プロジェクト」を推進し、一定の成果を挙げていますが、まだ不十分です。そのため、第一に「育てる」取組をさらに進めたいと思います。既に各地域で将来管理職として期待する教員に声をかけて、講師等道教委の力をお借りしながら研修を行っています。参加者の視野が広がりモチベーションの向上につながっています。

 第二に働き方改革によって副校長・教頭の仕事量や精神的な負担を軽減します。管理職業務の効率化・円滑化に向けた校長のサポートによって、やりがいをより感じられるよう努めます。「職員室の担任」の働く姿が与える影響は大きいです。

 第三に校長自身が生き生きと働くよう心がけたいと思います。校長は重責であり、学校教育の課題も山積していますが、課題のない世界はどこにもありません。私たち自身が課題に前向きに挑戦し、仕事、学び、そして人生を楽しんでいることが大切です。子どもたちがワクワクして学び、未来への希望を持つよう、率先垂範したいです。

 教員採用にも大きな課題があります。10年前に8・8倍あった高校の採用倍率は2・9倍に低下し、国語が1・6倍、英語が1・5倍です。「教育は人」であり、こんなに面白くやりがいのある仕事を若者が目指さない状況というのは大変残念です。魅力を発信し、より働きやすい環境となるよう、できることは全てやりたいと思います。

 昨年、イーロン・マスク氏の「日本はいずれ存在しなくなるだろう」という発言がありました。人口が減り合計特殊出生率も1・3と落ち込んでいることは重々承知していますが、あらためて言われて、グサリと来ました。若者が結婚しない理由、子どもを持たない理由は圧倒的に経済的負担です。「学校が素敵だ。未来は明るいのではないか。経済的には厳しいが、結婚し子どもができたらいいな」と思うようになること、そんな夢を本気で思い描いています。

 なお、職員の不祥事がなくなりません。信頼を損ねる許しがたいことあり、大変申し訳ないです。「これを行ったら、どうなるか」という普通の想像力がありません。教育公務員としての根本的な自覚が足りません。人間は過ちを犯す不完全な存在です。それゆえ、自己をメタ認知し、コントロールすることを怠ってはなりません。

 また、生徒に対する愛情や配慮の欠如が疑われるような言動も後を絶ちません。校長がリーダーシップを発揮し、不祥事や不適切な言動をなくしたいと思います。

◆ウェルビーイングな学びを

 ―来年度の展望と重点的な取組について

 協会の活動の大前提は、国の教育動向や道教委の施策の本質や背景を見極めるとともに、全道の多様な学校現場の状況を把握し、会員の校長先生の思いを共有することです。縦横の連携が重要ですが、連携とは単に何かを一緒に行うことではありません。単なる指示伝達や集約意見の提供ではありません。形式的にならぬよう、共に学び、共に汗をかき、遠慮のない対話をし、ベクトル合わせをしたいと思います。

 来年度も、年2回の研究協議会では実践知を共有します。文教施策要望と調査研究は活動の大きな柱です。故佐藤嘉大教育長のお考えで始まった代表校長研および改善研での道教委との意見交換をより質の高いものにしていきます。

 大切なのは現場に即した活動です。各校は本年度を振り返り、目的を見失わなかったか、成果と課題、改善方策は何かを明らかにしています。

 最重要テーマは、新学習指導要領の理念の具現化です。「社会に開かれた教育課程」の実施のため「どういう入学生を求めるのか」「どんな目的が教育課程にあるのか」「どんな資質・能力を卒業までに育成するのか」を明確にし、社会と共有することが大切です。企業においても「パーパス経営」が強調されています。パーパス(目的・存在意義)を最優先し、教育の具体がパーパスと結び付いているかを常に問う必要があります。

 生徒の学びについては「学びの三本柱」「見方・考え方」「主体的・対話的で深い学び」「探究」等のキーワードがあります。「先生がどう教えた」かよりも「生徒がどう学んだか」、学びが個人と社会のウェルビーイングにつながっていることが大切です。各校の授業改善、学びの改善に資する活動を進めます。

 1人1台端末の活用について、国が約4600億円を投じて環境整備を進めてきました。学びの道具として有効活用することが大切ですが、道教委のICT教育推進課が精力的に支援してくれています。ウェブのポータルサイトでは、現場で使える多種多様な資料が閲覧できます。GIGA通信の発行、各種イベントの案内も行われ、ヘルプ及びサポートデスクも充実しています。各校の通信環境の課題にも迅速かつ丁寧に対応し、様々なタイプの研修資料も豊富です。現場の困り感を減らそうという熱意に満ちた仕事の結果です。

 これこそ、目的や目標を共有し現実を適切に共通認識した上で、あるべきビジョンに向け具体的な手を打つという学校現場と教育委員会の理想の連携です。

 ICTを活用しながら、主体的に自己に適した学習を選び取り、試行錯誤・アップデートする生徒の学びの姿を追究します。

 また、昨年「生徒指導提要」が改訂されました。課題解決だけでなく成長を促す指導等を行う「積極的な生徒指導」を充実させることが強調されています。日本の若者の死因の第1位が自殺というのは悲しすぎます。学校教育を通じて、死に向かわない考え方や感じ方をかん養したいです。

 また、多くの人が引用する「18歳意識調査」(日本財団2019年)の「自分で国や社会を変えられると思う」の18・3%。これを高めることが大人社会の最優先事項ではないでしょうか。異なる他者と丁寧にやりとりしながら、自ら選び決定する経験こそが主権者としての姿勢をつくると思います。

 協会として、各校長が自校のスクール・ミッションを踏まえ、これらの教育課題と向き合いより良いマネジメントをすることに資するよう、知恵を共有し協働していきたいと思います。

 ―子どもたちのため会員・教職員に望むことは

 教育への公的支出はOECD29位(37ヵ国中、2018年)と低迷し、教育環境の格差の問題があります。学校の仕事量と職員数は不釣り合いです。また、労働生産性やデジタル競争力、大学研究力、ジェンダーギャップ指数などからも日本の国力低下が指摘されています。

 人口減少も進む中「よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創る」ことはますます重要です。パキスタンに用水路を建設し、約10万人の農民の生活基盤を作った故中村哲さんのように、全ての大切なことはあらゆる困難にもかかわらずなされなければなりません。

 次期教育振興基本計画(2023―27年度)案が2040年の社会から逆算しているように、現在を直視しつつ、あるべき未来を明確にし、バックキャストして今やるべきことに注力するべきです。未来は予測し待ち受けるものではなく、創るものです。それはまた、文化を創ることです。Cultureの語義で言えば、耕して安定した基盤、すなわち教育環境をつくり、種をまき、光と栄養を与えること。見守り手当てをすること。Cultureには「敬う」という意味もあるそうです。そうしたマインドで教育を進め、全ての子どもたちが希望で輝くようにしたいです。

はやし・まさのり

 昭和63年慶應義塾大学大学院修士課程修了。平成元年常呂高教諭を振り出しに、6年札幌東高、21年壮瞥高教頭、23年札幌平岡高副校長、26年札幌南高副校長、27年枝幸高校長、29年野幌高校長を経て、令和2年から札幌北高校長。

 昭和38年2月26日生まれ、59歳。伊達市出身。

(関係団体 2023-01-19付)

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