教育のDX 格差是正を声に 新春インタビュー 4種校長会長に聞く① 北海道小学校長会会長 紺野 高裕 氏 
(関係団体 2023-01-17付)

―校長会としての新年展望をお聞かせください。

 現在学校には、子どもたちの学びの保障と社会全体の幸せでもあるウェルビーイングの実現を目指し、一人ひとりの可能性を最大限に引き出す教育の推進が求められています。

 また、コロナ禍のもと、感染症対策を行った上での教育活動の推進、ICT教育の充実や主体的・対話的で深い学びを重視した授業改善への取組、いじめや不登校、ヤングケアラー対策等の生徒指導上の諸課題、学校の働き方改革の推進など教育課題が山積しています。

 そのような状況の中、全道の小学校長は、北海道教育の充実・発展を期し未来を担う子どもたちの教育のため、全力を挙げて学校経営に取り組んでいます。

 道小学校長会として全道966人の校長先生方と学校のため、各地区の声に耳を傾け、国や道に要望するとともに、意見表明し現場の声を届けることに一層力を入れる1年にしたいと考えます。

―校長会の抱える課題と対策をお願いします。

▼授業改善と学びの充実

 小学校の学習指導要領全面実施から3年、平成29年の告示から5年が経過し、次期学習指導要領の改訂に向け折り返し点を迎えています。本来であれば「社会に開かれた教育課程」「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」などについて各校で具現化され一層の定着が進んでいるころです。

 新型コロナウイルス感染症の対応等によって、地域との交流の機会や様々な研修、授業公開を伴う研究会の実施が難しい状況であったこともあり、学習指導要領の浸透は残念ながらその途上にあります。加えて、中教審答申の「令和の日本型学校教育の構築」に示された「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実について、趣旨の理解と具現化が求められており、こちらも緒に就いたばかりです。

 また、1人1台端末の有効活用について、学校間格差や教員の指導力による格差も指摘されており、教員の指導力向上が不可欠であり、研修の充実が喫緊の課題です。ウィズコロナの中ではありますが、授業改善と子ども一人ひとりの学びの充実は、最優先で取り組むべき課題であると思います。

▼教育のDX(デジタルトランスフォーメーション)化に向けて

 1人1台端末が授業で使われることや学級閉鎖時などの家庭と結ぶオンライン学習は、今や日常風景となりました。昨年とは明らかにフェーズが変わり、今はAIドリルの活用を含めいかに子どもの学びの深まりに資する活用としているか、さらに家庭学習など授業外の学びの充実にどれだけ活用できているかも問われています。

 また、デジタル教科書の試行も進み、欠席連絡・検温報告や保護者アンケートなど様々な業務のデジタル化・オンライン化もなされつつあり、ますますDX化が進んでいます。国によるMEXCBT(メクビット)が普及しつつあり、全国学力・学習状況調査のCBT化も予定され、全国的にもDX化が加速していきます。

 一方で、これらの取組や環境整備状況については、地域や自治体による差が大きいのが実情です。道小では、校務支援システム導入の有無、教職員分の端末配備、ICT支援員の支援の頻度、校内どこでもワイファイが届く通信環境や大人数が同時に使える回線の確保、家庭の通信環境への支援、端末の故障や破損に対する財源確保など、地域間格差の是正を求め今後も道や国に対して声を出し続けてまいります。

▼学校における働き方改革の推進

 働き方改革については、出退勤管理システムや朝夕の留守番(転送)電話などの導入が徐々に進み勤務時間に対する教職員の意識は向上しつつあります。

 また、コロナ禍のもと、学校行事をはじめ教育課程の見直しが進み、運動会や学習発表会等の持ち方について、各行事のねらいを達成しつつ効率化と負担軽減を図る取組が進んでいます。校務全般の効率化や会議の精選、長期休業中の学校閉庁日の拡大、休日の地域行事への参加対応についても見直した地区も多いようです。

 「現場でできることは、これ以上あまりない」という声に代表されるように、学校で取り組めることは限界に近付きつつあるという見方もあります。しかしながら、子どもと向き合うための時間を生み出し、子どもの教育活動を充実させるという観点で考えると働き方改革はまだまだ道半ばです。この後は、高学年における専科教員をはじめ、少人数指導や生徒指導等の加配人員の拡充および定数化、教員の授業持ち時間数の縮減を含め、一層多角的に働き方改革にメスを入れていくことが必要です。

 地域によっては定数欠や代替教員不足、管理職のなり手不足も見られ、全国的に小学校教員採用選考の倍率も低下の一途をたどっています。働き方改革と教職員の処遇改善を進め、採用選考の早期化や選考方法を改善し教員を目指す若者を増やすため、国や道と協力して取り組んでいかねばなりません。

▼いじめ、不登校への対応

 生徒指導上の問題については校長会としても重大な課題と受け止めなければなりません。

 いじめについては組織的な対応の必要性について道教委等から指導を受けており、先日は道教委から「いじめ対応ガイドブック・支援ツール」も示されたところです。未然防止を含め事案が起きた際の対応について具体的に示されており、各校の積極的な活用を進めてまいります。

 不登校については先日の問題行動等調査の結果では、不登校児童数が過去最多になりました。小学校での出現率は昨年の1・0から1・3に上昇しています。1年でこれだけ増加することは深刻な事態であると受け止めています。低年齢化も加速しコロナ禍の影響や様々な要因が考えられますが、学校としては個の理解と個に寄り添った支援の積極的な取組が求められています。このたび、生徒指導提要が改訂され、不登校支援の在り方についても示されています。これも参考に道小としても危機感を持って取り組んでまいります。

▼研修体制の充実と要望活動の推進

 昨年、第65回教育研究旭川大会をハイブリッド型で開催することができました。画面越しではありましたが、3年ぶりに分科会やグループ討議も実施し参加者から好評を得ました。ただ、アンケート結果をみると参集を望む声も多数あり、来年度の第66回渡島・北斗大会は、会同での開催を目指して渡島小中学校長会を中心に会員全員の力を結集して行いたいと思います。

 道小では毎年5月に北海道文教施策・予算策定に関する要望書を提出しています。各地区からいただいた要望をまとめ、次年度に向け道中学校長会、道公立学校教頭会と連携して道教委に要望しています。内容については、毎年、夏季休業中に開催している道教委との意見交換会・各課懇談会でも取り上げています。この準備のため、既に各地区への意見の吸い上げを行っています。

 さらに、道小は全連小とも密接に連携し、北海道の実情や課題を常任理事会等で説明し、それらについては文部科学省・関係行政機関・文教関係の国会議員や地方議員等への意見表明や要望活動にも盛り込まれています。

▼持続可能な校長会活動のために

 かつて1500校を超えていた道内の小学校は、現在、単置校917、併置校30、義務教育学校19となり会員数は966人となりました。今後も学校数の減少や義務教育学校化が進むと想定しています。会員数が減ると道小や各地区校長会の活動にも支障が出てくる可能性があります。

 「正論を以って正道を歩む」という理念や校長の職能向上と北海道教育の振興・発展を図るという道小の目的を堅持しつつ、今後も活動を維持・発展させていくためには、研究大会の持ち方や組織体制を含む活動の在り方を不断に見直し、歳出削減の取組や活動の効率化を進めることが求められます。将来展望を明確にし、今後に不安のない校長会運営を構想してまいります。

―新年度の重点的取組を伺います。

 8年に全国連合小学校長会研究協議会が札幌で開催されます。全連小においても全国的な学校数の減少を踏まえ、今後の大会の持ち方について検討を進めています。それらを見据えながら札幌市小学校長会と連携し準備と計画を進めてまいりたいと思います。

 道小では「未来を見据え、チーム北海道として進む道小」を掲げ活動を進めています。新年度もポストコロナを見通しつつ道中学校長会、道公立学校教頭会をはじめ、道教委や各市町村教委等の教育関係諸機関と連携を図り、学校現場が直面する様々な教育課題の解決に向け、各地区の校長先生方の声に耳を傾けて取り組んでまいる所存です。

 昭和60年道教育大札幌分校卒業後、札幌市立西小に赴任。平成10年道教育大附属札幌小、22年真駒内緑小教頭、24年道教育大附属札幌小副校長、28年宮の森小校長を経て令和2年から北九条小校長。3年から北海道小学校理科研究会会長も務める。

 昭和37年11月30日生まれ。60歳。室蘭市出身。

(関係団体 2023-01-17付)

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