札幌市教委6年度教育方針各所管事項〈上〉 重点に「子の声を聴く」 “自立した札幌人”を育成
(札幌市 2024-03-27付)

 札幌市教委が3月上旬に開催した6年度教育方針説明会では、木村良彦生涯学習部長、長谷川正人学校教育部長、廣川雅之児童生徒担当部長、佐藤圭一教職員担当部長が各所管事項について説明。6年度「札幌市学校教育」では、全ての教育活動を貫く重点に「子どもの声を聴く」を掲げたことなどを示した。説明概要を3回にわたって紹介する。

【第2期教育振興基本計画】―生涯学習部長

 教育委員会では、平成26年度に「市教育振興基本計画」を施行し、学校現場の皆さまの理解・協力を得ながら、様々な施策を進めてきた。

 このたび、現行計画が5年度末で期間終了となるため、6年度からの10年間の札幌市の教育に関する施策を総合的・体系的に進めていくことを目的として「第2期市教育振興基本計画」を策定した。

 計画策定に当たっては、学校関係者や学識経験者、公募委員などで構成する検討会議や子ども教育委員会会議を開催したほか、市民を対象としたパブリックコメント、併せて、子どもたちを対象としたキッズコメントを実施し、今後の教育施策の推進に向けて参考となる貴重な意見を多数いただくことができた。

 これらの実施に当たっては、学校現場にも協力いただいたことにあらためてお礼申し上げる。

 計画は、教育委員会が所管する市立園・学校の学校教育、幼児から高齢者までの生涯学習全般としており、今後10年間を見据えた基本理念等を示す「市教育ビジョン」と5年間で取り組む教育施策を示す「市教育アクションプラン」で構成されている。

▼教育ビジョン

 「教育ビジョン」では、第2期計画における札幌市の教育が目指す人間像と、基本的方向性についてまとめている。

 第2期計画においても、引き続き「自立した札幌人」を掲げる。「自立した札幌人」は、市の教育が目指すべき人間像、平和で民主的な国家および社会の形成者として、必要な資質を備えた心身共に健康な姿を簡潔に表現したもの。そうした必要な資質は、不変なものだが、その解釈については、時代の変化に伴って変わるものであることから、第2期計画では「自立した札幌人」の解釈を変更するものとした。

 新型コロナウイルス感染症の拡大やロシアによるウクライナ侵攻等、国際情勢の不安定化に象徴されるとおり、現代は将来の予測が困難な時代であり、こうした状況にいかに対応していくかが、今後重要な課題と言える。将来の予測が困難な時代でも、社会の変化に柔軟に対応しながら、多様な人々との関わりの中で、人間ならではの感性や創造力を発揮し、自他の良さや可能性を認め、高め合うことを通して、自分の軸とともに対立やジレンマに対処する強さと柔軟さ、いわば、しなやかさが備わり、自分らしく生きていくことが可能であるとした。

 そして、多様な生き方をしてきた人々の意見や考えを踏まえた上で、多面的・多角的に考察、構想し、構想したことをもとに、これまでの自己の生活を振り返ったり、社会生活に生かそうとしたりして、新たな価値を創造し、主体的に社会の形成に参画していくことが、持続可能な社会の創り手として必要なことであり、こうした資質を有する「自立した札幌人」の育成を目指す。

 第2期計画では「自立した札幌人」を―

▽未来に向かって新たな価値を創造し、主体的に学び続ける人

▽自他のよさや可能性を認め合い、しなやかに自分らしさを発揮する人

▽ふるさと札幌に誇りをもち、持続可能な社会の発展に向けて行動する人

―としている。

 「自立した札幌人」の実現に向けて、社会情勢の変化や市の教育が抱える現状と課題を踏まえ、今後の教育施策を展開する上で、三つの基本的方向性を示している。

▽教育機会と活動の視点として「一人一人が自他のよさや可能性を認め合える学びの推進」

▽地域連携と学び続ける視点として「学校・家庭・地域総ぐるみで育み、生涯にわたり学び続ける機会の拡充」

▽土台となる環境整備の視点として「社会の変化に対応した教育環境の充実」

―としている。

▼教育アクション・プラン

 「第2期教育アクション・プラン」では、教育ビジョンで掲げた「市の教育が目指す人間像“自立した札幌人”」および三つの「基本的方向性」に基づき、12施策からなるアクション・プランを6年度からの5年間で取り組むものとして設定し、事業・取組を展開する。

 また、第1期計画の成果と課題を踏まえ、重点的に取り組んでいく三つの項目を設定している。

▽共生社会を担う力の育成

 自分の良さや可能性に気付き、主体的に取り組む態度や行動力を身に付ける教育活動の充実を図る。グローバル社会の進展が見込まれる中、共生社会の実現に向けて新たな価値を創造する力を育むことを目指すもので、主な事業・取組として「さっぽろっ子“学ぶ力”の育成プランの推進」など八つを掲げている。

▽誰一人取り残されない教育の推進

 多様な教育的ニーズに応じた教育環境の整備を進め、いじめや不登校等の様々な子どもの困りや悩みに真摯に向き合い、誰もが安心して学びに向かうことのできる教育環境の実現を目指すもので、主な事業・取組として「通常学級等における子どもの支援体制の充実」など九つを掲げている。

▽生涯にわたる健やかな体の育成

 子どもの頃から主体的に運動する習慣を身に付くよう「運動の楽しさ」に触れることを重視した教育を推進するなど、生涯にわたって、健康で豊かな生活を送ることができるよう、自ら健康を保持増進しようとする態度の育成や、体力向上に向けた運動習慣を身に付ける取組を進めるとしたもので、主な事業・取組として「さっぽろっ子“健やかな体”の育成プランの推進」など四つを掲げている。

 この重点項目については、施策体系を横断的に、重点的に取り組むものとして設定している。

 計画については市ホームページに掲載されているが、各園・学校への冊子の配布については、4月上旬を予定しているので、承知おき願う。

 最後に、学校現場の皆さんにおいて、計画の推進に当たって、引き続き、理解・協力をお願い申し上げる。

【札幌市学校教育】

 改定の趣旨について、第2期教育振興基本計画の策定に伴い、市の学校教育を構造的に整理し「学校・家庭・地域」における共通の航海図をコンセプトとして「市学校教育の重点」の冊子を一新した。

 初任者研修や校内研修など、これまで以上に多くの場面で活用していただくことに加え、例えば、学校運営協議会など、あらゆる場面で活用できるような札幌市共通の資料となるよう作成した。

 構成は、札幌市学校教育の大要を示す「総論編」と、具体的な取組や教育活動を示す「各論編」、そして「総括」の3部に分けた。また、これまでは「札幌市学校教育の重点」という冊子の名前どおり、全体を重点として示していたが、冊子の名称を「札幌市学校教育」に変更し、6年度の重点をより明確に示すこととした。

▼総論編―学校教育部長

 冊子の1~2ページ目に見開きで総論図を示している。中央上部に示している「学ぶ力」について、これまでも大切にしてきたが、さっぽろっ子に育みたい共通の資質・能力として明確に位置付け、課題探究的な学習と自治的な活動を2本柱として、学校教育全般を通して育成していくことをあらためて確認したい。

 また「子ども観・教育観」「学校観」「人間尊重の教育」を札幌市学校教育の本質として示し、家庭や地域と共有しながら、社会総ぐるみで子どもたちを育んでいくことを、この総論図に表している。

▽子ども観・教育観

 これまでもさっぽろっ子「学び」のススメを中心に、園・学校と家庭での共有を進めてきたが、今後は地域も含めた3者が「子ども感・教育観」を共通認識した上で、連携・協働して子どもに寄り添い、子ども自身が自己肯定感を高めていけるような取組を進めていくことが重要。

▽学校観

 学校は「みんな違う」を原点として多様性を認め合い「本物の経験」を通して「自由」と「共生」を学ぶとともに、責任ある行動を取る力を身に付ける場であることを共通認識する必要がある。そのような学校においてこそ、子どもの相互承認の感度は醸成され、学校は、子ども一人ひとりの「自立」を支える場となる。

 つまり、社会の根幹である「自由」と「共生」、そして「責任」を一体的に学ぶ場が学校であり、学校はまさしく市民社会の土台と言える。このため、学校は実社会と切り離された場であってはならず、コミュニティ・スクール導入の真の目的はここにあると考える。

▽人間尊重の教育

 5年度の共通指標アンケートでは「自分にはよいところがある」「自分が必要とされている」等の項目の肯定的な回答の割合が、小中学校共に前年度よりも増加しており、基盤としての定着が図られてきたことを実感している。

 今後も、学校、家庭、地域が一体となり、全ての教育活動において、子どもの個性、多様性を認め、支え励まし合う温かい人間関係の中で、心豊かにしなやかに生きようとする態度を育んでくようお願いする。

▽「学ぶ力」の育成

 「学ぶ力、すなわち自ら課題を見付け、自ら学び、自ら問題を解決する資質・能力」をさっぽろっ子に育みたい共通の資質・能力として明確に位置付け、その育成に向けては、特に「課題探究的な学習」と「自治的な活動」を2本柱として、授業や活動等の中に「本物の経験」となり得る場を創出していく。本物の経験とは、持続可能な社会の創り手にとって糧となる、過去・現在・未来がつながる経験であり、様々な体験を繰り返したり、往還したりすることが大切。本物の経験については、今後も皆さんと一緒に、より議論を重ねていきたいと考えている。

 また、学ぶ力の育成を目指すに当たっては、基盤となるのが“相互承認の感度”。“相互承認の感度”は、子ども一人ひとりの主体性を大切にした多様な学びの中で、協働を通して磨かれていくものと考える。

▽「豊かな心」の育成

 豊かな心の育成に当たっては、取組の中核である道徳教育のさらなる充実が必要となる。そのためには、道徳教育の推進に係る諸計画が、自校の子どもの実態を踏まえたものとなっているかを適宜見直して修正するとともに、学校として重点的に指導する道徳科の内容項目を明確にし、全ての教職員の共通理解のもとで、教育活動全体を通じて指導を進めることが重要。

 また、道徳教育推進教師が中心となり、パートナー校や家庭・地域との連携を一層進めるようお願いする。

▽「健やかな体」の育成

 5年度の「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」の結果では「運動が好き」と考えている子どもは、体育の授業を除く1週間の総運動時間が長い傾向があり、進学後や卒業後も「自主的に運動したい」と思う傾向が強く見られた。

 このような結果を踏まえ「子どもが運動の楽しさに触れること」を引き続き重視していきたい。

 また、運動機会が少ない子どもに「どんな条件があれば運動・スポーツをするか」と聞いたところ、「仲間」「時間」「空間」のいわゆる三間(さんま)があれば運動したいという結果が出ていることから、授業以外で子どもの運動機会を創出する取組も引き続き推進するようお願いする。

▽一貫性・連続性のある教育

 市では、子どもと社会が「未来」でつながる「縦の継続」として、一貫性・連続性のある教育を推進していく。その柱となるのが「小中一貫した教育」だが、幼児教育から高校教育まで学びをつなげ、校種を越えて互いに関わりを持ちながら、教育を推進体制があることが強みと考える。現在、パートナー校では「小中一貫した教育」グランドデザインを作成し、目指す子ども像や目標を家庭や地域と共有しながら取組を推進しているが、これからはコミュニティ・スクールの仕組みも活用しながら、子どもと社会が「面」でつながる「横の連携」の充実を図り「縦の継続」を骨太にしていく。

 こうした、子どもと社会が「未来」でつながる「縦の継続」、子どもと社会が面でつながる「横の連携」を大切にして「社会に開かれた教育課程」の実現を図っていきたい。

(札幌市 2024-03-27付)

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