釧路市教委 不登校対策探る 道内公立初 学びの多様化学校開校へ 文科省マイスター招き懇談会等
(市町村 2024-09-04付)


学びの多様化学校・懇談会

 【釧路発】釧路市教委は8月21日、市交流プラザさいわいで、8年度に公立学校としては道内初となる不登校特例校「学びの多様化学校」の開校に向けた懇談会と講演会を開催した。文部科学省「学びの多様化学校マイスター」の岡田敏之氏を講師に招き、市の教育課題である不登校対策や学びの多様化学校が有する可能性などについて研修を深めた。

 これまでも市教委は、不登校児童生徒数の増加を重要課題に位置付け、様々な取組を試行してきたが、一人ひとりの学びの場を確実に保障するためには「学びの多様化学校」は急務であるとし、開校に向けた準備を進めてきた。今回の懇談会や講演会でより一層の共通理解を図ることをねらいとしている。

 「不登校対策に関する懇談会」には、大学や小・中学校関係者、教育行政職員、不登校親の会の代表ら10人が参加。学びの多様化学校マイスターの岡田氏がアドバイザーを務めた。

 はじめに岡部義孝教育長があいさつ。不登校児童生徒数が減少していないことに強い危機感を示した上で「子どもの社会的自立をどのように促していくかが大切。誰一人取り残さない学びの実現のため、たくさんの意見をお願いしたい」と様々な立場からの声を求めた。

 引き続き、市教委担当者が学校外施設の利用状況や各学校における校内支援センターの設置や不登校対応コーディネーターの配置などについて説明。学校内外での取組状況などを示した。

 懇談会では、それぞれの立場から子どもたちや各家庭の状況と課題、今後の見通しなどについて意見が出た。

 様々な家庭事情を鑑みながら対応する難しさが指摘され、家庭のニーズに合わせる大切さが示された。学びの場はたくさんあることを知らせ、学校に行くことだけが目的ではないことを確認。社会的自立という観点ではより柔軟な対応が求められるため、市が現在進めている義務教育学校などを含め、学びの多様化学校がその切り口の一つになってほしいという期待の声が上がるなど、環境をどのように整えていくのかが重要であることが確認された。

 アドバイザーを務めた岡田氏は「多様な子どもが増えたということは、多様な学びを求めている子が多いということ。学びの多様化学校はその選択肢の一つである」とした上で「学校も変わらなければならない時期に来ているのでは」と課題を提起した。

 学校のシステム自体を変えていき、学校で何ができるか、そして一人ひとりに合わせた本当の意味でのインクルーシブ教育が求められることを示唆。一人ひとりにどう対応していくかを考えなければならないことを強調した。

◆支える指導への転換を 文科省マイスター・岡田氏講演

  釧路市教委は、不登校対策に関する懇談会に続き、学びの多様化学校開校に向けた講演会を開催した。元京都市立洛友中学校長・文部科学省学びの多様化学校マイスターの岡田敏之氏を講師に招き「学びの多様化学校の可能性」という演題で講演。小・中学校教職員・教育行政関係者や地域住民ら約100人が参加し、令和8年に釧路市で開校予定の「学びの多様化学校」が有する可能性や市にふさわしい在り方などを模索した。

 はじめに岡田氏は全国の学びの多様化学校の設置状況を提示した。ことし6月時点で公立21校・私立14校が設置されており、北海道には現在札幌市に私立中学校1校のみ。公立学校としては釧路市が初めてとなることを示した。

 学びの多様化学校の対象者や特色ある教育課程について解説したあと、特別な教育課程の編成についての事例を紹介した。一人ひとりに合った教育課程を組むために新たな教科や時間として①科学の時間②創造工房③ヒューマンタイム―を設定し、現行の教科等(社会・理科・美術・技術や特別活動など)の特性を生かした授業内容を実施。大切なことは「無理なく学習を進めること」などと強調した。

 また、不登校児童生徒等への配慮について説明。生活する動線や教育相談体制の整備、特別の教育課程の編成における配慮などについて話した。

 併せて京都市立洛友中の実践を紹介した。洛友中は、昼間部生徒(学びの多様化学校)と夜間部生徒(夜間中学校)が世代や国籍を超えて触れ合い学び合うことができる全国唯一の学校。授業風景や時間割などに触れたあと、不登校対応の基本的な考え方として「登校ごころ」と「不登校ごころ」を提示した。

 休んでいる生徒にも登校したい気持ちがあり、登校している生徒にも休みたい気持ちがあることを理解した上で、自分のペースで来ることが大事であると訴えた。前向きに未来につなげていく学校には、一番困っている生徒に焦点を当て、仲間と共に成長し、より良く生きる力を引き出していくことが求められるとした。

 これまでの日本型教育の課題について、一斉・大量生産型・協調性重視による「同調圧力」を指摘した。個性が大事としながら「変わった子・空気が読めない子」として排除されることを危惧。そのためにも、思い切った授業の発想転換を提案した。画一的な一斉授業をやめ(教員はファシリテーター役、ゲストティーチャーの活用など)、ICT教材の活用と個に応じた教材開発、生徒自身による校則の見直しなど、多様な生徒による協働的な学びへの授業改革を求めた。生徒指導提要に提示されている基本的な指導観を示し「させる指導」から「支える指導」への転換を強く訴えた。

 学びの多様化学校運営上の配慮事項として①不登校児童生徒の通学への配慮②教育相談体制の配慮③特色ある教育課程の編成と授業改革④保護者支援―など6点を明示したあと、学び続ける原動力とは、分からないことが分かり、できないことができた時の喜びやうれしさであり、これが「学びの原点」であることを確認。

 多様な児童生徒による「協働的な学び」の実現には“教育”↓“共育”への転換が必要であるとし、新たに開校する釧路市の「学びの多様化学校」が子どもたち一人ひとりの可能性を伸ばす場所となることに期待を寄せた。

 参加者からは「不登校の子どもたちに寄り添う支援や指導の必要性、教職員のスキルを高める重要性を感じた」「子どもたちを支える視点をあらためていただいた」といった声が聞かれた。

(市町村 2024-09-04付)

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