道教委の28年度教育行政執行方針(道・道教委 2016-03-01付)
二月二十六日の一定道議会本会議で、道教委の柴田達夫教育長が説明した二十八年度教育行政執行方針=二月二十九日付1面既報=の概要はつぎのとおり。
【はじめに】
グローバル化の進展や情報通信技術の発達などが社会のあらゆる領域に様々な変化をもたらしている中、北海道が持続的に発展し、地方創生を実現するためには、地域の発展を支える教育の役割がますます重要となっている。
社会が大きく変化する時代にあって、子どもたちには、ふるさと北海道に誇りをもち、互いに支え合いながら、生涯にわたって生き抜く力を身に付けさせることが求められており、こうした期待に応えていくためには、教育に携わるすべての関係者が、それぞれの果たすべき役割と責務を自覚し、「自立」と「共生」という北海道教育の理念を踏まえ、教育行政を推進していくことが重要である。
【教育行政に臨む基本姿勢】
このような認識のもと、子どもたちの確かな学力、豊かな心、健やかな体をバランスよく育てる教育と、その基盤となる教育環境づくりに向けた基本姿勢について申し上げる。
本道の子どもたちの学力・体力については、一部の教科や種目で全国平均を上回るなど改善の傾向がみられるものの、さらなる授業の改善や子どもたちの生活習慣の在り方などが課題となっている。
また、いじめの問題においては、子どもたちのささいな変化や兆候であっても、いじめとの関連を常に意識し、緊張感をもって取り組むことが求められている。
道教委としては、子どもたちの個性を伸ばし、能力を引き出しながら、社会で自立して生きていく上で必要な学力や体力を身に付けさせるとともに、いじめのない学校づくりなど、学校・家庭・地域・行政が連携して教育環境の一層の充実が図られるよう、効果的な施策を講じていく。
【重点政策の展開】
つぎに、二十八年度において、取り組む重点施策について申し上げる。
▼社会で活きる実践的な力の育成
第一は、「社会で活きる実践的な力の育成」について。
子どもたちが変化の激しい社会を生きていくためには、基礎的・基本的な知識・技能と、それらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力等に加え、主体的に学びに向かう力や人間性などを総合的に育んでいくことが重要である。
このため、義務教育においては、知識・技能の習得と、それらを活用し探究する学習活動を基本とし、学力向上に向けた取組の啓発を図る「ほっかいどう学力向上セミナー」の開催、「ほっかいどうチャレンジテスト」の改善と活用、学校力向上に関する指定校における成果の普及および複数の学校の授業改善を図る授業改善推進チームの拡大、さらには、子どもの望ましい生活習慣の定着に向けた取組などを推進する。
高校教育においては、次期学習指導要領の改訂や大学教育との接続にかかわる改革などを見据え、課題の発見・解決に向けた、主体的・協働的な学びの充実に取り組むとともに、生徒の能力・進路に応じた教育を推進するため、教材やテストの開発、外部講師による講義等を実施する高校学力向上実践事業に取り組む。
また、選挙権年齢が十八歳に引き下げられたことに伴い、生徒に選挙に関する知識や教養を身に付けさせるため、選挙管理委員会と連携し、学校における指導の充実を図る。
特別支援教育については、共生社会の形成に向けて、障がいのある子どもと、障がいのない子どもがともに学ぶインクルーシブ教育システムの理念を踏まえ、特別支援学校はもとより、幼稚園、小・中学校に加え、高校等においても、発達障がいを含む障がいのある子ども一人ひとりの教育的ニーズに応じた指導や支援の充実を図るとともに、特別支援学校の児童生徒の増加に伴う教育環境の整備を進める。
小中連携・一貫教育については、新たに位置付けられた義務教育学校の活用も含め、北海道らしい取組を進めるための方針や、具体的な学校間の連携の在り方などを示した手引を作成するなど、地域の実情に応じた導入が図られるよう取組を進める。
また、グローバル化が進行する中で地方創生を実現していくためには、北海道について理解し、誇りをもつとともに、世界にも目を向け、貢献していくことのできる人材を育成していくことが重要である。
このため、郷土を愛し、発展させていこうとする気持ちを育むことができるよう、本道の自然や文化、観光などの教育資源を活用した学習や、北方領土やアイヌの人たちの歴史や文化などに関する学習を充実させるとともに、地域に伝わる民俗芸能に親しむ機会を提供する。
加えて、グローバル・リーダーの養成を図るため、通学型・宿泊型のイングリッシュ・キャンプを展開するとともに、道内の高校生がICTを活用し海外の高校生等との意見交換を行う「U―18未来フォーラム」の開催、中学生を対象とする本道独自の英語検定の開発、さらには、高校生の海外留学の支援などに取り組む。
さらに、義務教育の機会を確保するため、中学校夜間学級の設置を検討している市町村教委と連携しながら、設置に当たっての課題などについて、検討を進める。
このほか、各学校段階を通して取り組む「小中高一貫ふるさとキャリア教育推進事業」をはじめ、一人ひとりの社会的・職業的自立に向け、必要な能力や態度を育てるキャリア教育の充実に努める。
▼豊かな心と健やかな体の育成
第二は、「豊かな心と健やかな体の育成」についてである。
子どもたちが、互いに尊重し合い、基本的な倫理観や規範意識、思いやりの心や美しいものに感動する心などを育むとともに、自らの生き方を主体的に考えることができる力を育成することが重要である。
このため、道徳が特別の教科として位置付けられたことを踏まえ、道徳の指導方法に関する研修会の開催や、道徳教育用教材の積極的な活用などに取り組む。
また、読書活動を推進するため、学校司書の配置を促進するとともに、体験活動を通じた読書機会の提供などによって、子どもたちの読書環境づくりに取り組む。
いじめについては、いじめの芽は、どの子どもにも生じ得るという強い認識に立ち、常日ごろから望ましい人間関係を醸成する学校経営・学級経営に努めるとともに、いじめの疑いがある場合には、迅速に、かつ、チームで対応することを基本として、取組の徹底を図る。
併せて、子どもたちをネットトラブルから守るため、学校における情報モラル教育の一層の充実を図り、情報を適切に取り扱う能力を育成するとともに、子どもたちが陥りやすいトラブル事例をまとめた保護者向け啓発資料の配布や相談窓口の周知などに取り組む。
また、いじめや不登校の事案に対応するため、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置を拡充するとともに、子どもや保護者から直接相談を受けて問題の解決につなげる「子ども相談支援センター」や、ほっかいどうスクールネットを活用して相談を行う「教育カウンセリングICT活用事業」による支援を進め、教育相談の充実を図る。
体力は、あらゆる活動の源として、健康の維持のほか、意欲や気力の充実にも大きくかかわっており、子どもたちが生涯にわたって心身ともに健やかに生きるための基盤である。
このため、子どもたちの体力向上に向けて、引き続き、実践研究における優れた取組の普及に努めるとともに、道民挙げての運動として、子どもたちが楽しみながら体力づくりに取り組むことができるよう、道独自の強調月間を設定するなどして、学校・家庭・地域・行政が一体となった取組を進める。
このほか、すべての子どもが安心して学校生活を送ることができるよう、食物アレルギーへの対応や地域と連携した防災教育の一層の充実を図る。
▼信頼される学校づくりの推進
第三は、「信頼される学校づくりの推進」についてである。
人口減少や少子化が進行する中にあっても、学校の規模や地域にかかわらず、教育の質の維持・向上を図ることが重要である。
このため、子どもたちの理解や思考を深めるとともに、分かりやすい授業づくりの手段として、実物投影機やタブレット端末などを活用した授業を実践し、得られた成果を全道に普及する。
また、広域分散型の本道の地域性などを考慮し、他の学校への通学が困難な地域にある小規模高校などについては、ICT機器を活用した遠隔授業を拡充するなど、地域における教育機能の充実・確保を図る。
学校教育の成否は、子どもたちに直接ふれあう教職員の人間性や指導力によるところが大きく、特に、広域分散型で小規模校が多い本道においては、教職員一人ひとりの果たす役割が大きいことから、資質・能力の向上に向けた継続的な取組が必要である。
現在、国において検討されている教員の養成・採用・研修を通じた一体的な改革を見据え、道内の教員養成大学等と連携し、教員としてのキャリア全体を見通して計画的に力量を高める方策について検討を進める。
また、女性教職員の活躍を支援するため、新たに策定する行動計画に基づき、人事上の配慮やミドルリーダー養成研修の実施などの各種取組を進める。
このほか、体罰やわいせつ行為、飲酒運転など、教職員の不祥事の根絶に向け、「コンプライアンス確立月間」における集中的な職場研修や個人面談などを通じて、教職員の自覚を促す指導に、より一層の危機感をもって取り組む。
教員の時間外勤務等を縮減するため、効果的な取組やこれまでの制度改正等を盛り込んだ事例集を作成し、活用を促すとともに、管理職員の業務管理に対する意識改革などを進める。
▼地域全体で子どもたちを守り育てる体制づくりの推進
第四は、「地域全体で子どもたちを守り育てる体制づくりの推進」についてである。
社会が急激に変化する中、学校・家庭・地域・行政が連携協力して、子どもたちを守り育てることが重要であり、家庭や地域での教育の充実を図るとともに、社会の幅広い教育機能を活性化していくことが求められている。
本道においても、地域で子どもを育てる取組が広がる中、例えば、日高町では、全国で初めて子どもの生活習慣の育成に関する条例が制定され、町全体で子どもを育む体制づくりが進められている。
道教委としては、こうした地域の取組と連携しながら、子育てや家庭教育については、小学校入学時期や思春期の子どもをもつ保護者への支援を行うほか、企業、NPOなどの人材やノウハウを活用した体験活動や家庭教育サポート企業の協力を得た取組を促すとともに、保護者が日常的に相談や交流ができるような仕組みづくりを推進し、家庭教育に関する学びのセーフティネットの構築を図る。
加えて、家庭の経済状況にかかわらず、子どもたちが安心して学習を進められるよう、授業料等の負担軽減を図るとともに、地域住民の協力を得て学習支援を行う「子ども未来塾」などの取組を進める。
コミュニティ・スクールについては、学校の教育活動の充実はもとより、地域の教育力の向上を図る有効な手立てとして、振興局など、知事部局と連携して導入を促進する。
また、PTAや関係機関等との協働による「どさんこアウトメディアプロジェクト」など、ネット利用も含めた望ましい生活習慣の定着に向けた取組を通じて、家庭や地域の教育力の向上に取り組む。
▼北海道らしい生涯学習社会の実現
第五は、「北海道らしい生涯学習社会の実現」についてである。
道民が潤いのある生活を送るとともに、持続可能な地域づくりを進めるためには、生涯を通じ積極的に学び、その成果を生かせる環境をつくることが重要である。
このため、道民に様々な学習機会を提供する「道民カレッジ」の連携講座を拡充するほか、公民館等における住民の学びを実践につなげる仕組みづくりや社会教育の取組を生かした人材育成を支援する。
文化の振興については、アイヌ民俗文化財の保存・伝承活動の支援や北東北と連携した縄文遺跡群の世界遺産登録に向けた取組など、文化財の保護と活用を進めるとともに、地域の文化財をパッケージとして発信することで、地域の活性化を図る日本遺産の認定に向けた取組のほか、美術品等にふれる機会の少ない学校における鑑賞学習用支援ツールを活用した授業の取組を促進する。
【むすび】
以上、二十八年度に取り組む重点政策について申し上げた。
グローバル化や急激な情報化など先を見通すことの難しい時代においては、生涯を通じて不断に学び、考え、様々な困難を乗り越えながら、いくつになっても夢と志の実現のために挑戦し、自らの人生を切り開き、より良い社会づくりに貢献していくことのできる人間を育成することがますます重要になる。
道教委としては、「北海道の子どもたちは、道民の手で、地域全体で育んでいく」という認識のもと、常に危機感をもって、目の前の課題を先送りせず、来たるべき未来を見据えながら本道教育の充実・発展に取り組んでいく。
道民の皆さん、ならびに道議会議員の皆さんの理解と協力を心からお願い申し上げる。
(道・道教委 2016-03-01付)
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