アクティブ・ラーニング調査研究プロジェクト 旭川市朝日小ほか5校の研究成果①(道・道教委 2016-04-05付)
【旭川発】道教委の課題解決型授業(アクティブ・ラーニング=AL)に関する調査研究プロジェクトの実践推進校の旭川市立朝日小学校、連携協力校の五校からなる調査研究グループ「アクティブ・ラーニングプロジェクトスタッフ(=ALPS)」は、本年度の研究成果をまとめた。
概要はつぎのとおり。
【研究概要・経過報告】
▼組織
二十七年度、道教委による一年間の研究指定を受け、実践推進校の朝日小を中心に、市立新町小、市立青雲小、市立大有小、市立近文小、市立永山西小の連携協力校五校の調査担当教諭でプロジェクトチームALPSを組織。小学校における「主体的・協働的な学び」の姿について整理し、実験授業を行いながら、ALの視点を取り入れた具体的な指導過程や一単位時間のモデルを示すことを目指した。
ALPSに加え、道教委、道立教育研究所、道教育大学旭川校、上川教育研修センター、旭川市教委なども含めた推進地域連携協議会を立ち上げ、実践成果等の共有化を図った。
▽目的
・課題解決型授業(AL)の学習・指導方法等の調査研究
・新たな学習、指導方法の体系的な研修の確立
・中核的指導教員の育成と指導力の向上
▼研究経過
学習指導要領の改訂に向け、教師中心の暗記・再生型授業から学習者中心の思考・発信型の授業への転換が求められている。二十一世紀に生きる子どもたちに必要な資質・能力の育成をするためのALの視点を取り入れた授業改善が重要であるとされている。ALPSでは、「主体的な学び」「協働的な学び」をキーワードとして、小学校におけるALの在り方について研究を行った。
▽主体的な学び、協働的な学びとは
「主体的な学び」は、子どもが高い学習意欲をもって取り組んでいる姿に現れる。それは「問い」の質が高く、子ども自ら解決への見通しをもち、次時へ学びが連続していく学習であり、探究型の学習はもちろん、習得と応用・活用型の学習を踏まえた学習指導計画が必要と考えた。また、「協働的な学び」は、個で学習するよりも集団(相互交流)で学習することで、思考が深まり広がる学習へと、学習の質的変化に現れる。
これまで多くの学びでは、解決に必要な情報は自分で収集(できる、分かるなど)し、それをたくさん蓄積しておき、解決するときは蓄積しておいた情報を用いて解を導いていた。しかし、これからは、自分だけでなく、友達や他者が蓄積している情報や考えなどをネットワーク化し、互いの情報を活用しながら解を見つけたり、自分なりの考えをもったりしていく能力が必要である。協働的な学びを通して、交流の質の高まりや、伝え合う力、比較・吟味する能力、問題発見・解決能力等が育成されていくと考えた。さらに、「協働的な学び」(交流場面)を意図的、日常的に位置付けることによって、子どもが連続的に学びの手応えを感じ、学びに向かう力が増して、より思考が活性化される学びが確立できると考えた。
▽主体的な学び、協働的な学びとするための指導の工夫
教師がしなければならないことやできること、教師がしてはいけないことを整理した。教師が学習のねらいや目的を明確にし、指導内容の本質をとらえることが不可欠である。また、子どもに考えさせる場面を意図的につくることや、子どもが自ら活動することができる個々の見取りが今まで以上に重要であること、さらに子ども同士が話し合いを通して課題解決していくためには、学級の「支持的風土づくり」が大前提であることなどが明らかになった。
【学級づくり】
▼ALと学級経営の関係
▽主体的な学びとするために教師がしなければならないこと、できること
・学びに向かう教師の姿勢
・指導事項の明確化
・子どもと学級の実態把握
・「教えて考えさせる」と「教えないで気づかせる」のバランス
・意欲を引き出す課題と動機付けの工夫
・自己決定、意思決定の場面設定
・一人ひとりが自ら活動する学習場面の設定
・思考の見える化
・考えさせる場面の意図的な設定
・振り返り場面の設定
▽主体的な学びとするために教師がしてはいけないこと
・管理主義
・放任主義
▽協働的な学びとするために教師がしなければならないこと、できること
・支持的風土づくり(学級経営)
・教師の意識改革
・協働的な学びの価値付け
・適切な学習形態の工夫
・話す、聞く、話し合うなどの基本的なスキルの習得
▽協働的な学びとするために教師がしてはいけないこと
・競争原理の指導
・目的のない(必要のない)話し合い、グループ活動等
・形式や形態への固執
▽ALPSの考えるALと学級経営の関係
・ALの導入は、学級経営の充実と密接な関係がある
・充実した学級経営の基盤は、確かな児童理解に立った学習・生徒指導にある
・ALを意識した指導は、望ましい学級集団への変容を促す
・望ましい学級集団への変容か、必要な資質と能力の獲得につながる
▼ALを意識した学習指導
ALのねらいである「学びに向かう力」「対人関係能力」「持続可能な社会づくりにかかわる実践力」などの汎用的能力の育成は、日々の学級での営みが大きな鍵を握っている。それゆえ、ALの視点を取り入れた学習指導を行い、充実した学級経営に努めることが大切である。学習指導および生徒指導もチームでの対応を求められているものの、とりわけ小学校の担任の責任は非常に大きく、担任の姿勢と日ごろの学級経営が大きく関係する。
ALを意識した学習指導が望ましい学級集団への変容につながることを理解して学級経営に努める。その結果、得られる望ましい変容が資質能力の獲得をより確かなものにすると考える。
▼望ましい学級集団への変容に向けた学級経営上の留意点
「あらゆる場面において、児童生徒が人として平等な立場で互いに理解および信頼し、集団の目標に向かって励まし合いながら成長できる集団」こそが、ALPSの考える望ましい学級集団の具体と言える。そのような集団を育むために教師が特に留意すべきことは「居場所づくり」「絆づくり」「自己有用感に裏付けされた自尊感情の醸成」の三点である。これらを意識した学級経営が望ましい学級集団への変容には欠かせない。
▽居場所づくり=児童生徒が安心できる、自己存在感や充実感を感じられる場所をつくりだすこと。教師は児童生徒一人ひとりに「場づくり」を保障しなければならない
▽絆づくり=主体的に取り組む協働的な活動を通して、児童生徒自らが絆を感じ取り紡いでいくこと。教師主導で行う居場所づくりに対し、絆づくりは児童生徒が主体とならなければ意味がない。教師は「絆づくりをしてあげる、させる」という発想を捨てる必要がある
▽自己有用感に裏付けされた自尊感情の醸成=他者の存在を前提としない自尊感情は、社会性に結び付かない。「人の役に立った」「人から感謝された」といった自己有用感を社会性の基礎としておさえ、自分と他者(集団や社会)との関係を自他ともに肯定的に受け入れられることで生まれる、自己に対する肯定的な評価を重要視する必要がある。「ほめる」ことよりも「認める」ことを大切にしなければならない
▼充実した学級経営を支える確かな児童理解
一人ひとりの子ども(個)と学級(集団)を正しく理解しなければ、ALを導入した学級経営に努めても期待した効果は望めない。担任として、子どもや学級の実態や変容を見取る力を鍛えるのは有益だが、主観による見取りには限界と危うさがある。そのため、担任による見取りを補い、より確かな児童理解を達成するためには、ほかの手立てを講じることも必要と考える。
その一つが、担任以外の教職員による子どもの見取りの機会を増やすことである。算数のTTや養護教諭、図書館支援員等で見取りを共有する。その際、不可欠なのが、「子どもは〝チーム学校〟で育む」という教職員の共通理解を図ることが大切である。また、「ほっと」「Q―U」などの集団アセスメントの導入も有効である。
▼まとめ
目の前にいる子どもや学級の実態を抜きに、授業展開や発問だけを工夫しても、優れた実践の模倣をしても、教師が期待する資質能力の獲得や望ましい変容にはつながらないことが多い。
発問や友達の意見のあとで、子どもの表情から、「今あの子はひらめいたな」と気づけるか否か、机間指導しながら、「ここであの子の考えを発表させるとみんなの考えが深まるぞ」と組み立てられるか否かで、授業の果たす役割は大きく異なる。教師がファシリテーターとしての役割を十全に果たすためにも、普段からの子ども・学級の見取りをおろそかにしてはならない。その意識と積み重ねが確かな児童理解に基づいた学級経営を可能にすると考える。
充実した学級経営は担任に課せられた職責である。ALを意識した学習指導は、充実した学級経営の根幹たり得る。指導のよりどころとして、積極的に導入すべきであろう。
なお、学習指導であれ、生徒指導であれ、担任がすべてを一人だけで抱え込むようでは、充実した学級経営を期待することなどできはしない。担任を支える環境整備は、担任の職責を考えても急務である。「チーム学校」として、教職員同士が協働的にかかわり合える教職員集団であることが、子どもたちの望ましい変容の大きな力となる。
(道・道教委 2016-04-05付)
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