1定道議会予算特別委の質問・答弁概要(28年3月17日)(道議会 2016-05-13付)
一定道議会予算特別委員会第二分科会(三月十七日開催)における池端英昭委員(民主党・道民連合)の質問、および柴田達夫教育長、杉本昭則学校教育監、菅原行彦学校教育局指導担当局長、成田祥介新しい高校づくり推進室長、赤間幸人高校教育課長、岸小夜子義務教育課長、松本邦由新しい高校づくり推進室参事(高校配置)、相馬哲也新しい高校づくり推進室参事(改革推進)の答弁の概要はつぎのとおり(所属、役職等はすべて当時)。
◆主権者教育について
池端委員 昨年から議論されている選挙年齢引き下げに伴う主権者教育に関しては、今般問題となっている若者の政治離れや投票率の低下などの課題を抱え、これらの問題を含め、いかにして解決していくか、教育現場における「シチズンシップ教育」の重要性が試される課題であるととらえている。
そこで、主権者教育について以下何点か質問する。
選挙権年齢を「満十八歳以上」に引き下げる改正公職選挙法が成立したことによって、各学校においては、生徒に対する「主権者教育」をどう進めていくかが現実的な問題となっている。
「主権者教育」に関しては、神奈川県教委のように、「シチズンシップ教育」という形ですでに具体的に取り組んでいるところもあるが、多くの学校は手探り状態というところも多いのではないかと思う。
政府は、「学校の秩序を守りつつ、生徒が有権者として政治参加の役割と責任を果たすことを学校教育において、より身近に、より現実的に理解し、また、体験し、参加意欲を高める努力を重ねなければならない」としながらも、「このような取組を推進するに当たっては、政治的中立性を厳に確保し、間違っても学校教育に政治的なイデオロギーが持ち込まれることがあってはならない」としている。これはアクセルとブレーキの関係とも言え、二つの命題を同時に突き付けているようなものであり、教育現場においては、極めて難しい判断が求められるのではないだろうか。
道教委として、政治的中立性の確保をどのように認識しているのか伺う。
赤間高校教育課長 政治的中立性の確保について。このたびの選挙権年齢の引き下げなどを契機として、高校生には、国家・社会の形成者としての資質や能力を育むことが一層求められており、授業において、民主主義の意義や選挙の仕組みなどの政治や選挙に関する知識に加えて、現実の具体的な政治的事象も取り扱い、有権者として自らの判断で権利を行使することができるよう、具体的かつ実践的な指導を行うことが大切であると考えている。
なお、そうした授業において、政治的に対立する見解がある現実の課題を取り上げる場合には、学校は政治的中立性を保ちつつ、政治的教養を育む指導を行う必要があり、その際には、生徒が個人として、多様な見方や考え方の中で自分の考えを深めることができるように、冷静で理性的な議論が行われるよう留意することが大切であると考えている。
―再質問―
池端委員 学校が、政治的中立性を保つということは、当然のことである。その上で、政治的教養を育む指導を行う点に難しさがあると思っている。
七十年ぶりの制度改正で若い人たちの政治参加の広がりに期待が高まっている一方、これまで政治的中立が強調され過ぎ、学校で深い教育が行われなかったことが、若者の政治離れの要因だとする指摘もある。
従って、今後、学校で政治や政策決定の仕組みをきちんと教えることこそ、政治への関心が生まれるのではないかと考えている。
生徒が個人として、多様な見方や考え方の中で、自分の考えを深めることができるためには、ある程度踏み込んだ情報や知識を必要とする。主権者教育が間違っても後退することがないよう、この中立性によって教育現場が萎縮しないようにしなければならないと考えるが、あらためて伺う。
赤間高校教育課長 学校における指導について。高校において、政治に関する事項を取り扱う際には、高校生が政治について主体的に考察することによって、社会についての広く深い理解力と健全な批判力などを養い、政治的教養を高めることが重要であると考えている。
このため、道教委としては、国が作成した副教材『私たちが拓く日本の未来』等を活用し、政治や選挙に関する知識に加えて、現実の具体的な政治的事象も取り扱い、有権者として自らの判断で権利を行使することができるよう、具体的かつ実践的な指導を行うことについて、「教育課程研究協議会」等を通じて、各学校に対し、指導助言していく考えである。
池端委員 国は、高校生の政治活動について、家庭の理解のもと、生徒が判断し、行うとしているが、一方で、休日などの構外で行われる政治集会等については、学校にその旨の届け出を必要としている。
これは、高校生に対する政治活動や政治参加を抑制することにはならないのだろうか。学校では教えられない、生の政治にふれられる貴重な機会であると考えている。
つまり、どの政党と言わず、あらゆる政党の集会に参加し、見識を高め、選挙に臨めることが、この上ない主権者教育ではないかと考えるが、見解を伺う。
赤間高校教育課長 高校生による政治的活動等について。このたびの法改正によって、十八歳以上の生徒が有権者として選挙権を有し、選挙運動を行うことが認められることとなったことから、国の通知においては、放課後や休日等に学校の構外で行われる高校生による政治的活動等については、家庭の理解のもと、生徒が判断し、行うものとしているが、生徒の学業や生活などに支障があると認められる場合や、学校教育の円滑な実施に支障があると認められるなどの場合には、学校において適切に指導を行うことが求められている。
道教委としては、こうした考え方を十分踏まえ、生徒の政治的教養が適切に育まれるよう、家庭や地域と連携しながら、各学校において、適切に指導を行うことが必要であると考えている。
池端委員 選挙年齢が十八歳以上に引き下げられたことに伴い、同じクラスの中でも選挙権を有する満十八歳の生徒と選挙権をもたない十八歳未満の生徒が混在することになる。
満十八歳と十八歳未満では、公職選挙法の適用関係が異なることから、子どもたちには違反行為を犯さないよう公職選挙法における違反行為を周知徹底する必要がある。
そこで、道教委として、どのような取組を考えているのか伺う。
菅原学校教育局指導担当局長 選挙運動にかかわる生徒への指導について。満十八歳以上の生徒と満十八歳未満の生徒では、選挙権の有無や選挙運動などにおいて、法律上の差異があることを十分理解させる必要があることから、国が作成した副教材『私たちが拓く日本の未来』の教師用指導資料では、例えば、満十八歳未満の者が満十八歳以上の者に対して、自分が支持している特定の政党や候補者に投票するよう呼びかけたりする場合や、満十八歳以上の者が満十八歳未満の者を使用して選挙運動を行ったりする場合などは、公職選挙法に違反するおそれがあることなどが示されている。
道教委としては、各学校に対し、こうした留意事項を十分踏まえ、生徒が違法な選挙運動を行うことがないよう指導するとともに、政治的教養を育む教育の一層の充実を図るよう指導していく。
―再質問―
池端委員 選挙運動に関する法律は難解なものであり、何度経験しても危うい場面があったり、解釈として、法律の的確な運用で迷うところもあったりする。しかし、法律は絶対守らなくてはならない。まして、十八歳になりたての子どもたちにとって、何が選挙違反に当たるのか、すべてを理解するには、正確な知識を有する者が子どもたちに対して、分かりやすい事例を挙げ、説明することが重要ではないだろうか。
また、今後、生徒によっては、告示後、選挙戦で選挙カーに乗るといった、直接的なかかわりに及ぶケースも考えられる。
主権者教育ともう一方の現実的な行動という点で、多面的な指導が求められるのではないかと思うが、道教委として、どのように考えているのか、あらためて伺う。
杉本学校教育監 生徒への指導について。高校においては、生徒が有権者として自らの判断で権利を行使することができるよう、政治参加の重要性や選挙の意義について理解を深め、様々な課題を多面的・多角的にとらえ、根拠をもって自分の考えを主張しつつ、他人の考えに耳を傾け、合意形成を図っていくという政治的教養を育む教育の一層の充実を図ることが重要であると考えている。
一方で、先ほど申し上げたとおり、国の通知において、放課後や休日等に学校の構外で行われる高校生による政治的活動等については、家庭の理解のもと、生徒が判断し、行うものとしているが、生徒の学業や生活などに支障があると認められる場合や、学校教育の円滑な実施に支障があると認められるなどの場合には、学校において適切に指導を行うことが求められており、道教委としては、道の選挙管理委員会とも連携を図りながら、今後、各学校に対し、公職選挙法上のより具体的な留意点などについて、周知していく考えである。
―指摘―
池端委員 これまで様々な議論をしてきた指導の規律や学校の裁量といった面で、まだまだ不明確な点も残る。
本道の未来を担う子どもたちが主権者として自ら権利を積極的に行使する道民になれるよう、主権者教育の向上を目指していただき、また、法の理解についても、高校生に法律を犯さないように、犯罪者にしないように適切な指導を行うことを指摘したい。
◆新たな高校教育の指針
池端委員 これまで、「新たな高校教育に関する指針」について、都市部もさることながら、特に郡部において、地元の高校の統廃合や学級数削減などに対して、地域住民から子育てや子どもの教育機会の減少への不安の声を耳にしている。学校の再編の仕方によっては、地域の衰退に拍車がかかることはもとより、何より子どもたちの将来にも大きく関係することから、わが会派としても厳しく指摘してきた。
そこで、「新たな高校教育に関する指針」について、以下、何点か質問する。
まず、これまでの検証状況および今後のスケジュールについて。
道教委は、十八年に策定された「新たな高校教育に関する指針」に基づく施策と課題の検証を二十八年も継続して行うとしているが、これまでの検証状況と今後のスケジュールについて、どのように考えているのか伺う。
相馬新しい高校づくり推進室参事(改革推進) 指針の検証状況などについて。現在、庁内に設置した高校教育検討委員会において、「新たな高校教育に関する指針」に基づく、教育内容の改善・充実の状況や新しいタイプの高校づくり、高校配置などの各種取組の進捗状況を把握・分析するなどして、その成果や課題についての検討を進めており、このうち、地域キャンパス校の再編基準の緩和や教育環境の充実に向けた考え方を先行して取りまとめた。
今後は、市町村や関係団体、有識者などから意見を伺いながら、引き続き検討を進め、ことし九月を目途に、指針に基づく施策の検証結果を取りまとめていく考えである。
池端委員 指針の見直しに対する意見があるが、それに対する道教委の考えについて伺う。
現在の指針では、適正規模を一学年四から八学級が望ましいとしているが、現在におけるその認識を伺う。
また、都市部と地方における中学校卒業者数の異なる状況や一律再編基準への見直し意見が多くあるといった、この状況をどのようにとらえているか、この二点について見解を伺う。
松本新しい高校づくり推進室参事(高校配置) 望ましい学校規模について。現行の「指針」においては、一定規模の生徒および教職員の集団を維持し、活力ある教育活動を展開する観点から、一学年四から八学級を望ましい学校規模としており、中学校卒業者数が急激に減少する中、生徒の学習環境の充実を図るため、再編整備を行ってきた。
こうした中、地域からは、郡部における高校の存続が難しいことから、「一学年三学級の高校を対象とする再編基準を見直してほしい」「生徒数だけではなく、地元が抱える事情も判断材料とし、一律に再編整備しないでほしい」といった要望などもいただいており、広域で多様な地域から形成される本道の特性を踏まえ、都市部と郡部の違いや地域の実情なども考慮し、高校の配置が地域に与える影響、高校に対する地域の期待や取組などにこれまで以上に十分意を用いて、適切な高校配置に努める必要があると考えている。
池端委員 地域キャンパス校の適正規模の在り方について。地域キャンパス校にかかる検討においては、再編基準の見直しについても言及しているが、今回の指針における課題として、適正規模の在り方の検証が大きいと考えるが、見解を伺う。
成田新しい高校づくり推進室長 地域キャンパス校などについて。道教委としては、広域分散型の本道において、人口減少社会への対応や地方創生の観点から、地域の教育機能を確保することが重要であると考えており、このたび、小規模校であっても、地元進学率が高く、地理的条件などから再編が困難な場合に導入している地域キャンパス校について、再編基準の緩和や遠隔システムの積極的な活用など、教育環境の充実に向けた考え方を取りまとめた。
今後、さらに「指針」に基づく施策の検証を進める中で、教育的観点からの望ましい学校規模の考え方についても、その成果や課題などを検証していく。
―指摘―
池端委員 この課題に対しては、知事部局も大きくかかわりをもつ事案だと認識している。答弁で人口減少社会や地方創生の観点も示された。中学校卒業者数が減少するから直ちに学校や学級を減らすといった、そんな単純な問題ではないことは認識していると思うので、その思いが今後の指針の検証にどのように反映されていくのか、指摘と同時に推移を注視していきたい。
◆アイヌ教育について
池端委員 道教委は現在、公益財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構が発行している副読本『アイヌ民族:歴史と現在』を道内の小中学校に配布し、学校におけるアイヌ教育に活用するよう働きかけていると承知している。
このアイヌ副読本は、道アイヌ協会の役員や大学教授、アイヌ研究家、教育関係者などによって構成される編集委員会で編集されており、非常に内容のあるものとなっている。
しかし、授業時数などの関係もあり、教員からは「アイヌ副読本を十分に活用する時間がない」「年間指導計画への位置付けがない」などの意見を耳にする。
そこで、道教委として、アイヌ副読本の活用状況をどのように把握しているのか、併せて、今後、どのようにアイヌ副読本の活用を促進し、子どもたちにアイヌ民族の歴史や文化、現状を学習し、理解してもらおうとしているのか伺う。
岸義務教育課長 アイヌの人たちの歴史・文化等に関する教育について。アイヌ文化振興・研究推進機構が発行し、全道の小中学生に配布している副読本の二十五年度の活用状況は約六割となっており、この副読本のような補助教材については、各学校において、地域や学校および児童生徒の実態等に応じ、校長の責任のもと、教育的見地からみて有益適切なものを有効に活用することが重要であると考えている。
道教委では、アイヌ文化振興・研究推進機構が発行する副読本を活用する場合は、社会科などの各教科等における学習指導要領の目標および内容や教科書の記述を踏まえて指導するよう指導助言してきており、今後も、この副読本が適切に活用され、子どもたちがアイヌの人たちの歴史や文化等について正しい理解と認識を深めることができるよう、指導主事の学校訪問や各種研修等を通じて指導助言していく。
池端委員 児童生徒にアイヌ民族について正しく教えるためには、教員は各種研修において、教員を目指す大学生は大学における教育課程など、アイヌ民族についての知識をしっかりと身に付ける必要がある。
道教委は現在、教員などがアイヌ民族や先住民族についての理解や学習を深める機会をどのように確保しているのか。また、今後どのように推進していくのか伺う。
柴田教育長 アイヌの人たちの歴史・文化に関する研修について。道教委においては、初任段階教員研修や十年経験者研修などの経験年数に応じた研修において、地域や学校の実態、児童生徒の発達の段階に応じて、アイヌの人たちに関する指導が適切に行われるよう、授業実践例を紹介するなどして研修を行っているほか、道立教育研究所においてもアイヌの人たちの歴史や文化等に関する研修講座を開設している。
今後においても、こうした研修が一層充実するよう取り組むとともに、各学校において、教員が適切な指導を行い、アイヌの人たちの歴史や文化等に関する学習が効果的に行われるよう、指導方法に関する実践事例の紹介や、アイヌ教育相談員の積極的な活用などによって、道内の小・中学校の校内研修を支援していく考えである。
―再質問―
池端委員 教員に対する研修については十分に行われていることが答弁から理解することができたが、そんな中、教職課程を目指す学生に対して、どういった教育を行っているのか、例えば、道内大学の教職課程における、アイヌ民族・先住民族に関するカリキュラムを設定し、単位取得を義務付けるよう要請するなどの取組の考えはないのか、再度伺う。
柴田教育長 大学における取組について。昨年十二月に公表された中央教育審議会答申において、教育委員会と大学等が、教員の養成や研修の内容を調整するための制度として、「教員育成協議会」を設置し、例えば、養成、採用、研修に関する連携協力の在り方、また、養成カリキュラムと研修内容の相互理解、さらには、研修の協力の在り方などについて協議し、教員の主体的な学びを積極的に支援していく必要があるとの考え方が示された。
こうした国の動きなどを踏まえて、道教委としては、教員養成課程を設置する大学との連携の中で、アイヌの人たちの歴史・文化等に関する内容なども含め、学生に対して、本道教育への理解や、教師としての専門性の基盤となる資質能力を身に付けさせる取組が一層進められるよう努めたい。
(道議会 2016-05-13付)
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