近代美術館 特別展「片岡球子」 創造の“ひみつ”に迫る スケッチを主役に据え、本画も 20日まで
(道・道教委 2017-03-07付)

近代美術館「片岡球子」展
ダイナミックな本画約30点を展示

 道立近代美術館は、札幌生まれの日本画家・片岡球子が残した膨大なスケッチブックを初めて主役に据えた特別展「片岡球子 本画とスケッチで探る画業のひみつ」を開催している。同館所蔵の本画約三十点も合わせて展示し、両者を一堂に会することでみえてくる珠子の創造の秘密を探る。二十日まで。

本画も同時に

ときには破天荒と評されたほど、型破りな作風で知られている札幌生まれの日本画家・片岡球子(一九〇五~二〇〇八)。八十年に及ぶ長い画業の中で、ほとばしる自然のエネルギーを描き出した火山の絵、歴史上の人物の相貌を独自の視点でとらえた「面構」、日本の伝統芸能を取材し絢爛豪華な色彩を爆発させた雅楽・舞楽の連作など、球子は常に日本画の常識を覆す作品を発表し続けた。

そんなダイナミックな球子作品の根幹にあったのが、対象と真摯に向き合うことから始まるスケッチだった。

 スケッチブックの一端がようやく公開されたのは、球子が百歳のとき。平成二十六年から二年を費やした集中的な調査によって、小学校教師時代の初期から最晩年に至るまでに球子が描き続けた約三百五十冊のスケッチブックの全貌が浮かび上がることとなった。

 一群のスケッチは、球子の制作プロセスを読み解く貴重な資料であるとともに、一ページ一ページに画家の息づかい、描くことへの情熱、ときには苦悩が痕跡を残し、本画に劣らぬ迫力で観る者に迫る。

 膨大な数のスケッチブックを初めて主役に据える同展では、同館所蔵の本画約三十点も合わせて展示し、両者を一堂に会することでしかみえてこない球子の創造の秘密を探る。

 小学校の教員時代に描かれた教え子のスケッチは、一人ひとりの個性や感情の描出に主眼がおかれ、人間の内面に肉薄しようとする片岡芸術の基本姿勢がすでにうかがえる。球子の人へのまなざしは長い教師時代に培われたと思われる。

描く対象は、次第に身近な教え子から広がり、行者や尼僧など仏教を信仰し精神性を深くたたえた人物像など、独特の緊張感をまとった人物像に挑むようになる。《雄渾(祈禱の僧)》もそんな作品の一つ。厳しい表情を浮かべる顔貌ときつく印を結ぶ両手ははっきりとした線で表し、法衣は線を塗りつぶすかのような勢いで彩色することで、行者の意志の強さとあふれんばかりの気迫を描き出している。

 球子生来の色彩感覚は、伝統芸能の歌舞伎や雅楽との出会いで花開いた。展示の《還城楽》、《舞楽・二の舞(老夫婦)》等の本画は、スケッチでのイメージがそのまま生かされ、色と文様が躍動する強烈な絵画空間となり、球子独自の雅楽の世界を現出させている。

本画《歌舞伎南蛮寺門前所見》は現実の舞台とは異なる、球子の創造した桃山時代のキリシタンのイメージ。現実そのままを引き写すのではなく、古典などの研究を踏まえて自らの想像力を飛翔させ、イメージをつくりだす契機となった。

 一九六六年、球子が六十一歳にして取り組み始めた《面構》シリーズでは、その相貌に表出した人物の生きざまに着目。遠くを見つめる老年の葛飾北斎の顔には、森羅万象あらゆる対象を描いてきた偉大な浮世絵師の達観の境地が表れている。

 《阿波風景》は、徳島の阿波踊りが主題で、制作のための大量のスケッチが遺されている。「女踊り」「男踊り」の所作や躍動的な姿、コミカルな表情。さらに鳴り物や編み笠、浴衣や手拭の波涛文様。風景も、雲湧く空や波の渦巻く海、起伏に富む島々などが細やかに描かれている。

一九六一年の個展で球子は《洞爺湖の羊蹄》《ベロニーテの山》など、前年に北海道で取材した火山の絵を発表。スケッチブックには昭和新山が何枚も描かれており、噴煙を上げ、今、隆起したかのような生動感を宿す。

 北海道でのこうした取材から火山行脚が始まり、行き着いたのが富士。富士信仰の源流をさかのぼるかのように、火の山としての息吹をたたえた山容を描いた。数多くのスケッチでも、山肌の険しい起伏をマジックインキなどでダイナミックに描出し、白のアクリル絵具を用いたスケッチではあたかも山頂の起伏を指でなぞるような筆致で描いている。

二十日まで。十三日休館。観覧料は一般一千円、高大生六百円、小中生三百円。

 問い合わせは、同館(〇一一―644―六八八二)まで。

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近代美術館「片岡球子」展・スケッチ
球子の息づかい、情熱が伝わるスケッチ

(道・道教委 2017-03-07付)

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