【新春インタビュー】道教委・柴田達夫教育長に聞く―未来見据えた北海道づくり継承 教育の役割ますます重要に(道・道教委 2018-01-01付)
本道教育の充実・発展に向け意欲を語った
新年を迎え、道教委の柴田達夫教育長に、新しい北海道総合教育大綱を踏まえた教育行政に臨む姿勢、学習指導要領改訂への対応、教員の働き方改革などについて聞いた。
◆〝ふるさとキャリア魂〟発展 地域と連携、学校の特色生かし
―道教委は、二十七年度から三年間、「小中高一貫ふるさとキャリア教育推進事業」に取り組み、二十九年秋には、事業の集大成となる北海道キャリア教育サミットを開きました。三年間の事業を振り返り、その成果などをお聞かせ下さい。
「小中高一貫ふるさとキャリア教育推進事業」は、子どもたちが生まれ育ったまちや地域の自然、歴史、産業などに興味・関心をもち、小中高十二年間の学習を通して、自分の在り方・生き方をみつめるという教育を実践させたいという想いからスタートしたものです。
道内の小・中・高校合わせて五十校を研究指定校とし、二十七年度から二つのプロジェクトを柱に取り組んでまいりました。一つは、地域のよさや地域で生活することの意義についての理解を深める「地域ダイスキ!プロジェクト」、もう一つは、将来、家庭をもち、子どもを育てることの意義についての理解を深める「子どもダイスキ!プロジェクト」です。
例えば、羅臼町の豊かな自然環境を生かしたクマ学習、大樹町ではJAXAと連携した「宇宙のまちづくり」、平取町ではトマトを使った食育、北広島市や弟子屈町では乳幼児とのふれあい体験など、地域ごとに様々な取組が行われてきました。
道教委としては、事業を円滑に進めるため、二十八年十月には「小中高一貫ふるさとキャリア教育推進連携フォーラム」を開催し、本事業が地方創生につながるものであることや学校への支援等について、首長や振興局長にご理解をいただいたところです。
また、本事業の集大成として、昨年十月には「北海道キャリア教育サミット」を開催し、研究指定校の子どもたちが、これまでの学習成果の発表や、地域について考えたことなどについての意見交換を行いました。
事業を通して子どもたちからは「地元のことをより好きになって、将来、地元のためになるよう新たな目標をもつことができた」「まだまだ地域について知らないことが多く、今後も学び続け、自信をもって地域をPRしていきたい」、また、大人からは「学校の取組に関心をもつことで、子どもとの会話の時間が増えた」「地域で学べることは多岐にわたっている、可能性を感じる事業である」などの意見がありました。
こうした地域の特色を生かした三年間のキャリア教育の取組によって、他者の個性を理解し、コミュニケーションを図ろうとする力や、自らが果たすべき立場や役割との関連を踏まえて、主体的に判断していく力など、一人ひとりの社会的・職業的自立に向け必要な基礎的・汎用的能力の伸長が図られたなどの成果があったと考えています。
今後、現在の研究指定校については、引き続き、地域との連携体制を維持し、北海道独自の「ふるさとキャリア教育」を牽引し続けていただくことを期待しており、これから本事業と同様のキャリア教育に取り組もうとしている地域や学校に対しては、実施の手引きを作成し、配布することを考えています。
本事業は本年度をもって終了することとなりますが、来年度に向けて、こうした「ふるさとキャリア魂」を引き継いだ事業を検討しているところであり、地域の産業や特色などとのかかわりの中で高校の魅力や専門性を生かした取組となるよう考えているところです。
◆教育大綱の理念を実現 知事部局と手を携え各種施策
―新しい北海道総合教育大綱の決定を受け、どのような姿勢で教育行政に臨むのか伺います。
昨年十月に、本道の教育の目標や施策の根本となる方針を定めた北海道総合教育大綱が、知事によって策定されました。
今回の策定は、二十七年に最初の大綱が策定されて以降、初めての改定で、三十年四月から施行されます。策定に当たっては知事と教育委員で構成される総合教育会議が三回開催され、北海道の人材育成の在り方や大綱の内容について率直な意見交換をさせていただきました。
これらの協議を経て、新しい教育大綱では「その先の道を切り開く北海道人」を地域で大切に育むことを基本理念とし、この基本理念のもと、知事部局と教育委員会が連携して取り組む五つの基本方針と関連施策が示されました。
この基本理念で目指すべき人材として示された「北海道人」とは、「北海道に思いを寄せる」「社会で自立し共に支え合う」「未来を切り拓く」人を表し、大綱では、これらの人材を地域で大切に育むことで、北海道総合計画の目指す姿である「輝き続ける北海道」につなげていくことを目指しています。
本道は全国を上回るスピードで進行する人口減少によって、地域の担い手不足や労働力人口の減少が進んでおり、広大な北海道を維持し、次代につなげていくための人づくりの重要性がこれまで以上に高まっています。また、人工知能をはじめとする技術革新やグローバル化の一層の進展など、予測困難な変化の激しい社会において、多様な人々と協働しながら新たな価値を創造する人材の育成が求められています。
こうした中、北海道総合教育大綱で示された基本理念は、北海道が総力を挙げて取り組むべき人材育成の重要な指針であり、本道の教育を担う行政機関として、基本理念の実現に向けて関係機関と連携し、教育行政を推進してまいります。
特に、知事部局との連携につきましては、二十七年度以降、知事と教育委員による総合教育会議のほか、担当部局においてもより一層の連携強化に努めており、コミュニティ・スクールの推進、国際理解の促進、幼児教育の振興等の六つの連携チームが設置されてきました。今後も、知事部局との連携を強化し、教育大綱のもと、施策の方向性を共有しながら、各種施策に取り組んでまいります。
また、道教委では、本道の教育振興のための施策に関する基本的な計画である「北海道教育推進計画」の計画期間が二十九年度で終えることから、三十年度以降の新しい教育計画の策定について検討を進めています。本年は教育大綱で示された理念を踏まえ新しい教育計画を策定するとともに、ふるさと北海道をつぎの世代にしっかりと引き継いでいくための人づくりに向けて、学校・家庭・地域・行政等が一体となった教育行政の推進に取り組んでまいります。
◆信頼される学校づくりを 新学習指導要領移行へ支援
―幼稚園教育要領と小・中学校の学習指導要領が改訂され、三十年度から幼稚園は全面実施、小・中学校は移行期間に入ります。道教委として、これまでどのような取組を行い、今後、どのように学校を支援していくのか、お聞かせ下さい。
未来において、子どもたちがよりよい人生とよりよい社会を築いていくためには、子どもたちの成長を支える教育の役割がますます重要となっています。
このような中、昨年三月に告示された新学習指導要領等においては、教育基本法などを踏まえ、これまでのわが国の学校教育の実践や蓄積を活かし、子どもたちが未来社会を切り拓くための資質・能力を一層確実に育成することが基本的な考え方として示されたところです。
特に、〝よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創る〟という目標を学校と社会が共有し、連携・協働しながら、新しい時代に求められる資質・能力を子どもたちに育む「社会に開かれた教育課程」の理念のもと、「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善や、教育課程の実施状況に基づく改善などを通して、教育活動の質を向上させ、学習の効果の最大化を図るカリキュラム・マネジメントに努めることが求められています。
そのため、各学校におきましては、学校の教育目標を含めた教育課程の編成の基本的な方針等を家庭や地域と共有していくことができるよう、学校経営方針やグランドデザイン等を策定し、効果的に公表を行うなど、保護者や地域に信頼される学校づくりに向けた取組を一層推進することが重要であると考えています。
道教委としては、これまで、各学校の管理職や各管内の中核となる教員等を対象とし、全道一会場の新学習指導要領等に関する説明会や、全道十二会場の教育課程編成協議会において、改訂の趣旨やポイント等についての説明やカリキュラム・マネジメント等に関する演習、協議などを行ってきたところです。
また、学習指導要領の改訂に伴う移行措置の内容や小学校における時間割編成の考え方などを整理した指導資料を作成し、道教委のWebページに掲載するとともに、新学習指導要領等の趣旨を踏まえた教育課程の適切な編成・実施に向けた『教育課程編成の手引』を作成し、全道のすべての小・中学校の先生方に配付したところであり、今後は、こうした資料を活用するなどして、各学校が全面実施に円滑かつ適切に対応できるよう、指導主事の学校訪問等で学校の実情に応じた指導助言を工夫するなど、きめ細かな支援に努めてまいります。
◆働き方改革を着実に推進 アクション・プラン通して
―教員の働き方改革について、道教委の今後の方向性を伺います。
道教委では、二十一年度に「教育職員の時間外勤務等の縮減に向けた取組方策」を策定し、学校等の事務処理体制の改善、部活動指導の実施体制の検討など、六つの基本方向に基づいて、定時退勤日等の徹底、部活動休止日の設定などの取組を進めてきました。
こうした中、道教委が二十八年度に実施した教員の勤務実態調査では、一月当たりの時間外勤務が八十時間を超える者の割合が、教諭については、小学校で二割、中学校で四割、高校で三割を超えています。
また、教頭に至っては、小・中学校とも七割、高校で六割を超え、特別支援学校では三割となっていることや、部活動にかかる教諭の従事時間が全国平均よりも長いことなどの課題が明らかとなっています。
国においても、勤務実態調査の結果を受けて、学校における働き方改革の議論が進められており、昨年八月に中教審の特別部会で「学校における働き方改革にかかる緊急提言」が公表されました。
こうしたことから、道教委では、調査結果から要因や背景などを分析するとともに、国や都府県の動向を踏まえ、外部有識者や教員、PTAなどで構成する「時間外勤務等縮減推進会議」で議論しながら、教員が本来担うべき業務に専念できる環境の整備や、部活動指導にかかわる負担の軽減などの具体的な施策の検討を進め、学校における働き方改革「北海道アクション・プラン」を年度内に作成し、取組を一層推進してまいります。
中でも、部活動については、近年、土日に開催される大会や地域の行事への参加要請などが増えていることや、子どもたちの意欲や地域の期待などから休養日の取組が徹底されていないことが指摘されています。生徒の安全面、健康面の観点からも休養日の設定は極めて重要と考えており、今後、関係団体、保護者、地域の方々などのご理解をいただきながら、部活動休養日の完全実施に速やかに取り組んでまいります。
学校における働き方改革を進めるためには、教育委員会が主体的に取組を進めていくとともに、教職員一人ひとりの意識改革を進めることが大切です。
道教委では、アクションプランの取組を通じて、各学校における働き方改革を着実に進めるとともに、取組が実効性のあるものとなるよう、教育委員会・学校・家庭・地域一丸となって取り組んでまいります。
―北海道教育の将来展望や将来を担う子どもたちへの期待についてお聞かせください。
三十年、本道は「北海道」と命名されてから百五十年目、節目の年を迎えます。
このことを機に、本道が積み重ねてきた歴史や先人の遺業を振り返り、感謝しながら、子どもたちには、つぎの五十年、また、その先を見据えた北海道づくりを継承していくことが期待されており、地域を支える人材の育成を担う教育の役割がますます重要となっています。
現在、本道においては、少子・高齢化や人口減少、グローバル化や高度情報化などによる社会の変化が、人々の予想を超えて進展しておりますが、次代を担う子どもたちに、こうした変化を前向きに受け止め、よりよい社会と幸福な人生を自ら創り出していく力を身に付けさせていくことが重要であり、このことは、まさしく教育の使命であると考えています。
道教委といたしましては、子どもたちが、ふるさと北海道に誇りと愛着をもち、互いに支え合い、たくましく生きぬいていくことができるよう、学校・家庭・地域・行政の緊密な連携を図りながら、本道教育の充実・発展に取り組んでまいりますので、道民の皆様の変わらぬご理解とご協力をお願いいたします。
―ありがとうございました。
(道・道教委 2018-01-01付)
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