道産業教育審議会―産業教育への建議(道・道教委 2018-03-15付)
道教委は、第二十六期道産業教育審議会がまとめた「本道におけるグローバル人材の育成に向けた産業教育の在り方」建議を公表した。柱は「グローバル社会に対応できる資質・能力等」「学校と社会とを円滑に接続させる人材育成システムの構築」。企業・産業界、地域、保護者など多様な人々と連携して必要な資質・能力などを育成する「社会に開かれた教育課程」の実現、日常会話から専門的な知識・技術を説明できる程度まで英語を段階的に指導し、外国語に慣れ親しませる指導の工夫改善などを提起している。
第二十六期道産業教育審議会建議の概要はつぎのとおり。
◇
【グローバル社会に対応できる資質・能力等について】
◆英語力、ICT活用能力、高度なコミュニケーション能力など、すべての学科で共通して育成すべき資質・能力等について
▼現状と課題
情報化やグローバル化といった社会的な変化の中、高校を卒業して就職する生徒の割合が高い本道の職業学科の生徒には、これら社会の変化にいかに対処していくかという受け身の観点からの指導にとどまるのではなく、変化を前向きに受け止め、本道の社会をより豊かなものとするため、現在では思いもつかない新しい発想のもとに、未来の姿を構想し実現していくことができる資質・能力等を身に付けさせることが必要である。
このため、今後の本道の職業学科においては、学んだ専門的な知識・技術等を地域にも国際社会にも生かしていこうとする高い志をもち、関係する地域の産業について世界とのかかわりから理解を深めることや、課題を整理し主体的に解決に取り組もうとする力を育成するなど「北海道に求められるグローバル人材」の育成に向けて取り組むことが求められる。
これまでも本審議会では、グローバル人材の育成を意識した産業教育の充実の観点から答申等を行ってきたが、今期の審議会で調査した結果からは、これらを受けて道内の専門高校がグローバル人材の育成を意識した資質・能力等の育成に十分取り組んできたとは言えないことが分かった。
幼いときからパソコンやインターネットにふれる機会があった現代の生徒の状況としては、スマートフォンを用いてSNSを使いこなすなど、ICT機器を活用したコミュニケーションには長けているものの、対面時に自分の意見をもち論理的に話すなどのコミュニケーションを円滑に行うことができないという面も有している。
また、道内の産業界などからは「専門高校を卒業する生徒の求人において、特に英語力は求めていない」との意見もあるが、本道の産業においては、例えば、海外向け道産食材の販売や外国人観光客への対応、AIやIoTなどの先端技術の導入などが現実的に必要となってきていることから、本道の専門高校においても、こうしたグローバル社会に対応した資質・能力等の育成を喫緊の課題として受け止め、企業・産業界、地域などと目標を共有して人材育成に取り組むことが必要である。
このように、これまでの専門高校では、各専門教科に関する知識・技術等の習得に重点を置くあまり、社会や産業界の変化を俯瞰した技術等の進展への対応や、様々な価値観をもつ他者との合意形成を図るためのコミュニケーション能力の育成、地域社会などの課題解決へ向けた取組に課題がみられる状況にある。
▼今後取り組むべき方策等
今後においては、身に付けた専門的な知識・技術等をどう活用するかについて、教育課程に位置付けて取り組んでいくことが必要であり、特に、職業学科における学習は、社会と直接接続しているところに大きな魅力があることから、企業・産業界、地域、保護者など多様な人々と連携し、産業教育の充実が地域産業の発展につながるよう、必要な資質・能力等を協働して育成していく「社会に開かれた教育課程」を実現していくことが大切である。
さらに、高校生として地域に誇りをもち、地域と積極的にかかわろうとする姿勢を身に付けるため、地域の教育資源などを生かして行う体験的活動では、各職業学科の専門的な資質・能力等を高めることだけを目的とせず、生徒の自己肯定感を高めるプログラムを取り入れることを通して、地域を支える一員になろうとする意欲を喚起することが大切である。
例えば、道内で起こった自然災害による甚大な被害の状況を報告し合い、考えた対策について意見交換することや、人だけではなく家畜を含めた感染症対策について専門家から助言をもらうことなど、地域社会などの課題解決に向けて主体的、積極的に取り組もうとする意識を醸成することなどが考えられる。
なお、専門高校が地域社会などの課題解決に取り組む場合には、同じ学校内に設置されている学科間で連携してチームを編成するなど、学校のもつ強みを生かしながら、ものづくりや商品開発を通して課題解決に当たることが大切である。同様に、課題の内容に応じて、地域にある農業科と商業科などの専門高校間で連携した取組を行うことも有効である。
▽英語力にかかわる方策等
グローバル人材の育成については、特に、諸外国との交流に関する学習活動をイメージしがちであるが、異文化コミュニケーションという観点からは、外国人観光客や国内で生活する外国人への対応などに関する学習活動もグローバル人材の育成につながるものである。自分とは違った価値観や考えをもった人の話を聞き、理解し、自分の考えをもち、伝えるなどの学習活動を、専門教科の学習に取り入れることが大切である。
また、職業学科においては、専門性の向上に加え、多様な他者とのコミュニケーションを図ることができるよう、英語力の向上に取り組むことが大切である。例えば、農業科では、道の農畜産物などの輸出促進施策を踏まえ、商品の特徴や生産工程を英語で説明できることや、工業科では、製品の英語マニュアルを理解し、諸外国の技術者と意見交換ができること、商業科では、諸外国の人に商品を紹介しながら販売できることなど、生徒に具体的な職業をイメージさせ、仕事の現場で活用できる英語力を身に付けさせることなどが考えられる。
本道の産業界の中には、専門高校の生徒に対する英語力へのニーズは高くないとの意見がある一方、道内の一部の企業では、様々な機会を通じて自社開発製品を海外に紹介することが増加傾向にある。このような対応については現在、多くの場合通訳を介しているが、あいさつはもとより、定型的で平易な表現であっても製品や商品の説明を自ら英語でできるよう、専門教科の中でも取り組むことが大切との指摘がある。
このようなことも踏まえると、専門高校生の資質・能力等は多様化しているものの、自校の生徒の状況や教育課程を踏まえ、相手と日常会話が交わせる程度の英語から、専門的な知識・技術等を説明できる程度の英語まで段階的に指導していくことが大切である。
このような学習活動を行うに当たっては、ALTを活用した専門科目の授業、校内掲示物における日本語・英語・韓国語の併用表記、JICAなどの研修生の受け入れ、留学生とのものづくり体験交流、海外の高校とインターネットを活用した交流、各専門教科クラブ大会やインターンシップ報告会などにおける外国語による発表など、外国語科教員の協力を得て、あらゆる機会をとらえて外国語に慣れ親しませ、外国語に対する苦手意識を取り除く指導の工夫改善が大切である。
また、北海道を訪問する外国人観光客が多い状況も地域の教育資源の一つとしてとらえ、観光地での販売実習や観光産業と連携したインターンシップの実施などに取り組むことも大切である。地域によっては、国際共通語としての英語だけではなく、中国語や韓国語などの外国語の指導についても検討することが大切である。
このように、専門高校で学ぶ生徒には、それぞれの専門性を高めるとともに、生活の中で英会話を身に付けることができるようにするほか、より実践的な会話力を身に付けるため、長期休業などを利用した短期留学の機会の拡大についても、学校と行政が連携して取り組むことが大切である。
▽ICT活用能力にかかわる方策等
職業学科におけるICT活用能力を育成する指導においては、ソフトウエアの利用方法にとどまっている事例が多いことが課題の一つとして挙げられる。また、企業の現場では、報告書として作成した情報を読み解くことができない、目の前にあるデータをそのまま伝えるだけで相手を納得させるプレゼンテーションができないなどの課題も指摘されている。
このことから、専門教科の指導においては、情報の信頼性を判断し、データとしてどう活用するかなどの論理的な思考力や表現力を育成するよう、指導内容を工夫改善することが大切である。また、ICT機器なども効果的に活用することで、教室にいながらにして国内はもとより、世界中の企業や大学などと意見を交換することも可能となる。このような学習活動を通して、最先端の理論や技術にふれる機会を充実することも大切である。
今後の産業技術の高度化等を踏まえると、専門高校で実践的なICT活用能力を育成するための実習環境として、通信回線とICT機器の両面からの整備や、BYOD環境の構築などについて、道教委が積極的に検討していくことが非常に重要である。
▽高度なコミュニケーション能力にかかわる方策等
専門高校においては、英語力やICT活用能力を生かした高度なコミュニケーション能力を将来にわたって身に付けさせるため、その土台となる、相手の話を傾聴する力や情報を正しく相手に伝える力のほか、あいさつや話し方などのビジネスマナーを体得させておくことが大切である。
職業学科では、実習などの各場面において複数の教職員から指示を受けることや、生徒間で課題解決に向けたテーマを設定し、話し合うなどの授業を通して、コミュニケーションの重要性を理解させるとともに、企業などにおける体験的な学習活動を通して、例えば、上司の指示への対応や客への応対などを、ジョブシャドーイングの手法も用いながら習得できる機会を設けることが大切である。
高度なコミュニケーション能力は、実際に社会に出てから発揮されるものであることから、専門高校は、企業や関係団体と一体となって、そのような能力を身に付けた人材をどのように育成するかについて協議しながら、指導の工夫改善を図ることが大切である。
また、各職業学科の専門性を高める教育の中で、国際共通語としての英語を中心とした語学力や、スマートフォンを含め、ICTを活用したコミュニケーション能力を高めるとともに、インターネットによるコミュニケーションシステムを活用するなどして、諸外国や他地域の高校生と相互の課題について意見交換を行うことによって、高度なコミュニケーション能力の育成に取り組むことも大切である。
◆各学科で育成すべき専門的な知識・技術等について
▼現状と課題
北海道の基幹産業である農業や水産業では、地域の自然環境や技術力を生かして、野菜の栽培が難しい地域へのレタスの出荷や、ホタテの養殖や加工などを行っている例がある。このような北海道ならではの魅力ある付加価値の高い商品や製品などを生み出す技術力を、職業学科で学ぶ生徒が受け継ぎ、発展させることが必要である。
職業学科においては、将来の北海道の産業を支えていくため、関連する職業に従事する上で必要な資質・能力等の育成にかかわる目標を、学校が地域や企業などと共有し、相互に協力しながら取り組むことが必要である。例えば、生徒自らが地域の課題を発見し、職業学科で学んだ専門的な知識・技術等を生かして解決の方向性を検討・立案し、実行に移すなどの学習活動を行うなどして、課題解決能力を身に付けることができるよう、教育内容の工夫改善を図ることが重要である。
▼農業に関する学科
世界的にも食品の衛生管理や安全確保への意識が高まる中、例えば、GAPに関する学習にみられるような国際的に通用する認証を取得できる資質・能力等を育成するなど、農産物の輸出拡大などに対応した農業を担う、国際感覚と経営感覚を兼ね備えた人材を育成することが大切である。
▼工業に関する学科
日本の製造業が国際的な展開を図り、高い評価を受けてきたことを踏まえ、専門科目の学習において、輸入製品の取扱説明書などを読み解くことや、世界の製品を比較し、特徴や使われている技術を英語で説明することなど、専門的な知識・技術等に関するコミュニケーション能力を向上させることが大切である。
また、身に付けた技術は海外でも通用することから、「技術は世界の共通語」であるとの視点に立ち、工業技術に関する新しい知識・技術等を生涯にわたって獲得していく態度を育成することが大切である。
▼商業に関する学科
経済のグローバル化の進展に対応するため、例えば、わが国における食糧・環境問題、技術革新、経営、物流などをテーマにした課題を具体的に設定し、ビジネスを取り巻く状況を踏まえ、新たなビジネスモデルを創造する学習に取り組むことが大切である。
また、商業に関する学科では、履修させる専門科目の中に、外国語に属する科目の単位を五単位まで含めることができると学習指導要領で定められていることから、ビジネスの諸活動における外国人との対応や商談などで用いられる英会話について実習するなど、具体的なビジネスの場面を想定した学習内容となるよう工夫改善することが大切である。
▼水産に関する学科
日本は主要な遠洋漁業国の一つであると同時に、世界的な水産物の消費国であることから、適切な水産資源の管理や持続的な利用に関する学習に取り組むことが大切である。
特に、食の安全や資源管理に対応させる観点から、国際的な衛生管理(HACCP、ISO22000など)に関する学習や、船員養成の国際基準(STCW条約など)に対応した資格取得などを通して、水産業および海洋関連産業のグローバル化に対応した人材を育成することが大切である。
▼家庭に関する学科
日本の食文化やファッションについての情報発信を通して、世界の文化や仕事へとつながっているとの意識を醸成し、世界の舞台で活躍できる能力や異世代・異文化の人々とコミュニケーションを図ることができる能力を、専門的な知識・技術等と併せて育成することが大切である。
▼看護に関する学科
看護師として、臨床の最前線に立つ人材を育成することが必要なことから、実際の看護の場で外国人労働者とともに働くことや、多様な患者への対応などの実践力を養う学習を充実させることが大切である。
▼福祉に関する学科
職場における外国人労働者との業務がますます多くなっていくことが予測されることから、介護場面の実践力として、必要な意思疎通を図る英会話力を育成することが大切である。また、福祉用具や介護ロボットなどの新しい福祉機器を活用した学習を充実させることが大切である。
【学校と社会とを円滑に接続させる人材育成システムの構築について】
◆グローバル社会に対応できる資質・能力等を育成するための地域や企業および大学等と連携した教育課程の編成・実施について
▼現状と課題
グローバル社会に対応できる資質・能力等の育成については、学校の中だけで完結するものではなく、これまで本審議会でも提唱してきた「地域の人材は地域で育てる」との理念をあらためて学校や行政機関、企業、関係団体、大学、地域などで共有し、連携して取り組むことが必要である。
これまでも多くの専門高校が企業などと連携し、インターンシップや課題研究などに取り組んでいるものの、部分的な協力関係にとどまっており、学校と企業等の双方が目指す人材の育成について、どのような役割分担が考えられるかなど、具体的な情報共有や実効性ある取組等には至っていないなどの課題がある。
特に、インターンシップの実施については、前例踏襲が前提となっている傾向にあり、個々の生徒の資質・能力等の伸長にどの程度の効果があったかなどについて、検証が十分行われていないなどの課題もある。
▼今後取り組むべき方策等
専門高校では、地域の関係機関や企業・産業界などと連携して、例えば「地域人材育成会議」を設置し、校内で行う実習などの内容や指導方法が産業現場に直結したものとなっているかなど、実態に即した教育課程の編成・実施について定期的に意見交換の機会をもつことが大切である。
学校において、教育課程を編成・実施する際には、今日、企業活動がすでにグローバル社会の中で行われていることを踏まえ、地球規模で考え地域視点で行動するグローカルの視点をもつことが大切である。
例えば、地域産業や地域経済について調査を通して理解を深めることや、地域が抱える課題の解決方策について考える学習に取り組むことなど、地域をフィールドとした教育課程の編成・実施となるよう、不断に点検しながら工夫改善に取り組むことが大切である。
また、生徒の指導に当たっては、学校で学んでいることが実社会に出たとき、どのような場面で、どのように必要になるのかを知ることが学ぶ意欲を高める上で大切であることから、一年生の早い段階から、これから学ぼうとしている学習について理解するガイダンスなどに計画的・系統的に取り組むことが大切である。
さらに、インターンシップを含む体験的な学習活動については、今学んでいることが、この先どのような仕事に生かされ、今後どのような知識・技術などを身に付けることが必要になるのかについて、生徒が実感できるよう、学校と企業が意見を出し合いながら実施することが大切である。
インターンシップの実施においては、学校側と企業側のマッチングや連絡調整に、キャリアプランニングスーパーバイザーを積極的に活用するなどして、双方で成果の得られる体験的活動を実現することも大切である。
これまで実施されているインターンシップでは、体験が可能な企業の中から選択するメニュー型が中心だったが、今後は生徒の主体性などを育成する上でも、生徒自らが体験したい企業を探し、連絡し、依頼する自己開拓型のインターンシップにも取り組むことが大切である。
このため、学校においては、日ごろから校内の掲示板等に受入先企業の情報を掲載するなど、生徒が企業情報に日常的にふれる機会を設けるなどの工夫を行うことが大切である。
また、「地域の人材は地域で育てる」ことのファーストステップとして、地域ぐるみによる人材育成の視点から、専門高校と企業・大学・関係機関などが連携して、インターンシップの検証・評価を行うことが大切となるが、地域によっては必ずしも学科と直接関連する企業や大学等が近くにないなど、実践的・体験的な学習を行う上での課題も想定されることから、長期休業などを利用して、生徒が積極的に活動の場を広げるよう働きかけることも大切である。
◆早期離職を減少させる方策について
▼現状と課題
本道においては、高校を卒業して就職後三年以内に離職(以下「早期離職」という。)する生徒の割合は、ここ十年の間、五〇%前後の数値で推移しており、全国平均を上回る状況にある。
早期離職の理由としては、業務上のミスに対する叱責を厳しさとして受け止めてしまい、「会社での厳しさについていけない」と考えてしまう例や、仕事に対する充実感よりも、人間関係や仕事内容のストレスが上回ってしまい離職する例が多いことが指摘されている。
このほか、「仕事がイメージと違った」「仕事が大変である」などの漠然とした理由も多くあり、自分は企業で何ができるかではなく、企業が自分に何をしてくれるかといった感覚をもつ人が離職する傾向にあることがうかがえる。
このような理由のほかに、高校において専門性を身に付けたと感じている生徒が就職したときに、希望と異なる部署に就くこともあり、必ずしも学んだ知識・技術等を生かせないと思い、そこで夢と現実の違いから就業意欲が低下し、早期離職につながる例もあるなど、多様な生徒への対応が課題となっている。
▼主として企業が取り組む方策等
生徒が入社する前の取組としては、インターンシップを通して職種への理解を深め、適性を判断できるよう、例えば遠方の地域に住む生徒に対して、学校の休業中の受け入れや、インターンシップの複数化・長期化を検討するなど、入社の有無にかかわらず、専門高校の教育活動へ積極的に参画していくことが大切である。
生徒が入社前に受けた説明と、企業が実際に求める知識・技術等が異なることや、業務内容などに関する知識が十分でないまま就職することで、仕事に対する意欲が低下し、早期離職に至るケースもあることから、生徒や教員だけではなく、保護者も含めた応募前面談や企業説明会の開催など、企業側が責任をもって丁寧な説明をすることが大切である。
近年は求人倍率が高く、企業側の「人を確保すること」が優先され、実際に働く上での厳しさを伝えない傾向があることも早期離職の一因となっている。また、企業によっては人を育てる余裕がなくなっているとの声もある。
企業では、職場見学やインターンシップの際に、従業員の職場での経験やライフスタイルなどについて説明する場を設定するほか、会社の業務内容に関する説明を五分くらいの動画にまとめインターネットで配信するなど、スマートフォン世代の生徒に分かりやすく伝えるなどして、生徒が自社で働くイメージをもった上で応募できる取組が大切である。
中小企業では、仕事が多岐にわたることがあり、業務全般についてイメージできないことが早期離職につながることもあるため、会社説明会などの機会を通して、具体的な仕事の内容を伝えることが大切である。
また、入社後の取組としては、新入社員教育係だけに任せるのではなく、社内のあらゆる立場の社員とかかわりをもつ機会を設定することによって、新入社員が困ったり悩みを抱えたりした際に、自分の経験に基づいて相談に乗る体制をつくることのほか、経営者の経営理念をどう自分の業務に反映させていくかについて、新入社員を含めた数人単位で定期的にディスカッションを行うなどして、モチベーションの保持や自己効用感を高める取組が大切である。
さらに、企業側では、経営者層と今の生徒や保護者とで職業観や勤労観に対する考えの違いが年々大きくなっていると受け止めていることから、企業が学校や保護者と一体となって「仕事がきつい」「休日が友人と合わない」などの理由による安易な早期離職を防ぐ方策についても検討していくことが大切である。
▼主として学校が取り組む方策等
職業学科では、基礎・基本を重視した学習内容を精選して指導することや、あいさつや話し方などの基礎的なビジネスマナーに関する学習を充実させるほか、関係団体などが開催する労働関係法規の出前講座を活用し、働くに当たってのルールや制度を指導することも大切である。
その際に、知識だけではなく、卒業生からの体験談なども取り入れ、実社会を知る機会とすることが大切である。求職と求人のミスマッチを防ぐためには、生徒が求人票を通して企業にもつイメージと実際の業務に隔たりが生じないよう、求人企業に対し、積極的に応募前職場見学を実施していただくよう依頼することや、卒業生が勤めている企業を訪問し、直接体験談を聞く機会を設けるなどの取組を行うことが大切である。
また、インターンシップを実施しても、実際にその場ではミスマッチに気づくことができないまま就職してしまい、早期離職につながることもある。インターンシップ後の振り返りを十分行うことによって、生徒がどのような意識をもつことができたかなど、受入企業側にも報告し、仕事に向かう態度や適性について、企業側の評価を指導に生かすことが大切である。
就職したあとの生徒についても、状況を定期的に企業などと情報交換するほか、キャリアプランニングスーパーバイザーを積極的に活用するなどして、把握に努めることが大切である。就職した生徒が離職等に悩んだ場合、卒業後も学校が相談に乗ることなどについて、保護者や企業などには知られていないことから、事前に十分周知することが大切である。
キャリア教育を推進する教員の意識啓発を図るため、教員が自校のケーススタディーをもち寄った研修会を開催し、指導力の向上に努めることが大切である。
▼主として道教委が取り組む方策等
道教委は、学校と企業の連携・協働した取組を推進していくことができるよう、道産業教育振興会や道内経済団体のほか関係機関などと連携し、本建議に示した方策等の円滑な実施について協力を求めていくことが大切である。
早期離職については、企業側でもその本当の離職理由を掌握できていない状況にもあることから、離職者を対象とした調査を行うことのほか、企業などと連携して、入社後三年目までの社員に対して、就業を続けるに当たりこれまで力になったこと、離職を思いとどまった理由などについて調査を行い、早期離職の減少に向けた検討を行うことも大切である。
また、高卒者の職場定着に向け、職業選択の幅を広げる「高校就職促進マッチング事業」を活用し、経営者の講話や企業内で自己実現を図る方法等について従業者との意見交換を実施するなど、内容の充実を図るとともに、その成果を広く学校や企業に還元することが大切である。
さらに、学校に対しては、キャリアプランニングスーパーバイザーの活用やインターンシップの評価などについて提言を行ったことから、あらためてキャリア教育の一層の推進に向け、職業を通じて未来の社会をつくり上げていく視点を踏まえ、専門高校においても基礎的・汎用的能力の育成に向けた取組の充実を図るよう、指導助言していくことが大切である。
(道・道教委 2018-03-15付)
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